第七話 「語られた真実」
翌朝碧は自室のベッドで目が覚めた。
だがどうやって帰ってきたのか、まったく憶えていない。
しかも飲み会のとき、とんでもないことをしたような気がする。
しかしいくら考えても思い出せなかった。
とりあえず碧は着替えて会社に向かおうとしたが、今日から自宅待機であることを思い出した。
しばらくして紅葉から電話がかかってきた。
「もしもしー」
「碧おはよー。大丈夫?」
「うん大丈夫。でもところどころ記憶が飛んでる」
「あんた昨日、飲み会のとき自分が何をしたか憶えてる?」
「ううん。何かしたような憶えはあるんだけど、思い出せない」
「あんた、酔っぱらってイデブーにキスしたのよ」
「……え?」
「そこにいた人たち、みんな大騒ぎになっちゃって、あたしとイデブーであんたを連れ出すのに苦労したんだから」
「何で? 何で私があんなのにキスするの?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ。やっぱりあんた、イデブーのこと好きなんじゃない? 自分が気がついていないだけで」
「そんな、そんなわけないじゃない」
「とにかく、寝ちゃったあんたをイデブーが送り届けてくれたんだから、今度会ったらお礼くらいは言っときなさいよ」
「う、うん……」
電話を切った碧は落ち込んだ。
酔っていたとはいえ、あの出部にキスしてしまうとは。
どんな顔をして出部に会えばいいのか。
自宅待機中なのが救いであった。
そして電話での紅葉の言葉を思い出す。
(私がイデブーを好き?)
(そんなはずないじゃない)
(私の厚意を無にしたあんな奴を)
一方、出部は気分のいい朝を迎えていた。
会社は自宅待機で、昨夜は碧にキスされ、これで怪獣さえ出てこなければ、幸せな一日である。
しかしその期待は、テレビのニュースによって破られた。
また怪獣が現れたらしい。
出部はメタボマンに変身して、現場に飛んでいった。
「来たかメタボマン、今日はこの怪獣の相手をしてもらおう。クレストール! メタボマンを叩きつぶせ!」
ビルを破壊していたクレストールは、メタボマンの方を向いた。
全身に甲冑をまとったようなサイのような格好である。
そのままクレストールはメタボマンに突進していく。
メタボマンが避けると、クレストールはビルに突っ込んでいき破壊した。
その隙にメタボマンはメタボナイフを撃った。
だがナイフは甲冑に吸収される。
次にクロスショットを放つが、これも吸収される。
クレストールの甲冑はエネルギーを吸い取ることができるようである。
「これならどうだ!」
クレストールの頭部めがけて、水引ブーメランを投げるが、クレストールは体の向きを変え、甲冑でブーメランを弾き返した。
やはりクレストールの甲冑を壊すしか手がない。
メタボマンは水引ファイアーを照射した。
すると甲冑は熱線を吸い取り、その部分が高熱を帯びてくる。
続けてメタボマンは手の先からハイパー水流を放射した。
急激な温度変化により、クレストールの甲冑にヒビが入る。
メタボマンはそこを狙い、再度ブーメランを投げると、クレストールの甲冑は砕けた。
だが甲冑の下から出てきたのは、体中から生えている無数の砲筒であった。
クレストールは全身から砲撃し、弾幕を張った。
メタボマンはメタボバリアで防ぐが、周りの建物が次々と破壊されていく。
「くっ、こんなことになるとは」
メタボマンはメタボスピアを使ったが、光の槍はすべて弾幕に打ち抜かれた。
このままでは防戦一方である。
しかし突然クレストールは砲撃をやめた。
見ると甲冑が再生されていく。
「こいつも再生するのか!」
メタボマンは頭部を攻撃しようと、ブーメランを手に持ち、クレストールに向かっていったが、クレストールは頭部の角からビームを発射しメタボマンを攻撃する。
メタボマンは打つ手がなくなった。
そのときスクリーンに”Alart”の文字が点滅し、武器欄にメタボリウム光線が追加されている。
もうこの武器に頼るしかなかった。
メタボマンが頭上で両腕を交差させると、両手が光りだす。
そして両手をそのまま突き出して叫ぶ。
「メタボリウム光線!」
するとメタボマンの両腕から、らせん状の光が発射されクレストールに命中した。
クレストールは甲冑でエネルギーを吸収しようとする。
しかしメタボリウム光線のエネルギーは、クレストールの許容吸収量を遥かに超えていた。
クレストールは吸収し切れず爆発した。
「メタボマン。まさかそんな必殺技を持っていたとはな。だが私は美多民市の征服をあきらめない。貴様を倒し必ずやこの土地を手に入れてみせる」
「待てスカル星人! おまえはなぜこの美多民市を狙うのだ!」
「教えてやろう。昔我々はエネルギー鉱石・スカルナイトを載せた輸送船を、この星の近辺でロストしたのだ。昔と言っても地球の歴史では、人類がやっと火を使いだしたころだがな。その時のデータから見て、輸送船はこの土地に墜落したと見られる」
「おまえたちの先祖が、大昔地球の近くに来ていたのか!?」
「こんな辺境の星に用はない。おそらく輸送船が恒星間航法の出現座標を再計算した際、何らかのエラーが起こり目的地とはかけ離れたこの場所へ出てしまったのだろう。それに、我々の先祖ではない。”我々”だ」
「おまえたちの寿命は一体……」
