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メタボマン  作者: malta
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第六話 「真夏の雪」

 出部は会社で報告書の作成に追われていた。

出していない報告書がたまっていたため、課長に散々嫌味を言われたのである。

出部が残業して必死に報告書を書いていると、先に仕事が終わった碧があいさつをして帰っていった。

「槇場さん忙しそうだな。このところ毎日残業してるもんな」

もちろん鈍感な出部には、碧が残業している理由などわかるはずもなかった


 次の日、出部が残った報告書を書いていると、空からスカル星人の声が聞こえてきた。

「メタボマン。これから怪獣リバロでこの街の人間と建物を殲滅する。覚悟するのだな」

だがいくら待っても怪獣は現れない。

そのうち社員から声が上がり始めた。

「冷房入れすぎじゃないですか?」

「うん、寒すぎー」

出部が設定温度を見ると、いつもと同じ二十八度のままである。

とりあえず出部は全冷房を切ったが、まだ寒いと言われる。

「おかしいな。冷房は全部切ったんだが」

「とにかくビル管に聞いてくださいね」


 何で俺がと言いながら、出部はビルの管理会社に電話をかけたが、まったく繋がらない。

おそらく全館から問い合わせが殺到しているのであろう。


 そのうち外を見ていた社員が声を上げた。

「……雪だ」

真夏に雪が降っている。

「そんなばかな」

「灰でも降ってるんじゃない?」

だが雪はやがて吹雪となり、オフィスの室温も徐々に下がっていった。

「寒い……」

「暖房入れてー」


 出部は暖房を最強にしたが、ほとんど役に立たない。

「出部さん、その体型なら上着いらないでしょう? 貸してください」

出部は碧に上着を渡した。

「わー、これ大きすぎー。女子が二人入れそう」

「あたしも入る!」

紅葉が上着に入ってきた。

他の男性社員も、女子社員に背広を貸し始めた。

しかしそれでも寒さはしのげない。


 そしてついに怪獣リバロが現れた。

リバロは口から七色の冷凍光線を吐き、街を氷付けにしていく。

さらに頭部にあるガトリング砲から光弾を連射し、ビルを破壊し始めた。

「早く逃げないと!」

「どこに逃げればいいの? 外は吹雪で、この格好じゃ凍え死んじゃうじゃない!」

「でもここにいても怪獣の餌食だ」


 出部はそっと部屋を出ようとしたが、碧に見つかってしまった。

「出部さんどこいくの? 危ないわよ!」

「ちょっと外の様子を見てくる」

そう言うと出部は駆けだしていった。

外に出ると猛吹雪で、既にかなりの雪が積もっている。

「クリスタル!」

出部はメタボマンに変身しようとした。

しかし空の厚い雪雲に円盤との交信を阻まれ、変身できない。

このままでは本当にリバロに街が全滅させられてしまう。

出部はなす術もなく空を見上げていた。


 すると雪雲の一角が光りだした。

そして雪雲に穴が開き、中からカメロパルダリス星人の円盤が現れた。

「メタボマンに告ぐ。直ちに変身せよ」

「ラジャー!」

出部はメタボマンに変身し、吹雪の中リバロを探した。

するとビルが壊れる音がする。

音を頼りに進んでいくと、雪の中を四足の白い恐竜が動き回っている。

これがリバロであった。


 リバロはメタボマンを見つけると、冷凍光線を吐いた。

ふいをつかれ、メタボマンは氷付けになってしまった。

このまま氷が割れれば、中のメタボマンごと粉々になってしまう。

だがメタボマンは生きていた。

水引ファイアーで氷を溶かし脱出する。

メタボマンはさらにリバロに向けて水引ファイアーを放つと、リバロも再度冷凍光線を発し、水引ファイアーを相殺する。


 メタボマンがメタボナイフを投げると、リバロは光弾の弾幕を張ってきた。

メタボマンはそれをバリアで防御する

しかし流れ弾の一つが、碧たちがいるオフィスを襲い、窓の近くの物が窓ごとなくなってしまった。

そこからオフィスに雪が吹き込み、室温が一気に下がる。


「このままじゃ凍え死んじゃう」

「外もだめ、ここもだめなら上に行くか」

碧たちはビルを上っていく。

屋上に出てしまうと吹雪いているので、碧たちは階段にいた。

だがここも、外よりはましという程度でしかない。

社員たちはみんなで固まり、温めあっていた。


 そのころメタボマンは、リバロのガトリング光弾を防ぐのに手いっぱいで、反撃できずにいた。

だが再び流れ弾が、碧たちのオフィスへ向かっていく。

「まずい!」

メタボマンはメタボナイフでリバロの目を狙い、足止めをしてからオフィスへ向かった。


 社員たちは寒さを紛らすため話をしていた。

「そう言えば出部さんてどうしたんだ?」

「もしかして一人で逃げちゃったとか?」

「イデブーがそんなにうまく立ち回れるなら、とっくに出世してるわよ」

「碧。もしかしてイデブーを擁護してる?」

紅葉が碧をからかう。

「そ、そんなわけないじゃない! 何で私があんなのをかばわなきゃなんないのよ!」

しかしみんなが話をしているとき、再び光弾がこのビルを貫いた。

ビルの中に穴が空き、碧と紅葉はその中に落ちてしまった。

碧が目をあけると、太いパイプにつかまった紅葉が碧の腕をつかみ、懸命に引っ張っている。


「碧、もう少しだからね。手をしっかり握ってて!」

しかし紅葉の握力はそろそろ限界である。

碧が下を見ると、底が見えない。

(このままじゃ二人とも落ちちゃう)

碧は決心した。

「紅葉、ごめんね」

そう言うと碧は目を閉じ、手を離した。

碧の体が下へと落ちていく。

「碧! 碧ー!」

(私はここで死ぬんだ。紅葉、さようなら)

