第四話 「怪獣と少年」
出部は今、いつもの通り課長の前にいる。
今日は特に機嫌が悪いのか、課長は出部の容姿や仕事ぶりを揶揄した。
女子社員はくすくす笑っている。
さらに課長は、出部のように無能な社員がこの部にいられるのは自分のおかげだと言いだす。
自分の我慢にも限界があるから、しっかり働いて欲しいと。
すると碧が立ち上がり、課長に話しかけた。
「課長。そんなに我慢することはないと思います。出部さんには元の部署に戻ってもらえばいいんじゃないですか」
それを聞いた人々は凍りついてしまった。
だがおかげで出部は課長から解放された。
給湯室で碧と紅葉が話している。
「碧ったら、何であんなこと言ったのよ」
「だって適性がない人には、他の部に移ってもらった方が本人のためにもなるでしょ」
「それはそうかもしれないけど、あんたがあの場で言うことじゃないんじゃない」
「毎日毎日あのやり取りを聞かされてたら、こっちがストレスたまっちゃうわよ。とにかく誰かが何か言わないとだめなの」
そう言うと碧は席へ戻っていった。
紅葉がそれを追いかけるが、途中出部に会った。
「槇場さん、さっきは……」
「もっとしっかりしてください」
「はい……」
「出部さんごめんなさい。ちょっと碧ったら待ちなさいよ」
出部は仕事を終わらせて帰っていったが、何となく心も体も重い。
足を引きずるように、駅に向かう道を歩いていた。
そのときスカル星人の声が聞こえてきた。
「メタボマン、たまには夜の戦いも乙なものだろう。エパデール! メタボマンを八裂きにして来い!」
そして街にエパデールが現れた。
全身黒の体色で、クワガタ虫のような姿をしている。
出部もメタボマンに変身し、巨大化した。
エパデールはいきなり角からビームを発射した。
メタボマンはメタボナイフでビームを止める。
次の攻撃に移ろうとしたとき、エパデールの姿が消えた。
「……ステルスか」
エパデールの体表面はすべての電磁波を吸収可能なため、暗闇で姿を消すことができる。
メタボマンは、可視光線、赤外線、紫外線センサーの感度を最大にしたが、エパデールを見つけることはできなかった。
突然後ろからエパデールが角で絞め上げてきて、さらに三つ目の角からビームを放ち、メタボマンにダメージを与える。
何とか抜け出すと、エパデールは再び闇の中へ消えていった。
メタボマンは聴覚系センサーの感度を上げ、エパデールの音で位置を探ろうとしたが、雑踏の中では雑音に紛れてしまう。
次にメタボマンは自分の周りでブーメランを回転させ、その輪を少しずつ大きくしていく。するとあるところでブーメランとエパデールの体が接触した。
「そこか!」
メタボマンはブーメランを胸につけ、水引ファイアーを照射する。
エパデールの体表面の温度が上がり、メタボマンのHMDスクリーンで見えるようになった。
メタボマンはさらに水引ファイアーを照射するが、突然熱線は跳ね返された。
どうやらエパデールは、体表面での電磁波の反射率を変えられるようである。
メタボマンは頭部を狙うことにしたが、それにはあの角がじゃまになる。
メタボマンはエパデールを捕まえ、力ずくで角をへし折った。
そしてエパデールの頭をめがけてブーメランを投げようとすると、その瞬間スカル星人の声が聞こえてくる。
「エパデール、戻れ!」
エパデールは異次元へと戻っていった。
カメロパルダリス星人の円盤が現れ、声が聞こえてくる。
「メタボマン。今の戦いで、エパデールが攻撃するときに、ある周波数の電磁波を出すことがわかった。メタボヘルムで表示できるようアプリケーションを改修するので、待っていて欲しい」
「了解」
次の日、新聞の見出しに『メタボマン、怪獣を取り逃がす』と書いてあった。
それを見て出部は憤慨した。
記事自体もメタボマンの非効率な戦い方を指摘し、否定的な論調であった。
「文句があるなら自分でやれってんだ」
会社に行くと、早速課長に捕まった。
出部の仕事の進め方に不満があるらしく、いろいろ文句を言われる。
朝から機嫌が悪かった出部は、思わず言ってしまった。
「文句があるなら自分でやってください!」
課長はまさか出部から反撃されるとは思っていなかったので、黙ってしまった。
「へー、イデブーが言い返すところ初めて見た」
「やればできるじゃない」
「碧の叱咤激励が効いたんじゃない。ねえ碧。……碧?」
紅葉が碧の視線を追うと出部がいた。
「碧、どうしたの」
「あっ、ごめん。ボーとしてた。」
「もしかして恋の悩み?」
「そんなわけないじゃない」
その夜、またしてもスカル星人の声が街に響く。
「メタボマン、エパデールの弱点は改良した。どんな戦いになるか見せてもらおう」
エパデールが再び夜の街に現れた。
出部は格子結晶に向かって話しかける。
「おーい、アプリの更新はどうなったんだよー」
だが円盤からの返事はない。
出部は変身し巨大化した。
アプリの更新がないのでは、前回と同じ戦い方をする以外ない。
メタボマンは再度エパデールの角を折りにいった。
だがエパデールは二本の角から電撃を発し、メタボマンはダメージを受ける。
何とか電撃を避け角をつかむと、今度は角に流れる電撃を浴びる。
そしてエパデールはステルスを使い、闇に紛れていった。
メタボマンもブーメランを自分の周りに回転させ、エパデールの位置を探る。
