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君が好き??  作者: 尾花となみ
sideA:唯視点
24/56

24.風呂、入って来いよ。

 私と慶は無言のまま家路を歩いていた。抱えられた肩が妙に熱く感じる。


 あの後慶は警察に電話をしようとしたんだけど、私はどうしても嫌で……首を横に振ると慶はすぐに頷いてくれた。

「お前の好きにしていいんだよ」抱きしめられたまま耳元でそう優しく囁かれてまた涙が出た。


 気がついた児玉くんに慶が色々話をしてくれてそのまま彼とは別れた。

 ここまで追い詰めてしまったのはきっと私。何が悪かったのかよくわからなかったけど、きっと私は児玉くんに何かしてしまったんだと思った。


 された事への怒りはあまり感じなくて、ただただ悲しかった。こんな事になってしまって、きっと私がそうさせてしまって。

 児玉くんに申し訳ない気持ちと悲しい気持ちしかなかった。

 まぁ、もし連れ込まれてしまっていたらこんな気持ちじゃ済まないんだろうけど、結果として悲しい気持ちしかなかった。


 でもそれでもまだ怖くて不安で……体が震え力が入らなくて、私は慶から一時も離れられなかった。

 野次馬が見物している中、慶は私を隠すように肩を抱きかかえてその場を後にしたんだ。


「……俺んち寄る?」え? 俯いたままだった顔を上げて慶を見ると、慶は複雑そうな顔で私を見てる。

「そのままじゃ帰りずらいんじゃねぇの?」まぁ、確かに。体の震えは少し収まったけど、まだ満足に一人じゃ歩けないし。 

 顔もきっと涙ですごい事になってるだろうし。


 こんな状態で家に帰ったら……やっぱり心配するよね? でも今日の事は親には話したくない。

 心配をかけたくないって思いと、恥ずかしさと。お父さんが知ったら絶対に児玉くんへの制裁が待っていると思うので……恐ろしい。

 どんな制裁が待ってるかなんて……考えるのも恐ろしいわ。


 報復したいなんてまったく思っていない以上それは避けたい。としたら何もなかったように家に帰るべきなんだけど……いまの状態じゃ無理かも。絶対に何かあったってばれちゃう自信があるよ。

「今日は親父泊まりで出張って言ってたし、お袋はなんか友達と飲みに行った」そっか、それじゃぁお言葉に甘えてお邪魔しようかな。


 お邪魔しまーす。促されるまま慶の家に入ってからふと気づいた。

 あれ? おじさんとおばさんいないの? もちろん優ちゃんもいないし……って事は家で、密室で二人っきり?

 あれあれ? なんかこれって……逆にまたやばいんじゃないの?


 ブーツを脱ぎかけてピシッと固まった私を見て慶が噴出した。

「あはっ、あはは、お前、おかしすぎ」お腹を抱えて笑う慶を睨み付ける。

「別にとって食いやしねぇから、入れよ。なんか飯作ってやる」笑われて忌まわしく思いながらブーツを脱ぐのを再開していた私は、そう言いながらリビングに消えた慶を見つめたままでまた固まった。


 え? えーーー? 慶がご飯作ってくれるの? 私に? 慶が?

 放り投げるかの様にブーツを脱ぐと(あ、その後ちゃんとそろえましたよー)、慌ててリビングに駆け込む。


「慶? 慶? 慶が作ってくれるの?」

「ん? ああ」カウンターキッチンに入っている慶は手を洗いながら私の方を見て笑う。


「つっても簡単にパスタぐらいだからな? でも唯パスタ好きだろ」ええ、ええ、大好きですよ。大大大好きですよ!

 えー! どうしよう、嬉しすぎる。嬉しすぎるー。慶が私にパスタ作ってくれるなんて夢みたい。って言うか料理なんてできたんだねぇー。本当に何でも出来る男だねぇ。


 ニコニコ? ニヤニヤ? しながら慶を見てたらおでこをはたかれた。

「そんな所でボケッとされてても邪魔だから、あっち行け」ひどいなぁ。でも邪魔してる自覚があったので素直にソファーへと移動。テレビでも見ようかなぁなんてリモコンを取ったら、

「あ、風呂つけるから入ってれば?」と言われリモコンを持つ手がまた固まる。


 お、お風呂? バイトして疲れきった体にそれはそれはとても魅力的なお誘いですが……さすがにそれはどうなのよ?

「で、でも着替えないし」そうそう。

「京子さんに連絡して取りに行ってやるよ」そうね、隣だしね。取りに行くのは簡単よね。


「お前、まだ帰りたくないだろ? でも……風呂入りたいんじゃねぇの?」……うん、確かにね。本当はすっごく入りたい。

 だって……平気なふりしてたけど……本当は感触が残ってる。


 慶に抱きしめて慰めて貰って少し落ち着いて……ちょっと平気になった気がしたけど、あの背中を這った手とかお尻を揉まれた手とかがどうしても消えてくれない。

 それに……唇も。ナメクジみたいに人の口を嘗め回したあの感触を忘れてない。


「唯」名前を呼ばれて見上げると、いつの間にキッチンから出たのか目の前に慶がいた。

 そしてそっと抱きしめられる。

「忘れろ」そう言って両手で私の両頬を掴むと、顔を近づけてくる。


 綺麗な顔だなぁ、なんて思いながら私は目を閉じた。

 唇にそっと優しく唇が触れる。チュッとリップ音を立てて一度離れ、またすぐに重なる。

 啄ばまれ、下唇を軽く挟まれ、角度を変え何度も重なり合う。


「んっ、け……い」そのキスがすごく優しくて切なくて……つい慶の名前を呼んだ瞬間、その隙間を縫って舌が入り込んできた。

 さっきまでのゆっくりとした優しさは消え、激しく咥内を蹂躙される。


 息が苦しくて、蕩けて力が入らなくて。背中がぞくぞくしてなんだかもぞもぞしちゃって。

 慶にすがりつくみたいに腕に掴まる。

「ん、ぅん……はぁ、ぁん」自分の口からありえない甘い吐息が漏れる。頭がしびれて何も考えられない。


 もう足に力が入らなくて崩れ落ちそうになると、すぐに慶に腰をつかまれ支えられた。

 そしてその後すぐに唇は離され優しく抱きしめられる。恥ずかしくってなんか自分がおかしくて、慶に縋り付きながら慶の名前を呼ぶけど、

「け……いぃ」やだ、何この声。自分の声じゃないみたいな甘いかすれた声しか響かない。


「風呂、入って来いよ」慶も少しかすれた声で抱きしめたまま言うから、ただ頷くしかなかった。

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