02.それ、どこ連れて行くつもり?
大学からの帰り道。今日はバイトがなかったのでそのまま家に向かったら家の前についこの間まで付き合ってた元彼――児玉くんが待ち伏せしてたんだ。
児玉くんと知り合ったのはバイト先。なんとなく趣味が合って、話してても緊張したり疲れたりする事がない相手だった。
告白して来たのは彼から。今まで誰とも付き合う気なんてなかったけど、ちょうどこの時色々と苦しい事があって、児玉くんとなら大丈夫かも知れないと思ってOKの返事をした。
付き合い出しても今までの友人関係と違いがなくて、一緒に映画行ってご飯食べたりしてうまく行ってた。
でも三ヶ月ぐらい経ちはじめてから、児玉くんからのスキンシップが激しくなってきて。
手を繋いで歩いたりするのもちょっと抵抗あったのに……キスを強要されそうになって、その時はおもいっきり突き飛ばして逃げたんだけど、やっぱりなんか気づいちゃって。
児玉くんとじゃダメなんだって。だから別れを切り出した。
児玉くんは納得してくれなくて。
その気になるまで待つから、ゆっくりでいいからって言ってくれたけど、たぶんダメなんだと思う。
きっとその気になる事なんてないんだって気づいちゃったから。
だからしっかり別れて終わったと思ってたんだけど……。
「いきなり押しかけてごめん。でも、どうしてももっとちゃんと話し合いたかったんだ」
メールも電話も結構掛かってきてて、正直結構嫌になって来てて、着信拒否なんかにした後だったから直接家に来たんだろうけど、だからこそ急に児玉くんが怖くなった。
「……私、もう別れるって」
「わかってる! わかってるけど納得出来なくて!」そう言って近づいてくる。いや、本当怖いから。顔、マジやばいから。
「俺たちうまくいってただろ? なのになんで急に付き合えないって。あの時の事を気にしてるなら本当気にしないでいいから。俺気にしないから」いや、私が気にするから。
言いながらどんどん私に詰めてくる児玉くんから露骨に逃げながらあせる。
一番安全なのは家に入ることだけど、その為には児玉くんの横を通り抜けないといけない。いや、この状態じゃ絶対無理だから。
確実に私捕獲されちゃうよ。
「唯ちゃん、俺、君の事が好きなんだ。本当に、だから別れたくない」うん、そこまで想ってくれるのは嬉しいけどね、ぶっちゃけ重いから。怖いから。
「……俺待つって言ってるよね。無理強いするなんて言ってないよ。それなのになんでそんなに怖がってんのさ。可笑しいだろ! 俺彼氏だよね!」私の露骨な態度ばれてましたよね。そうですよね、でもそんな気遣いを見せれる余裕は今の私にはないよ。
だって確実に児玉くんきれちゃってるもん。身の危険を感じても可笑しくないよね?
それに彼氏って大声で叫ばないでくれよう。私別れたんですけど。
「唯ちゃん! とりあえずゆっくり出来る所……俺んちでちゃんと話し合おう」それは本当にやばいって。
児玉くんは確か一人暮らししてたはず。……はずってそれもはっきり知らないなんて私やっぱり児玉くんにあまり興味なかったんだな。
なんてそんな冷静に考えてる状態じゃなかったよ。大分焦った児玉くんが私に手を伸ばそうとしたその時、何処かからかブラックコーヒーの空き缶が二人の間に飛んできた。
「ガンッ、カラカラーン」結構派手な音を立てて缶は何度か跳ね、転がる。その視線の先を伸ばすと、一人の男が立っていた。
「それ、どこ連れて行くつもり?」そう言ったのは、満面の笑顔で爽やかな……それでもなんか背中に黒い物が見えちゃってる感じの慶二だった。