12.思い出しちゃうじゃん。
皆さんこんばんは。唯です。今は自分の部屋に戻ってきました。はぁっ。
なんだか酔いもすっかり醒めて、色んなことがありすぎた感じで疲れ切ってしまいました。
めちゃくちゃこのまま寝てしまいたい気がするのですが……寝れる訳ないさ! 思い出しちゃうわ!
本当にあの男は何考えてんだよ~。
今までね(って言っても二回だけど)、貞操の危機なんて騒いでたけど、本当の所で心配なんてしてなかったの。だって私達の間だし。
セ、セフレも? いっぱいいらっしゃるようですし? まったくもって飢えてなんてないでしょうし! 例えご無沙汰で飢えていたとしても(私何言ってるんだ? でも殿方って定期的に出さないと駄目なんでしょ? だから何言ってるんだ!?)、私との間でそんな、甘い雰囲気なんてありえない! って思ってた訳。
でも実際はなんか唇を頂かれちゃって。そりゃ甘い雰囲気なんてまったくなかったけど、素人としてはもう十分危機を感じてしまったよ。
だってさ、やっぱりセフレなんているぐらいだし(しつこい? でもしつこくも言いたくなるよ~)、心がなくても関係なく体を重ねられるのかなって思ったら……ちょっと怖くなった。
好きだから、最低男だけど好きだからちょっと流されてもいいなんて思ったりしたけど、本当はやっぱり気持ちが通じ合ってこその行為だと思ってた。でも……慶には違うんだなって思ったら、なんかすごく慶が遠くなった気がする。
なんかわかんないけど、すっごく悲しくなった。
そりゃね、慶が他の誰かとエッチしてるって思うと苦しいよ。相手の人が憎らしくなる。悔しくて嫌だって思ってた。……でも……今は悲しい。
今更だけど、そう言う行為が一人だけの事じゃない、二人の事なんだって気づいて悲しくなった。
うまく言えないけど、相手の女の人の独りよがりじゃない。慶も望んでしてる事。慶が相手の人と一緒にしてる事。そう思うと悲しいよ。
だって今はセフレしかいないんでしょ? 心が通じ合って二人の行為をしてる訳じゃないんでしょ? それってやっぱり……なんか悲しくない?
私は自分の部屋のハート型クッションを抱え込むとベットに仰向けに転がる。
あーうー、やだなぁ。こんな風に悩むの私らしくないんだけど。慶が変な事するから……なんか考えちゃったよ。
『慶二君のキスってとろけちゃうの』そんな事を言ったのは誰だっけ?
『慶二君っていつもクールだけど、あの時はすっごく情熱的』そんな事を言ったのは誰だっけ?
『慶二君と結婚しようと思ってるの』そう言ったのはそう、あの女の人……。
慶と……付き合ってた人。私に会いに来て、色々なんかしゃべった人。
けど、もう別れたんだね? 今は一人って事は別れたんだと思うけど……。そうだ怜子さんって言ったっけな。結婚しようと思ってるって言ってたのに……どう、したのかな?
「You've Got Mail!」静かな部屋に鳴った携帯の着信音にびっくりする。思考の渦に飲まれそうになっていた私はちょっと救われた。メールだ。誰だろう?
携帯を手にメール画面を開くとそこには知らないアドレス。
不思議に思いながら開いたメールを見て固まった。やっぱり救われないかも。
……やばい。本当にストーカー化してしまったんですね? 本当に残念すぎるよ児玉くん……。
また会って話したいって……今更何を話すんだろう? 嫌、だな。
只でさえ今あの女の人の事思い出してたのに……そこに児玉くんを思い出したら……あの日の事も思い出しちゃうじゃん。
バイトしている駅前のレンタルショップに現れたすごく素敵な女の人。大人で綺麗で……薄化粧なんだけど映えるメイクで、服装もセンスのいい似合ったブランド品を身にまとい、手先も綺麗に丁寧なネイルが施されていて、自信に満ちた微笑を浮かべていたあの……玲子と言う女の人に始めてあったあの日を……思い出しちゃうじゃん。