第三話 「謎の鳥」
朝、出部はいつもの時間に目が覚めた。
トーストをかじりながら出社の用意をする。
そしていつもの時間に家を出て、環状線の電車に揺られながら、いつもと変わらぬ風景を眺めていた。
だが駅につき会社に向かう途中、スカル星人の声が聞こえてきた。
みんなが空を仰ぎ見る。
「メタボマン、今日こそおまえを倒してやる。 行けメカダオニール! 世の中リサイクルブームだからな。ダオニールの試作品を再利用したぞ」
空に光が走り、メカダオニールが現れた。
メカダオニールはビルを壊し始め、人々は逃げまどう。
「今日はずいぶん早いお出ましだな。クリスタル!」
出部はメタボマンに変身した。
相手は前回の怪獣をメカにした物らしい。
メタボマンはメカダオニールに突進したが、その重さのためびくともしない。
メカダオニールは目から光線を発射した。
メタボマンは間一髪避けるが、ビルが爆発する。
メカダオニールは次々と光線を発射し、ビルを破壊していく。
「このままじゃだめだ。メタボナイフ!」
メタボマンは光のナイフを放つが、メカダオニールには効かない。
「水引ブーメラン!」
しかし水引ブーメランは、メカダオニールの甲羅に弾き返された。
「ハイパー水流!」
これは何も起こるはずがない。
そのうち報道関係のヘリが続々とやってきて、戦いの現場を撮ろうとメタボマンたちの頭上を旋回する。
するとメカダオニールが光線でヘリを撃ち落とし始めた。
「逃げろ!」
メタボマンはメカダオニールを抑えようとするが、簡単に振り払われてしまう。
やがてヘリは全滅した。
「ちきしょう。ヘリをむざむざと全滅させられてしまった。何か使えるようになってないのか」
スクリーンを見ると、武器の欄に”水引ファイアー”がある。
メタボマンはヘルプ画面で調べようとしたが、こうしている間にもメカダオニールはビルを破壊していく。
メタボマンは意を決して水引ファイアーを使った。
すると胸の水引から超高温の熱線が発射され、メカダオニールを直撃する。
メカダオニールは溶けていき、金属の塊となった。
「メタボマン、またしてもやってくれたな。次こそはおまえを倒してみせるぞ。なぜ毎回一体ずつなのかは聞くな。ではさらばだ!」
スカル星人は消えた。
「大人の事情の話をするなよ」
その日の仕事が終わり、出部は久しぶりに定時に帰った。
その途中、前を見ると碧がいた。
彼女はじっと木の枝を見ている。
何をしてるのか様子を見ていると、どうやら木に上って降りられなくなった子猫を助けようとしているようである。
背が届かないので周囲を見渡し、ポリバケツを持ってきて靴を脱ぎ、その上に乗るが何とも危なっかしい。
出部は手伝うことにしたが、出部のままでは素直に手伝わせてくれそうもないので変身した。
碧は思った通りバケツの上で足を滑らせ、
それをメタボマンが抱きとめた。
「メタボマン……」
「君がこういう危ないことをするのは感心しないな。誰かに頼めばよかったのに」
「だって、頼めそうな人がいなかったから……」
「とにかく、猫を助けようとして君がけがをしたのでは元も子もない。危ないことはやめた方がいい」
そう言うと飛び上がり、子猫を助けて碧に渡すと、碧は子猫を抱きしめる。
「メタボマン、どうもありが……」
しかしメタボマンは既に空中にいた。
「さらばだ。また会おう」
「また助けてもらっちゃった。メタボマン、本当にありがとう」
次の日、碧は朝早く会社に着いた。
何となく気分がいい。
「今日はずいぶん早いわね。それに何かご機嫌みたいだし」
出社してきた紅葉に指摘される。
「そんなことないってば」
心を見透かされたようで、碧はごまかす。
そこに出部が会社に来た。
「あーあ。朝から変なもの見たから、気分が台無し。給湯室行ってくるね」
碧が部屋を出ていく。
「何でそこまでイデブーを嫌うんだろう」
紅葉はそんな碧が不思議でならなかった。
今日も出部は課長に怒鳴られながら仕事をしていた。
「怒られる方も怒られる方だけど、怒る方も怒る方だね」
「イデブーそこらへん下手だから、余計課長を怒らせちゃうのよね」
そのとき、碧が課長のところに書類を持って行き質問した。
美人に目のない課長は、懇切丁寧に説明をする。
碧が礼を言って席に戻ってきたときには、もう課長の怒りは収まっていた。
「いつもながらお見事」
「だってうるさいんだもん」
「あれじゃイデブーじゃなくてもいやになるわね」
出部は残業で仕事を片付け、電車で夜遅く帰っていった。
この美多民市は都市開発計画に基づいて作られた街で、工・商業地区と居住地区が分かれている。
鉄道はそれぞれの地区を結ぶ環状線になっており、さらにターミナル駅からは、都心への電車が出ていた。
居住区には独身寮や社宅が数多く建て
られ、この市で働くほとんどの人たちは、市内に住んでいる。
もちろん出部も例外ではなかった。
出部が夕食を買いに家の近くのコンビニに入ろうとすると、店員がレジで両手を挙げているのが見えた。