ところが今回は何も接触しないため、エパデールの位置をつかめない。
またもやエパデールが、後ろからメタボマンを角で挟み、電撃でメタボマンを痛めつける。
メタボマンは何とか逃れようと試みる。
メタボナイフを作り、後ろにいるエパデールの頭へ投げつけた。
エパデールは驚き、メタボマンから離れる。
だがメタボマンが攻撃しようとすると、エパデールはまたステルスを使った。
エパデールが見えない中、やっとカメロパルダリス星人の円盤から連絡が入った。
「メタボマン、これからアプリを送るのでアップデートするのだ」
そしてダウンロードが始まった。
だがなかなか”Downloading”の文字が消えない。
やっと終わったと思うと、今度は”Verifying”と表示される。
送られたデータが正しいか調べているようだ。
これもまた時間がかかる。
最後に”Installing”と出てアプリのインストールが始まった。
もはやメタボマンは気にせず戦っている。
そのうちにインストールが終わり、一瞬スクリーンが消え、すぐに視界が回復する。
エパデールがビーム攻撃をするとき、しばらくその体が見えるようになり、攻撃・防御ともしやすくなった。
エパデールが後ろから電撃を撃ってきたので、メタボマンは水引ファイアーで応戦する。
しかしエパデールはバリアを張って防いだ。
さらにメタボマンは頭部を狙ってブーメランを投げるが、同じくバリアに弾かれる。
そしてまたエパデールは見えなくなり、みたび後ろからメタボマンを角で締め付け、電撃で攻撃した。
「これを待っていたぞ!」
メタボマンはさらに巨大化した。
だがこれ以上大きくなると、自重に耐えられない。
メタボマンはひざを痛めたが、構わず巨大化した。
そしてついにエパデールの二本の角を折った。
これでエパデールの攻撃は封じたが、バリアはまだ生きている。
ふとスクリーンを見ると、隅に”Alart”の文字が見えるので確認すると、クロスショットが使用可能になっていた。
威力は不明であるが、メタボマンはこれを試すことにした。
顔の前で両手を交差させ叫ぶ。
「クロスショット!」
クロス状の光線が、エパデールのバリアを破り頭部に命中する。
エパデールは爆発し灰になった。
「メタボマン。私が育てたエパデールをよくも倒してくれたな。お返しは駆け付け三杯だから、よく憶えておけ」
「その日本語はどこから憶えてくるんだよ」
メタボマンは空を飛んでいった。
だがエパデールの灰の中から一匹の幼虫が出てきたことは誰も知らなかった。
翌日少年たちが、戦いの現場を見に来ていた。
「すげー、ここで爆発したんだろ」
「メタボマンつえー」
ところが一人の少年がエパデールの幼虫を見つけた。
「ぼ、僕用事あるから帰る」
「おい次郎待てよ!」
だが次郎は幼虫をかばんに入れ、家へ帰ってしまった。
次郎は早速インスタントコーヒーの空きビンにオガクズを入れ飼育を始める。
しかし成長が異様に早く、一週間ほどで成虫になってしまった。
「そうだ名前をつけよう。おまえの名前はノコギラーだ」
ノコギラーが空を飛んでいるときに、次郎が名前を呼ぶと肩に止まる。
「おまえ虫なのに頭いいな」
だがノコギラーの成長は止まらず、三日間で象亀ほどの大きさになってしまった。
さすがに次郎は驚き、ノコギラーを外へ返すことにした。
ノコギラーを林の方に持っていくと、自分で飛んでいって林の中に消えていった。
次郎は数日間、ノコギラーのことを心配していた。
「あいつ生きてるのかな。腹減ってないかな」
ある日の夕方、次郎の兄がテレビをつけると、怪獣出現のニュースをやっていた。
「ノコギラーだ!」
そう叫ぶと次郎は外へ飛び出していった。
出部は既にメタボマンに変身し、怪獣と向き合っていた。
あたりはもう暗くなり始めている。
「まさかもう一体いたとはな」
怪獣は空を飛び電撃を発射する。
メタボマンはそれを避け、クロスショットを撃つ。
だが怪獣は体表面の反射率を変えクロスショットを全反射させた。
メタボマンは胸から水引ブーメランを取り外した。
そのとき次郎がやってきて叫んだ。
「メタボマン! ノコギラーを殺さないで!」
「ノコギラー?」
「僕が育てたんだ!」
「とにかくここは危ない! どいているんだ!」
ノコギラーは角を伸ばし、より鋭角にした。
そしてステルスを使い、姿を消して空を飛び角で攻撃してくる。
メタボマンは後ろに気配を感じ飛びのいたが、避けきれず左手を負傷してしまった。
さらにノコギラーの攻撃は続き、メタボマンの体は傷だらけになっていく。
ノコギラーはメタボマンにとどめを刺すべく、真正面から突っ込んでいった。
しかしメタボマンには見えない。
ところが次郎はノコギラーの気配を感じたのか大声で叫んだ。
「ノコギラー! やめろ-!」
名前を呼ばれたノコギラーは、ふと次郎の方を見る。
その瞬間ノコギラーの意識がそれ、姿が現れた。
メタボマンはそれを逃さず、ノコギラーの真正面にブーメランを投げた。
ノコギラーはバリアの展開が間に合わず、まっ二つになり爆発した。
メタボマンは胸の格子結晶から光を発し、あたりを浄化した。
「ノコギラー……」
次郎は泣き出した。
元の大きさに戻ったメタボマンが、次郎のところに行く。
「メタボマンのバカ! 殺さないでって言ったじゃないか!」
だがメタボマンは何も答えない。
次郎はいつまでも泣き続けた。