「我々スカル星系独立連盟は、現在星間戦争を行っている。そのためエネルギーの確保が最優先事項なのだ。そしてその輸送船をこの付近でロストした記録が、たまたま最近見つかったのでな。残っていたデータを分析し回収しに来てみれば、地球人どもが居座ってしかもビルを建てている始末だ」
「じゃあ、今まで怪獣たちがビルを壊していたのは……」
「そうだ。地中をスキャンし地面を掘り返すのにじゃまだからだ。地下にあるスカルナイトが手に入れば、我々は後十年は戦える」
「そんなことのために…… もう一つ聞く。星間戦争の相手は誰だ」
「カメロパルダリス星系連合だ」
そう言うとスカル星人は消えていった。
「俺はカメロパルダリス星人に利用されていたのか?」
「メタボマン、それは違う」
カメロパルダリス星人の声が聞こえてくる。
「確かにスカルナイトが掘り出されると我々は不利になる。だが我々が君に力を与えていなければ、美多民市は既に廃墟と化していただろう。これは利害が一致した者同士の共闘なのだ」
「じゃあ何で始めに説明してくれなかったんだ!」
「あの時点で話しても、君が宇宙人同士の抗争に巻き込まれるのを恐れると考えたからだ。だが今まで説明しなかったのは謝ろう。申し訳ない」
メタボマンは理解はしたが、釈然としない思いも残った。
数日後、オフィスが見つかったので引っ越しをするという連絡が入った。
指定された日に旧オフィスに行くと、みんな集まっている。
早速荷作りを始めると、紅葉に連れられて碧がやってきた。
「ほら」
紅葉が碧をつつく。
「出部さん、先日は家まで送ってくれてありがとうございました」
「いや、何てことないから」
「そ、それに、私酔っぱらって、出部さんにとんでもないことしちゃったみたいで…… ご、ごめんなさい!」
碧は頭を下げるが、もう耳まで赤くなっている。
「俺は気にしてないから。というか誰かと間違えたとはいえ、君みたいな美人だったらかえってうれしいよ」
碧と紅葉は自分たちの席に戻ってきた。
「イデブーいい人なんだけどねー」
「……うん」
「あんた誰かと間違えたの?」
しかし碧は答えなかった。
かくして梱包は無事終わった。
来週月曜日の午前九時集合で、午前中は開梱及び整理と決まり、一同は解散した。
次の月曜日、出部は外回りから新しいオフィスに帰ってきた。
そして午前中できなかった開梱をしていると突然ビルが揺れだす。
「うわっ、まただ」
「今日は地震多いですね」
「大地震の前触れとか」
「嫌なこと言わないでくださいよー」
出部は隣の女子社員に聞いてみた。
「そんなに地震あったの?」
「多いときは、これぐらいの地震が十分おきにありましたよ。今まで感じなかったんですか?」
「うん、外を歩いてるときは気がつかなかった」
ある社員が気象庁の震源リストを見てみた。
しかしリストには美多民市近辺が載っていない。
「変だな。普通マグニチュードとか載ってるんだけど」
だがそれ以降地震は収まってしまった。
その翌日、出部は朝からオフィスに出社した。
椅子に座るとまた地震が起こる。
しかも普通の地震と違い、非常に長く揺れ続ける。
ふと見ると碧が真っ青な顔をしている。
「碧、大丈夫? もう帰った方がいいんじゃない?」
「だって帰っても地震はなくならないし。みんながいるここにいた方がいい」
「槇場さんどうしたの?」
出部は紅葉に聞いてみた。
「この娘、地震が苦手なんです。昨日から調子悪いみたいで」
「じゃあ無理しないで、仮眠室に行った方がいいよ」
「うん、そうします」
碧が立ち上がったとき、また地震が起こった。
碧は悲鳴を上げ、思わず出部に抱きつき、揺れが収まってもしがみついている。
「碧、碧」
碧はやっと状況を把握し、出部から離れた。
「ご、ごめんなさい」
「碧。あんた出部さんに付き添ってもらって、仮眠室で手を握ってもらってなさい」
「え? 何で俺? 照山さんが付き添えばいいんじゃない?」
「私は忙しいんです。デスクワークの少ない出部さんが行ってあげてください。それともいやなんですか?」
「別にいやじゃないけど……」
碧は躊躇したが背に腹はかえられない。
「出部さん、お願い……」
二人は仮眠室に向かったが、また地震が起き、碧が廊下で悲鳴を上げた。
他の女子社員が紅葉に聞いてくる。
「碧ってイデブーのこと好きなの?」
「さあ?」
「だってこないだキスするし、今日も仮眠室に付き添ってもらうし。私なら絶対できないもん」
「そうねえ。他に男性がいなかったからかもしれないけど、少し素直になってきたかもね」
そのころ出部は碧を仮眠室に連れてきた。
「出部さん、ちょっと後ろ向いててください」
「ああ、ごめんごめん」
碧は下着姿になり、ベッドの上で毛布をかぶった。
「もういいですよ」
出部がこちらを向く。
「でも本当に地震が苦手なんだね」
「子供のころからダメなんです。学校でも誰かにしがみついていました。あ、女の子にですよ」
「それじゃ、昨日とかよく眠れなかったんじゃない」
「ええ、実はもう眠くて。出部さん、手を握っててくださいね」
出部が碧の手を握り話し掛けようとすると、碧はもう眠っていた。
出部は碧の頬にかかった髪を直してやる。
「かわいい寝顔で。もうちょっとやさしく接してくれるといいんだがなあ」
そしていつの間にか出部も寝てしまっていた。