22.捕まえた。
あの後バイトの時間までちょっとあったので、慶とまた二人っきりでお茶して……。ってさぁ、おかしくない?
二十年間生きててね、慶と二人っきりのデ、デート?! なんて日曜が初めてだったわけ。それなのに月曜日にも二人っきりでお茶って……本当どうしてこうなったのかわからん。
今日のシフトは五時半から九時だったので、慶は一回帰って後で迎えに来てくれるらしい……。
別にバイト始まるまでの空き時間もね、一人で駅前をブラブラするんでもよかったんだけど、なんか慶が一緒にいたがって。
駅ビルをブラブラしてバイトの時間までお茶して時間つぶして、バイト先のレンタルショップ目の前まで送ってくれた慶に礼儀としてお礼を言って一回別れたんだけど……ねぇー、本当に何があったんだぁ!
本当になんか恋人同士みたいじゃない? 変じゃない? ……肝心なこと何も話し合ってないのに。 私はそのまま流されちゃって……はっきりされてなくてもなんか幸せ感じちゃったもんだから、拒否できず流されまくちゃって!
嬉しいけど、ちょっと辛い? 慶の気持ちを聞くのがちょっと怖い? このままでいたい? それともこの先に進んでしまうのは嫌? そんな事を延々と考えながらバイトしたもんだから、なんかミス多くて店長に怒られちゃったけど、あっという間の三時間半でした!
最後ぐらい格好良くビシッと決めたかったのになぁ……慶の事考えると無理でしたわ。
そして児玉くんの事は頭からすっぽり抜け落ちてました!
だって今日シフト入ってなかったんだもん。確か一緒だったはずなのに……と思ったら店長がなんか上手にしてくれたらしい。
最後のご挨拶に行った時に色々話してくれました。
付き合っている時にも、私にはちょっかい出さないようにって周りに言いまくってたらしいとか。私がバイトをやめることになって詰め寄って来たりした事とか。
なんでかなぁ? どうしてかなぁ? 児玉くん、優しい人だったのに……。私がそこまで児玉くんを追い詰めちゃった……のかな?
更衣室で私服に着替えながら、私はついロッカーに頭をぶつける。
バコンッと結構な音が響いておでこを押さえる。
い、痛い……。意外に痛かった。なんてお馬鹿なの。でもちょっとすっきりした。私が思いつめて考えたところで仕方ないもんね。
児玉くんには申し訳ない気持ちでいっぱいだけど……こればっかりは……気持ちばっかりは自分の力じゃどうにもできないもんなぁ。
私服に着替え終わると携帯チェックする。メールも電話もなし。さてどうしよう?
迎えに来てくれるとは言ったけど、どうするのかしっかり決めてない。このまま一人で帰っちゃおうかなぁなんて考えながら店を出たら……いたよ。
お店の目の前のガードレールに寄りかかって、慶がいた。
ああー、やばい、マジ格好いいよぉ。別に特別な格好をしてるわけじゃないよ? って言うかさっきまでと同じだし。
でもね、でもやっぱり格好いいと思うんだ。
ビンテージデニムに黒のカットソー。それにジャケットを羽織ってると言う至ってシンプルな格好なんだけど……なぜかそこだけ空気が違って見える。
人の目を集めてしまう、独特の雰囲気。まるでハリウッドスターのような存在感。その一画だけスポットライトを浴びたかのように輝いて見えた……ってそう思うのは私だけじゃないですよねー。
そうですかー、なんですかー、そのハーレム状態。
目をハートにしたお姉さん達が周りに群がっていますけどー。また私にその状態の君に近づけと?
無理無理無理ー。無理でーす。絶対に無理でーす。
まだ慶は私に気づいてないし……このまま知らない振りして帰っちゃおうかな、なんて思っていたら急にすごい力で後ろから腕を掴まれた。
「いたっ」痛い。何すんだよー。誰だよー。無理やり引っ張られむかついて相手を睨み付けると、そこにはすごい形相の児玉くんがいた。
……あれ? これなんかヤバメなパターンですか?
「捕まえた。一緒に帰ろう」……児玉さん? なんか目ーいっちゃってますけど……。
腕を掴まれ無理やり引っ張られながら……私は体中が震え出すのを止められなかった。




