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君が好き??  作者: 尾花となみ
sideA:唯視点
35/56

35.この選択でいいんだよね?

 次の日、最近の日課になってたように一緒に大学に行く為に慶が迎えに来た。……けど、その慶さんはなぜか頬が腫れて赤い。

「……どう、したの? そのほっぺ……」

「別に」私の方をチラリとも見ずに不機嫌そうに言うとさっさと歩き出した。


 なぜかすっごい空気が微妙で、無言で二人テクテクと歩いていたらなんの前触れもなく慶が話しかけてきた。

 でもしっかりお話するって感じじゃなくて、ボソッとつぶやくように、

「熱、平気か?」だって。


「も、もうすっかり……」一日で熱は下がって元気いっぱい復活しました。その他の風邪症状も現れてこないので、ふふ、この歳にしてもしかして知恵熱だったかも。

 しかしなんとも言えないこの雰囲気。なんでしょう? どうしてでしょう?

 もしかして私からキスしちゃいました事件(と命名)のせいかとも思ったけど、昨日お見舞いに来てくれた慶は普通だったから、その後に何かあったんだと思うんだけど……本当なんだろう?


 だってここ最近は駅まで歩く時は手をね、繋いでたんですよ。しかも恋人繋ぎで……。なのに今日は手を繋がない所か私の方を見もしないし、並んで歩く二人の間にも少し距離感。

 なんだかちょっと……寂しい。


「お前、本当は嫌だったのかよ」今度は私の方を見ながらそんな事急に聞くもんだから、は?って感じ。多分顔にも出ちゃって目真ん丸になってたと思いますよ?

 そしたら急に嫌そうな顔してチッて舌打ちされて目を逸らされた。


 なんか……かなりグサッて来たんですけど。……嫌だな、その顔。ちょっと前迄の慶の顔みたい。

 最近はなんか楽しそうで嬉しそうで笑ってて、優しくて甘くってフワフワ浮いてる感じだったのに、その顔を見たら急に冷水を浴びせられたみたいに冷えて着地した。


 ちょっと前迄の、私に対してイラついて馬鹿にして嘲笑ってるみたいな……慶。なんだろう。なんでだろう。また私はなんか慶を怒らせちゃったのかな?

 そんな忌々しく思われちゃうような事……なんかしたのかな?


 胸がギューっと締め付けられる。そのままずっと繋がれる事のない手を胸の前で握り込み、深呼吸する。

 どうしてかな。どうしてだろう。なんでこんな急に? 私が……私からキスしたのがやっぱりいけなかったのかな?

 それとも何かあったのかな? 

 

 答えを聞く相手は傍にいるのに、どうしてもその「どうしたの?」が聞けなくて、私達は視線も合わさず、言葉も交わさず、もちろん手の温もりを交わすことなく大学への道のりを進んだ。

 

 同じ講義なのに今日はなぜか隣に座ってこないで男友達の方に行っちゃって、講義中ちょっと泣いちゃったのは絶対にナイショ。

 手を伸ばされて引っ張られて嬉しくて、幸せでこそばゆくて。でもこうなってしまうかも知れない可能性が怖くて悩んでたのに、どうしたらいいか答えが出る前に拒絶をされてなんだか私の心はついていけなくてグチャグチャ。


 同じことばっかり何度も何度も自問自答して、それでも答えは出なくて進まなくて。この状態から進める為にはきっと慶としっかり話し合わなきゃいけないって頭の奥底では分かっていたけど、分からないフリをしてた。


 幸せな状況を変えたくなくて。そのままずっとフワフワ浮いていたくて先延ばしにしてた慶との話し合いのつけが最悪な形で現れ、いつの間にか関係に終止符を打たれ申し開きもままならないまま終わってしまったのかも知れなかった。


 私の中で始まる前に終わってしまった。自分の気持ちがついて行く前に慶に飽きられてしまった。そう自分で勝手に結論付けるのに午前中の講義時間だけで十分だった。



「もう別れたの?」友達一が聞く。

「…喧嘩でもしたの?」友達二が聞く。

「怒らせたの?」友達三が聞く。ってなんかデジャヴですね。


 食堂のテーブルに突っ伏して死亡中(ってやっぱり変な日本語だな)の私に向かって三者三様疑問を投げかけられましたが、私だって分かってないので応えられませんよ。

「なんか食べないの~」友達三……もとい舞は私の頭をポンポンと優しく叩きながら聞いてきた。


「えー、本気で終わったの~」友達一……早紀が隣に座ってお弁当を広げながら話しかけてきた。テーブルに俯いた状態で横目でチラッと早紀を見ると……なんでそんな嬉しそうな顔してるのよ。

「そんな訳ないじゃん、富樫君だよー?」友達二……ほのかがそう言ってケラケラ笑ってる。上目遣いに睨み付けると笑いながら顔の前で手を振ってないないと首を振った。

 その根拠のない自信はどこから来るのでしょう。是非私に教えて頂きたい。


「買いに行こうよー」と舞がまた私の背中をポンポンして催促するけど、どうしても私は食べる気になれなかった。

「うーーーん、ごめん。やっぱり今日は帰るわ」

「大丈夫? 昨日の今日だしね、本当は調子悪いの?」ノリの悪い私に心配したのか至って真面目な顔でほのかが心配してくれたから、なんかちょっと申し訳ない。


「大丈夫。もう熱はないし元気なんだけどね。今日はちょっと……やっぱり帰るよ」そう言ってカバンを持つと学食の端の方で男連中と一緒にランチを食べている慶を見た。

 普通通り。今まで通り。ちょっと最近が変だっただけ。これが当たり前。そう呪文を唱えると三人には挨拶して、慶には声も掛けずに大学を後にした。


 ……これでいいんだよね? 今まで通り、なかった事にする……この、選択でいいんだよね?

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