27.大好きなんだもん。
「け、慶? なんか……お、怒ってる?」聞いたらやばい気がしたけど、聞かなければもっとやばい状況なので……聞いてしまいました!
「あん? 別に」いやいやいや! そのセリフでその態度で怒ってないって信じられないですけど!
「ゆーい。お前余裕だなぁ。生チチ揉まれてんのに」揉まれてないから! そこはどうにか上においているだけで揉んでないじゃん。
揉んでないじゃん。それなのにこの男は何を言うのかね。
それにそれに全然余裕なんてないから! メチャクチャテンパッテますよ。頭ぐちゃぐちゃですよ! 自分が何考えてるのかまったくわかりませんよ!
とりあえずこの状態をどうにかしたいと思うのですが、全然働かない頭は置かれた手が気になって気になって仕方がないです。
だって、なんか……すっごく熱いよ。
揉まれてないよ。さっきまでと違って本当に揉まれてなくて(もう連呼しすぎ? ごめんなさい)、ただ上に置かれているだけなんだけど……その強張った大きな慶の手が……変に熱い気がして気になってきになって! まったく動けません。
「ゆーいー。またどっか飛んでる。俺見ろよ」え? み、見てるけど。だって目の前に顔ありますから、しっかり見てますけど、なんかお気に召さないようで?
改めて慶の事をしっかりと見ると、さっきまでの不機嫌な表情ともからかう時の笑った顔共違って今度は真剣な目で私を見てたから胸がきゅうってなった。
「……け、い?」
「うん?」
「……どうした?」
「……その日本語変じゃねぇ?」そう、かな? 私はいつもと違う慶がどうしたのかな? って思ったんだけど……。
「そこはどうしたっけ? とかなんでこうなってるんだっけ? とかそう言う反応が必要じゃねぇ?」え? あ、あぁ。そっか、そりゃそうだ。
今の状態もどうかと思うけど、それ以外にもなぜ一緒に寝てるとか、そんな疑問もあったのか。
今気づきましたーって顔を私はしちゃったのか私を見て慶は一つため息をつくと、自然に私の胸から手を退ける。……でも上にはまだいるのね?
「心配じゃないの? 俺に頂かれてるかもよ?」私の退いて欲しいなぁ視線を無視して今度はまたいつもの様にニヤッと笑いながら人の耳元でそんな事を囁いた。
うぎゃっ、みみ! 耳! 止めてください!
「昨日何があったか全然覚えてないんだろ? ……何があったのか、さ?」慶はそうゆっくりと台詞を吐くとニコッと笑う。
なんか……いやらしい顔してる気がするんですけど?
でもそこは絶対に騙されないからね! 絶対にしてないもん! 自己確認済みだもん! そんな気持ちで強気で睨み返すと鼻で笑われた。
え? ねぇどうして? どうしてそんなに態度が悪いのさっきから! なんか私怒らせる事したのかなぁ……ってやっぱり昨日酔っ払って寝ちゃったのがまずかったのかな……。
「……朝飯食うか。お前今日一時限目あるだろ?」そうだよ! そうだよー! 今日は平日。火曜日! 学校行かないと!
「……香澄おばさん、いるよね? って言うかなんで私ここで寝てるのよ!」慶が上からどいてくれたので、一気に強気ですよ私! ここはビシッと文句言っておかないといけないと思いません?
「おふくろは昨日遅かったみたいだからまだ寝てると思うぜ? それに俺の部屋に寝かせたのはお前がソファーで寝ちまって、でも客間に布団作るの面倒臭かったから俺のベットに寝かせただけ」ジロリと睨まれベットの上に正座する。
はぁ、本当すいません。ご迷惑をおかけしました。って言うか起こして頂きたかったですけど?
「何度も起こしたけどお前は意味不明な訳わかんねぇ事ばっかり口走ってて……相手にならなかったんだよ」はい、本当にごめんなさい。
正座のままうな垂れる。あぁ、もう、ちょっと……当分飲むの控えます。ごめんなさい、本当に申し訳ございませんが、何をしゃべっていたのかまったく覚えていません。
「だろうな。シラフならありえないだろ」え? 何? 何よ? 何を私はそんなにしゃべっていたのでしょうか? 普段の私なら言わない事?
何? 何? やだー、気になるー!
「……京子さんに言って着替え取って着てやる」私の熱視線を無視して慶は呆れたように言うと部屋を出て行った。
はい……。ありがとうございます。慶を見送りながら……反省。なんか二十歳の乙女としてまずい気がしますよ。
長年片思いしている相手の前でね、派手に酔っ払い変な事口走り……挙句の果てに寝ちゃって相手の部屋で一緒に寝る……ってどんだけ?
本当どんだけですかー? そこはさ、恋する乙女として緊張しちゃったりとか? 意識しちゃったりとか? ドキドキソワソワ寝れなかったりとか? そんなシチュエーションなんじゃないんでしょうか?
まぁ、私達の間に甘い関係がある訳じゃないからさ、どうしたっていい感じになったりなんかしないとは思うけど……思うけど、あまりにもひどいよねぇ。
……慶にはどう思われちゃったかな。やっぱりまた呆れられて……バカな女って思われてるのかな?
そう言えば、そもそも他の男に襲われそうになった挙句別の男の部屋でのうのうと寝ちゃった訳でしょ? 私ってば本当どんだけ危機感ないんでしょう。
まぁ! 慶はそんな私に無理やり……なんて事は絶対しないだろうからさ! そこは一応信用……信用……してるか? ……微妙。あの男なら無理強いではなくてうまい事唆されそうで微妙だわ。
って児玉くんどうしたかなー。バイトも昨日で終わりだし……連絡取って待ち合わせしない限りもう会う事もないんだけど……やっぱり気になるや。
もう一度だけ会って話したいなんて思ってる私はやっぱり馬鹿かな? でも、このままじゃいけないような気がするんだよね……。
ベットの上でまだ正座をしながらそんな事を考えていたら、ドアをノックされ慶が入ってくる。
「唯。着替え。京子さんが用意してくれた。飯は家で食ってけよ。その後家帰れ……何してんの?」えっと……ちょっと反省を。
「……反省した所で直らねぇだろ」ベットの上に私の着替えを置きならが慶はそう言うと、私の視線に高さを揃える。
「お前はさ……そう言う所がいいんだよ。お前はそのままでいいんだよ」そう言って私の髪を撫でながら慶が笑うから、ドキッとする。本当にその笑顔は反則だよ?
そんな顔されたらさ、なんか勘違いしちゃうよ。惚れ直しちゃうよ。本当に……大好きなんだもん。
……ってあれ? 私……昨日そんな事口走っちゃったような気が……してきましたけど。