不審に思った出部が様子をうかがうと、男がピストルのような物で店員を脅かしている。
「こ、こ、これはおもちゃじゃねえんだ。か、金を出せ! は、早くしろ!」
出部は変身して中に入っていった。
男はぎょっとして叫ぶ。
「な、な、何だおまえは! く、来るな! それ以上こっちへ来ると、う、う、撃つぞ!」
構わずメタボマンは近寄っていく。
「ほ、本当に撃つぞ-!」
男が拳銃から発射した弾丸を、メタボマンはマントで防ぐ。
「なな何だこいつ!」
男は全弾撃ちつくしたがメタボマンは無傷である。
「ば、化け物だ……」
男は座り込んでしまった。
メタボマンは店員に話し掛けた。
「けがはないかね?」
「大丈夫です。それよりあなたは大丈夫なんですか?」
「私のスーツは弾丸を弾き返すことができる。それでは私はこの男を警察に引き渡してこよう。さらばだ」
「ありがとう、メタボマン!」
家に帰った出部は、夕飯を買い損ねたが少し幸せであった。
翌日、碧は昼からお使いで外出していた。
いつもずっとオフィスにいるので、外出はうれしい。
碧は取引先に向かっていった。
「こんなときにメタボマンに会わないかなー。何てね」
だがその本人は、午後から課長に長時間絞られていた。
他の社員も辟易している。
(早く終わんねーかなー)
(毎日毎日よく飽きないこと)
そんなとき碧が帰ってきた。
「ただいまー」
気がつくとみんなが自分を見ている。
「な、何?」
とりあえず自分の席につき、隣の紅葉に聞いてみる。
「何があったの?」
「いつものあれよ。もう三時間ぐらいやってるから、みんなあきれちゃって」
碧は二人の話を聞いてみた。
課長の話は過去にさかのぼって、出部の昔のミスまで言及している。
そして出部も自分のミスなので、反論できないでいる。
碧は立ち上がり、課長の机へ向かった。
「課長、お話中すみません。今日のご報告したいのですがよろしいですか?」
そして出部の方を向く。
「出部さん、言うべきことは言う。改善すべきところは改善する。そうじゃないと議論になりませんよ」
出部は無言で席に戻っていった。
他の社員は碧に向かってサムズアップした。
席に戻ってきた碧に紅葉が話しかける。
「ねえ、ちょっと今のは言いすぎじゃない。イデブー落ち込んじゃってるよ」
「いいのよ。ああいう人はあれぐらい言った方が」
「ほんと、碧はイデブーに厳しいねえ」
「言ってあげないとわからないから」
出部は残業を終え、重い足取りで駅へと向かった。
(槇場さんて何で俺だけに厳しいこと言うんだろう。でも言ってることは正しいんだよな。頭いいんだろうな)
すると途中で碧と紅葉に出会った。
「あー、イデブーだー。イデブー元気ー?」
「照山さん、槇場さんてどうしたの」
「珍しく碧に誘われて飲みに行ったんですけど、この娘お酒弱いくせに飲むから酔っぱらっちゃって。ほら、碧、帰るわよ」
「イデブーごめんねー。じゃあバイバーイ」
「お先失礼しまーす。……碧ったら、さっきまではちゃんとしてたくせに」
「槇場さんでも酔っぱらうんだ。俺も飲んでいくかな」
そのとき上空から爆音が聞こえてきた。
上を見上げると、鳥のような物が飛んでいき、その後を航空自衛隊の戦闘機F-15Jが二機追っている。
”鳥”は口からレーザーを乱射し、ビルが次々と切断される。
人々は逃げ惑い阿鼻叫喚となった。
F-15Jは上空で空対空誘導ミサイルを発射し、ミサイルは”鳥”を追尾していく。
だが”鳥”は急降下してビルに向かい、その直前で方向転換したため、ミサイルはビルに全弾命中し爆発した。
出部は変身できる場所を探していた。
しかし繁華街であるため、人であふれている。
幸い証明写真ボックスがあったので、その中で変身した。
一方”鳥”とF-15Jは、それぞれレーザーと20mmバルカン砲で空中戦を繰り広げていたが、”鳥”がレーザーでF-15Jの一機を切断した。
その戦闘機が落ちてくる先に、逃げ遅れた碧と紅葉がいた。
だが二人は恐怖で足がすくみ逃げられない。
「間に合え!」
メタボマンは間一髪二人を抱えて空へ上る。
「メタボマン!」
「二人ともけがはないかい」
「はい! いつもありがとう!」
”鳥”はもう一機のF-15Jと戦っていたが、空を飛んでいるメタボマンを見つけると、いきなり向かってきた。
しかし二人を抱えたメタボマンは戦えない。
そのときF-15Jが発射したミサイルが”鳥”に命中し、炎を上げて落下していく。
碧と紅葉を安全なところに下し、落下した”鳥”を見てみると、大きさは人の三倍ぐらいである。
スカル星人の怪獣に比べてかなり小さい。
ところがしばらくして”鳥”は灰になった。
やはりスカル星人の怪獣らしい。
だがなぜこんな小さな怪獣を出してきたのかがわからない。
これは怪獣の幼生体なのだろうか。
この大きさでさえあれだけの攻撃力を持つ物が、成長したらどれだけの破壊力を持つのか。
いや、そもそもスカル星人はどうやって怪獣を作り出しているのか。
考えてもわかるはずがない。
メタボマンは元の姿に戻るため空を飛んでいった。