第八話 「地底からの攻撃」
仕事が終わり、出部は電車で帰っていった。
(今日の課長の説教も長かったな)
(あれがなけりゃほとんど定時で帰れるのに)
途中電車は地下部分へ入っていく。
出部はふと隣に碧がいることに気がついた。
(槇場さん、この電車に乗っていたのか)
しかし碧の方はまだ出部に気がついていないようである。
出部はちょっと気まずかったが、とりあえずあいさつすることにした。
「槇場さん、お疲れさま」
「あ、出部さん。お疲れさまです。この電車だったんですね」
あいさつはしたものの、どういう話をしたものかと考えていると碧から話しかけてきた。
「出部さん、今の営業部の前は開発部にいたんですよね」
「そう。よく知ってるね」
「噂で聞いたから。その部では優秀な技術者だったって」
「優秀かどうかはわからないけれど、今の仕事よりは自分に合ってたと思う」
「じゃあ希望して異動したわけじゃないんですか」
「組織変更で俺のいた課がなくなっちゃってね。今の部へ移ってきたんだ。君の入社前だな」
碧はさらに聞いてみた。
「出部さん覚えてます? 私が新人だったときのこと」
「えーと。何かあったっけ」
「やっぱり覚えてないんですね」
それから碧は黙ってしまった。
出部は碧の新人時代を思い出そうとしたが何も覚えていない。
碧に確かめようとしたとき、電車が急ブレーキをかけた。
乗客が大きくよろめき、出部は碧を支える。
すると車内放送が流れてきた。
「ただ今信号機の故障のため、緊急停止を行いました。お急ぎのところ申し訳ございませんが、原因が判明するまで、いましばらくお待ちください」
そのとき突然激しい衝撃とともに電車が脱線し、車内の明かりが消え非常灯がつく。
「い、出部さん……」
「一体何が起こったんだ」
乗客たちもざわめいている。
そのうち誰かがドアコックを開けたらしく、ドアが開き人々は先を争ってドアに殺到した。
「みなさん、落ち着いてください!」
出部が声を張り上げるが、誰も聞こうとはしない。
出部は碧をかばいながら、何とか電車の外に出た。
「出部さん、ありがとう」
「いや。それよりこれからどうしようか」
二人が戸惑っていると、闇の中を二つの目が光った。
「か、怪獣だー!」
誰かが叫んだため、パニック状態になってしまった。
他の車両からも人が出てきて逃げ出す。
「線路内に立ち入らないでください!」
車掌が拡声器で叫ぶが、もはや収集がつかない。
人々は電車が来た道を走っていった。
だがその行き先で再び二つの目が光る。
怪獣は二体いたのだ。
逃げてきた乗客たちは怪獣になぎ倒される。
二体の怪獣に挟まれた人々は、逃げ場を失った。
「出部さんお願い。そばにいて」
碧は震えながら、出部の腕を抱きしめて言う。
しかし碧がそばにいると変身できない。
出部は碧を地上に送り届けることにした。
「槇場さん、俺の背中に乗って」
「えっ?」
碧を背負い、線路をひた走る。
途中にいた怪獣の攻撃も何とか避け先へ進む。
(ええ!? 出部さんてこんなに身が軽かったの!?)
その広い背中がたくましく思え、碧は出部の背中にしっかりと抱きついた。
だが出部は違うことを考えていた。
(槇場さんて、結構胸あるな)
ヒーローが台無しである。
やっと隣の地下駅に着いた。
駅にいた人々は既に避難している。
「槇場さんはここから地上に出て、一刻も早く避難してくれ!」
「出部さんはどうするの?」
「俺はここの駅員を探して状況を説明する」
「わかったわ。気をつけて」
碧は去っていく。
「さて、やっとメタボマンになれるぞ。クリスタル!」
しかし変身しない。
「あれ? クリスタル!」
何度やっても結果は同じであった。
そして地下では変身できないことを思い出す。
出部は地上へと上り、変身できるところを探した。
だが途中で碧に呼び止められる。
「出部さん!」
「槇場さん! 逃げなかったのか!」
「だって……」
「とにかく逃げよう!」
碧をつれて駅から離れる。
そのとき地面が大きく揺れ、碧がまた悲鳴を上げて、出部に抱きつく。
地中にいた二体の怪獣が地上に現れ、人々はさらに大混乱に陥った。
「こないだからの地震はこいつらのせいか」
出部は変身するため移動しようとしたが、碧がまだ抱きついている。
(しかたがない)
出部はクリスタルを握りしめながら、別の手の指を碧の額に当てて眠らせた。
そして近くにいるレスキュー隊に彼女を預け、物影でメタボマンに変身した。
巨大化したメタボマンは、二匹の怪獣に向かっていった。
どこからか、スカル星人の声が聞こえてくる。
「来たか、メタボマン。このグリコランは地中を潜れるため、直接我々の輸送船を探せるのだ。だが目触りなおまえから始末してやる」
「させるか!」
グリコランは四足で爪が鋭く、長い尾を自在に操る。
メタボマンは水引ブーメランを放つが、グリコランの長い尾にはね返されてしまった。
そして後ろにいるグリコランの尾が鞭のようにメタボマンを攻撃し、メタボマンは弾き飛ばされた。
別なグリコランが口からマグマ弾を吐く。
メタボマンはメタボバリアで防ぐが、またしても背後からグリコランの尾で攻撃され倒れこむ。
何とか二体と距離を置き、水引ファイアーを発射した。