(イデブーともとうとう仲直りできなかったな)


 そのとき誰かに抱きとめられたような感触があり、碧は目を開けた。

「メタボマン!」

「槇場さん、大丈夫かい? あきらめちゃいけないな」

「え? 私名前を言いましたっけ?」

「あ、いや、首から下げているIDカードを見たのさ」


 メタボマンは紅葉も引き上げ、二人を屋上へ降ろした。

「碧のバカー! 今度あんなことしたら絶交だからね-!」

「ごめんね。私あれしかか考えつかなかったの」

「メタボマンが助けてくれたからよかったものの……あれ? メタボマン?」

メタボマンはまたリバロのところへ飛んでいった。

「メタボマン、本当にありがとう」

碧は命の恩人に感謝した。


 メタボマンがオフィスのビルに急行している間、リバロはまたガトリング光弾で建物を破壊し続けていた。

「早く倒さないと本当に全滅させられるぞ」

メタボマンはクロスショットを発射したが、リバロには効かなかった。

そしてメタボスピアも、リバロの虹色のバリアで防がれる。


 リバロはメタボマンに向かって突進してきた。

メタボマンがリバロの体に触れると、たちまち手が凍りつく。

「こいつは体も超低温か!」

両手が使えなくなり、一旦空へ逃れる。

「何か奴を倒す方法はないのか」

しかし新兵器は特にない。

「これしかないか。行くぞ!」


 メタボマンは地上に降り、リバロへ向かっていく。

リバロが冷凍光線を吐いてくるが、メタボバリアで防ぎ、構わず進んでいった。

そしてリバロに体当たりした瞬間攻撃する。

「水引ファイアー、零距離照射!」

超熱線がリバロの体を溶かしていき、リバロはたまらず逃げようとする。

「逃がすかよ!」

メタボマンは激痛の走る手でリバロを捕まえる。

そのまま水引ファイアーを照射し続け、ついにリバロは水となった。


 雪雲が消えていき、徐々に夏の天気が戻ってくる。

「やったか……」

「メタボマン。夏の雪のプレゼントはお気に召さなかったようだな。だが今回で美多民市もかなり破壊された。次で全滅させてやる。ではさらばだ」

「俺はおまえにメタボスピアをプレゼントしたいよ」


 戦いには勝ったが、満身創痍である。

メタボマンは出部の姿に戻り、きずを治すため再度変身した。

そして空から街の様子を調べる。

「こりゃ思ったより被害が大きいぞ」

ビルは破壊され、道路は冠水している。

冠水だけでも何とかしたいが、今のこの街には水の逃がし場所がない。

「だめだ。俺の力では元に戻せない」

メタボマンはあきらめて会社に帰っていった。


 社員たちは自分たちのオフィスへ戻ってきていた。

出部がオフィスに入ると、窓の壁がごっそりなくなっている。

「うわっ、何だこれ」

「出部さん、今までどこ行ってたんですか」

今日は紅葉に怒られる。

「いや、ちょっと外の様子を見てたら雪に埋もれちゃって、メタボマンに助けてもらったんだ」

「こっちもあたしと碧が穴に落ちちゃって大変だったんですからね」

「いいのよ紅葉。どうせ出部さんがいたって、何も変わらないんだから」

「槇場さん、それはきついなあ」


 とにかく、ビルに穴が空いている以上、退去命令が出るのは時間の問題である。

支社長は総務部に新しいオフィスを借りるよう依頼し、社員には当面の間自宅待機という措置を取った。

しかし怪獣がいつ来るかわからない以上、出部は自宅でのんびりしているわけには行かなかった。


 夕方には解散となったが、このオフィス最後の日ということで、有志で集まって飲みに行くことになった。

もちろん酒好きの出部も参加する。

そして何と碧も出席した。

「碧、飲み会に来るなんて珍しいじゃん」

「あのオフィスも長かったから」

「本当にそれだけ?」

「そんなこと言われても、何もないんだけど」


 飲み会は宴もたけなわである。

出部がいつも通り、一人でちびちびと飲んでいると、碧がやってきて出部の隣にぴょんと座る。

「はーい。イデブー飲んでるー?」

「もしかして槇場さん酔ってる?」

「酔っれなんからいもん」

「でも何だか様子がおかしいよ」

「らいじょーぶ。よっら人にはこんらことれきませーん」

そう言うと、突然碧は出部にキスした。

その場で見ていた全員が、飲み物を噴き出す。

「もしかして、槇場さんてツンデレ?」

「いつの間にそんな仲になったの-?」

「あちゃー、碧ったらー」

予想外の行動に驚き、紅葉は碧をつれて帰ることにした。

「皆さんすみません。碧が酔っちゃったみたいなんで、お先失礼しまーす」

「照山さん。彼女俺の背中で寝ちゃってるよ」

「えー、どうしよう」

「俺がおぶって行くよ」

出部も一緒に店を出た。


「出部さんすみません。碧寝ちゃって」

「槇場さんにはプレゼントをもらったからお返しだ」

「碧ったら、何で突然あんなことしたんだろう。別にキス魔でもないのに」

「俺の魅力に気づいたとか」

「それはないです」

紅葉が冷静に突っ込む。

「でも出部さん変わりましたね」

「そうかな」

「最近自信が出てきたって言うか。課長に怒られてても余裕があるみたい。そういうときの出部さんてちょっとメタボマンに似てる感じ」

「そ、それは光栄だなぁ」


「俺って、何で槇場さんに……」

「え?」

「いや、何でもないよ」

出部は自分が碧に嫌われている理由を紅葉に聞こうとしたがやめた。

そして二人は碧を家まで送っていった。

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