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君が好き??  作者: 尾花となみ
sideA:唯視点
14/56

14.私耐えられないよ……。

「唯ちゃん。あの女の人に何か言われた? ……大丈夫?」どうにか顔を作ってレジに戻り仕事をしていた私に、遅れて休憩から戻ってきた児玉くんは私の顔を覗き込みながらそう言った。

「うん、ごめんね。大丈夫、ありがとう」私はなるべく児玉くんの顔を見ないように言う。


 ちょっと、結構やばい顔をしてると思う。あの後どうしても涙が止まらなくなって、お手洗いでジャブジャブ顔洗ってメイクを軽くし直したけど、腫れたまぶたはきっと隠せてない。

 そんなんでレジに入るのはどうかと思うんだけど、今日は本当に忙しくてとにかく人手が足りなかった。


 返却品の片づけが溜まってしまっていて、それを選別しているからお客様の方に顔を向けないですんでるのが幸い。手元を見ながら作業する。

 そして忙しくて本当によかった。夢中で作業してそれに没頭していればさっきまでの事は忘れられる気がした。さっき言われたことは夢だったんじゃないか、って思えそうだった…………のに!

 なんで思い出させてくれたの児玉くん。まったく関係ないけどちょっと、いや結構うらんじゃいそうよ。


「あの、さ……今日上がり一緒だよね? ちょっと一緒に帰らない?」ん? 別にいいけど……。先に聞いてくるなんて珍しいね。いつも適当に一緒に駅まで歩くのに。

 今日はなんとなく一人になりたくない気がするし、家に帰っても今日は一人だからご飯買って帰ろうかと思ってたけど……食べて帰っちゃう?


 いつもの私ならね、ここまで児玉くんと近づかなかったと思う。でもこの時の私はどうしようもなく悲しくて、ちょっと一人でいられなかった。

 一緒に食べて帰る? って聞いたら児玉くんはすっごく驚いて、でも嬉しそうに頷いたからちょっと救われた気がしたんだ。


 児玉くんが……なんとなく私に好意を抱いてくれているのを気づいていたから。すっごくずるくてひどい女だって思ったけど、児玉くんに結構救われたんだ。

 バイト帰り、駅に近いパスタ屋さんでご飯を食べて。気を使ってくれたのか児玉くんはあの女の人の事は聞いてこなかった。ちょっと聞きたそうにしてたけど、聞かないでくれて……児玉くんの優しさが心に沁みてまた涙が出そうになったのは内緒。


 私の家は駅の近くだから、送ると言ってくれた児玉くんを断って一人で歩くことにした。

 でもその時児玉くんに……付き合って欲しいって言われたんだ。


「本当はずっと前から好きだったんだ。でも、そのあんまり隙がなくて……じゃなくて! あんまりしっかり話したことなかったでしょ? 休憩の時ぐらいでさ。だから……なかなか言えなくて。でも、今を逃したらもう言えないと思うから……付き合って欲しい。あ、返事は今すぐじゃなくていいし! 友達からでただ今みたいにご飯食べに行ったりとかそんなんでいいんだけど!」

 赤くなって慌てて色々言葉を付け加える児玉くんがなんか面白くって笑った。

 そうしたら児玉くんも笑って……いつもの私ならきっとすぐ断ってたと思うけど。その時はなんとなく断われなくて、答えは保留にしたんだ。


 家までの帰り道、まだ駅前と言える場所でこんな事って本当にあるんだなって衝撃を受けた。

 割と広い駅だよ。他の道だってあるんだよ。なのに、なんでだろう。なんでだろう?

 この日はこんな日だったんだなって、仕方ない……しょうがない。ただ運が無かった、自分のせいじゃないって思わないと壊れてしまいそうだった。


「……唯、今帰りかよ。遅くねぇ?」

「……バイト終わりにご飯食べてきたから」遅いって言う割りに、慶もだよね?


「……誰と? バイト先にそんな親しいやついたっけ?」そんなの慶に関係ないでしょ。

「……唯? なんかあった?」顔を伏せたまま目を合わせようともしない私に、不思議に思ったのか口調が少し優しくなる。

 ばか、ばか。優しくなんかするな。心配なんかするな。今顔を見たら絶対にまた泣いちゃう。だから、絶対に顔見たくない。


 間を詰めて覗き込もうとする慶から逃げるように横を通り抜けた。でも私の腕は慶に捕まる。

「……唯。何があった」慶は私の腕を掴んだまま目を細めて話しかけられてる気配がする。でも見れないよ。

 何も言わないで首を振る私に焦れたのか、あごを掴まれ無理やり上を向かせられる。目が……合った。


 きっと私は今ひどい顔をしてると思う。夕方いっぱい泣いて、その腫れはメイクで誤魔化しているけどきっと誤魔化しきれてなくて。

 顔を見たら泣いちゃうって思ってたけど、声を聞いただけで涙が出て来ちゃってたから……私は腫れ上がった目で、崩れたメイクで、泣いてた。


「唯!?」慶の滅茶苦茶焦った声が私の名前を呼んで、こんな声久々に聞いたなぁなんてぼんやりと考えた。

 でも慶が何か言う前に違う……女性の声が聞こえて私は一気に現実を思い出した。


「慶二君、遅れてごめんなさい。プレスレットお店に有ったわ。……あら、唯さん?」あの人……玲子さんはそう言うとライトストーンが煌めきプレスレットが揺れる手を頬にあてる。

「……玲子、なんで唯のこと知ってる?」顎は離してくれたけど、腕は掴んだまま慶は低い声で確認する。


 慶がなんかすごく怒ってるのはわかったけど、なんかどうでもよくなった。

 きっとあの後……玲子さんが私に会いに来て帰った後、二人は会ってたんだ。そして今は目の前のお店で食事して、これから帰る所。

 どこに? どこに帰るの? 二人で別々に家にちゃんと帰るの? それとも……?


「偶然お店でお会いしたからご挨拶しただけよ? ね、唯さん」そう言って私の方を向いて笑ったその顔は完璧なメイクを施されていてすごく綺麗で嬉しそうで……惨めになる。

 私……なんだろう。二人の仲を知って泣いて、その挙句に見せ付けられて。


 私はめちゃくちゃ惨めな情けない顔して慶に掴まれてて……。

 何か話している二人を無視して私は慶の手を無理やり剥がす。そして駆け出した。

「唯!!」また慶の焦った叫び声が聞こえたけど、私は無視して走り続けた。


 だってそうしないと苦しくて苦しくて。少しでも立ち止まったら、少しでも振り返ったら負ける気がして走り続けた。

 振り返って二人がもし寄り添っていたら。私の事なんか忘れて普通に歩き出して夜の街に消えて行ったら。私はきっと耐えられない。


 そんなの見せ付けられたら……私耐えられないよ、慶……。

 

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