だが地中の高熱にも耐えられるグリコランは、皮膚で熱線を吸収してしまう。
さらにメタボマンは、クロスショットで攻撃をする。
二体のグリコランは尾をクロスさせビームを発射し、クロスショットを相殺する。
そしてグリコランたちは交互に尾で攻撃し、ダメージが蓄積したメタボマンは地面に倒れた。
グリコランたちはまたもマグマ弾を口から発射し、倒れたメタボマンにさらに大きなダメ-ジを与える。
変身時間はもう残りわずかである。
二体のグリコランは再び尾で攻撃してくるが、その攻撃の中メタボマンは一瞬の隙をつき一体のグリコランの尾をブーメランで切断し、グリコランがひるんだところをメタボスピアで串刺しにした。
グリコランの体は灰になっていく。
もう一体はそれを見て、地中に逃げていった。
メタボマンはタイムアップで元の姿に戻ったが、激しいダメージのため出部は気を失ってしまった。
出部が目覚めると、ベッドの上で寝ていた。
その横に碧が座っている。
「出部さん気がつきました?」
「ここは?」
「駅の近くの病院です」
「そうか、俺はあのまま気を失って……」
「怪獣がいた近くで発見されたそうですよ。ひどいけがで。本当に危ないことはやめてくださいね」
「槇場さんは大丈夫だったの?」
「私が憶えているのは、出部さんと一緒にいたら急に眠くなって、気がついたらレスキュー隊の人に保護されていたことだけです」
そして碧は出部の顔に近づき、その目を見つめながら聞いた。
「出部さん、私が眠っていたとき、変なことしてないですよね」
出部はドギマギしながら答える。
「な、何もしてないよ」
「くすくす、冗談ですよ。それじゃ私帰りますね。今日は本当にありがとうございました」
「ああ、おやすみ」
「あ、そういえば出部さん誤解してるようですけど、私別に面食いじゃないですからね」
そう言うと碧は帰っていった。
しかし鈍感な出部には碧の真意はわからなかった。
出部は病室で碧のことを思い出していた。
「今日の槇場さん素直だったな。いつもああならかわいいのに」
しばらく横になっていると、再び地震が起きた。
「グリコランの片割れか!」
出部が窓から覗くと、遠くに見えるビルのシルエットが次々と崩れ落ちていく。
「奴は地中から破壊するつもりなのか!」
出部が変身すると、治癒装置が働きけがが治った。
部屋を出ようとすると巡回の看護士が入ってきた。
「メタボマン退院します!」
「それだけ元気なら大丈夫ですね」
メタボマンはグリコランを追って地中に入り、グリコランの通った穴を飛んでいく。
スクリーンの光学系センサの感度を上げ、さらに地中を超音波でエコースキャンを行いグリコランを探す。
しかしスキャンの範囲が狭いため、なかなかグリコランは見つからない。
途中メタボマンはグリコランの鳴き声が聞こえた気がした。
聴覚系センサの感度を上げると、確かに鳴き声が聞こえる。
声のする方へと進み、グリコランを発見した。
だが地中で戦うと、地上に大きな被害を及ぼすことになる。
メタボマンはグリコランを地上に追い出すことにした。
グリコランの足元にメタボナイフを打ち込む。
グリコランはマグマ弾で反撃し、メタボマンはそれをメタボバリアで防ぐ。
そして再度メタボナイフを発射する。
幾度か繰り返すうち、グリコランは地上へ向かっていった。
メタボマンもその後を追う。
ついにメタボマンは地上に出た。
しかし既にタイマーは赤に変わっている。
メタボマンはメタボスピアを使った。
だがグリコランは尾でスピアをすべて弾き飛ばす。
もうこの残り時間では、メタボリウム光線は使用できない。
メタボマンは新しい戦法を試すことにした。
グリコランの周りを高速移動して分身し、クロスショットを放つ。
グリコランは防御しきれず、クロスショットを浴び爆発した。
「メタボマン、よくも貴重な地底怪獣を倒してくれたな。グリコランの敵は必ず取ってやる」
「いや、逆恨みだろ、それ」
スカル星人は去っていった。
変身が解けた出部は連続変身して、空から街の様子を見る。
今回の攻撃も合わせて、美多民市の三分の一が既に破壊されている。
これ以上の破壊を許せば、市の復興に大きな支障が出るであろう。
外回りの回数を増やそうと、メタボマンは思った。
自宅近くまで来ると、メタボマンは変身を解くため、光のリングを地上に投げた。
リングは円筒状になり、中から出部が現れた。
出部は自宅まで歩いていく。
「それにしても、今日の槇場さんはかわいかったなぁ」
自分にしがみついてきた、碧の姿を思い出す。
「もしかして、俺に惚れたか?」
出部はちょっと自惚れてみた。
だが空しくなるばかりである。
「そうだよなあ。あんなにかわいい娘が、こんなおっさん好きになるわけないわな」
そしていつも碧から、辛口のお言葉をもらっていることを思い出す。
出部は碧が昔からあのような態度であったか考えた。
さすがに新人のときは違ったはずである。
そしてそのころの記憶をたどってみる。
おぼろげながら碧が新人のとき何かあったことを思い出したが、出部はどうしてもそれ以上思い出せなかった。
「まあ彼女が普通に話してくれただけで十分だ」
出部はビールとつまみを買って帰っていった。