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君が好き??  作者: 尾花となみ
sideA:唯視点
36/56

36.お前、もう帰れ。

少し無理矢理表現が入ります。

 お昼も食べず最寄り駅についたけど、なんとなく家にまだ帰りたくなくて駅周辺をブラブラ。お腹も空いたし、昨日熱出した事を考えれば午後の講義をサボった事を特に説明する必要もなく平気そうだけど、どうしてもなんかまだ家には帰りたくなかった。


 慶……友達と楽しそうにしてたな。なんて今日の慶の事ばっかり考えちゃってウィンドウショッピングも全然楽しくない。

 なんかもう自分ではどうしようもない気分の時は流されるまま行ける所まで行っちゃおうかなぁなんて思うけど、そう言う時って言うのは悪い運勢を運んできちゃうんだよね。うん。(ってダジャレじゃないよ?! オヤジギャグじゃないよ?!)


「……唯、ちゃん?」男の人に急に呼び止められ、目を瞬かせる。

「やっぱり、唯ちゃん。偶然だね」そう言って小走りで少し控えめに近づいてきたのはモトカレ……児玉くんだった。

 考えたら目の前にバイトしていたレンタルショップがあって。そりゃぁ会っちゃっても不思議じゃないよね。

 児玉くんとの事警戒して避けてたはずなのに、普通に目の前通っちゃうなんてやっぱりちょっと心行方不明だったみたいです。


「もう何もしなから、ちょっと話せる?」そう言って悲しそうに笑った児玉くんが昔の、お友達の時の児玉くんに見えてつい頷いてた。

「バイトじゃないの?」

「……うん。俺も辞めたんだ。今日はその最後の挨拶」

「そっか……」って会話続かないんですけどぉ。


 軽食も出してくれる近くのカフェに移動しながら気になってバイトの事を聞いたはいいけど、なんかやっぱり微妙な空気が漂っております。

 まぁそりゃそうか、楽しく出来る話でもないか。


「……で、話って?」が、しかしこの台詞を言うまで約30分かかりました!

 無言のまま移動してー、無言のままサンドウィッチとカフェオレ注文してー、無言のままサンドウィッチ食べてカフェオレ飲んでー、で、ちょっとやることなくなったので聞いてみた。


「…………」それでも返事なし。って児玉くーん。ヤバイストーカーの次はヘタレ男ですかぁ? どうしたらいいのよこの雰囲気。

 耐え切れなくなって児玉くんから目を逸らし窓を見る。道路に面した大きなガラス窓をぼんやり眺めていると何気ない人の流れに紛れ、それでも逆らいこちらに向かって来ているような人影が写った。

 でもまた人混みに紛れ見えなくなって、あれ、気のせいだったかなぁ? なんて首を傾げていたら名前を呼ばれた。


「唯ちゃん。あの時は本当にごめんね。ちょっと俺どうかしてたよね……。本当はずっと謝りたかったんだけど……なかなか機会がなくて」真剣に私を見つめ謝罪する児玉くんから目が逸らせなくなって窓の外の事は引っ込めた。


「俺、本当に唯ちゃんの事が好きだったんだよ。でも……唯ちゃんの気持ちが分からなくて、ずっと距離が縮まらない事に焦っちゃって……。そしたら拒絶されちゃっただろ? もうなんか訳わかんなくて悔しくなっちゃって……本当ごめん」一生懸命言葉を探し訴えかける児玉くんに私はうんうんと頷くしか出来なかった。


 やっぱりきっと追い詰めてしまったのは私なのかな……。傷つけてしまったのは私なんだね?

 打算で付き合い出した相手に一生懸命になれる訳なくて……。好きになれるかも? なんて思ったけど心はずっと慶を追い求めてて、そんな私の気持ちがきっと児玉くんにはばれていたんだね。


「……ごめんなさい……」謝られていたはずなのに、気がついたら謝ってた。

 児玉くんがびっくりした顔して唯ちゃんが謝る必要なんてない! って言ってくれたけど、胸に燻った《くすぶ》罪悪感は消えてはくれなかった。


 ひたすら謝る児玉くんと別れ家の前まで行くと、慶が待ち伏せしてた。

 自分の家の前じゃなくて、隣の私の家の前で塀に寄りかかってる。遠目でもイラついているのが分かるぐらい……真っ黒なオーラが見えますけどぉ!


「ど、どうしたの慶?」私が近づいてきてたの気付いてただろうに、知らん顔してる慶を無視して家に入っちゃおうかって思ったけど……すいません、やっぱりシカト出来ませんでした。


 朝みたいにまたチッて舌打ちすると私の腕を掴み強引に富樫家の方へ。そのまま引きづられるように慶の部屋まで連れて行かれベットに放り投げられた。

「っちょっ!」手を後ろにつき慌てて起き上がろうとするけどそれより先に慶が覆いかぶさって来て……乱暴に唇に噛み付かれた。


「んっ、やだ! 慶?」すごく乱暴で怖くて、らんらんと輝く獰猛な瞳から逃げたくて体を押し返すけどびくともしない。

 押し返したことが気に入らなかったのか、その両手を顔の横で強引に縫いとめられると今度は耳元に噛みつくかの様に唇を寄せしゃぶられた。舌先を滑らし淫らな音を生み出す行為に自分の意思とは関係なく背中がゾクゾクする。


「や、あっ、やだ、んんぅ、やだぁ」一言もしゃべらない慶が慶じゃないみたいで、人の気持ちを無視して推し進める慶が慶じゃないみたいで、涙が溢れた。

 こんな風に強く押さえられたことがなくて、急に慶は男の人なんだって思って恐怖心が産まれる。


 最近何度もこうやって両手を掴まれたけど、その時々は全部優しかった。ソファーに倒された時も。壁に縫いとめられた時も。今と同じベットで横になった時だって、こんな風に掴まれて痛いなんて思う事なかったのに。


「慶、けい、やだぁ。やめて」腕の痛さに、慶の怖さに思考が乱されている間もその執拗な攻めは収まらなくて、体中が揺れる。

 お腹の奥がズクズクして、気がついたら膝を少し立てもぞもぞと太ももをこすり合わせてた。


「はんっ! いやいや言いながら感じてんの?」馬鹿にしたような慶の声が聞こえて瞳を開けると、耳から離れた慶がいやらしく濡れた口元をテカテカと照らし私を見てる。

「本当はその気になってんじゃねぇの?」今まで見たこともないような冷たい瞳にまた涙が溢れた。


「それとももう児玉としてきたわけ?」吐き捨てるように言った台詞の意味が分からなくて私はひたすら首を横に振る。まだ両手は押さえられたまま痛い。

「……午後休講してまでなんであいつと一緒にいたの?」私の顔を見ないでボソッと紡ぎ出された言葉に私はまた思いっきり首を振る。


「ちがっ、あれは、偶然会って……謝りたい、って言う、から……」溢れる涙に呼吸が乱れ途切れ途切れにどうにか言い訳すると、やっと両手を離してくれた。

 私の上からも退くと慶はベットに胡坐かく。そして自分の髪の毛をクシャクシャと力込めて乱すと、力なく小さく首を振る。


「お前、もう帰れ」そう言って私の方を見ようともしない慶から逃げるように私は富樫家を飛び出した。乱れた髪を撫でつけ、どうにか笑顔を作って家に帰ったけど、お母さんがいないって分かったら押さえていた涙がまた零れ始めた。


 自分の部屋でハートクッションを抱え込み声を押し殺して泣いた。

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