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メタボマン  作者: malta
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第二話 「中年戦士」

 出部いずえは朝のジョギングを始めた。

先日のリピディル戦で、足腰の弱さを痛感したからである。

弱点を残したままではいつかやられる。

さすがの出部も真剣に取り組んだ。


 ジョギング中、カメロパルダリス星人の円盤が現れ、首から下げた格子結晶から声が聞こえてくる。

「出部太よ。先日言い忘れたが、君の体のBMI値が大きく下がり脂肪細胞が少なくなると、メタボマンに変身できなくなる。もちろん足腰を鍛えることは良いことだ。だが君はメタボ状態を維持しなければならない」

「やせると変身できないのか」

「その通りだ。またこれも言い忘れたのだが、君はこの円盤からの変身許可信号を格子結晶で受信してから変身する。すなわち、電波の届かない地下やビルの中では変身できないのだ」

「そんな大事なこと言い忘れるなよ」


「出部太よ。最後に重要なことを言っておく」

「まだあるのか」

「敵や地球人に正体がばれると、二度と変身許可が下りない。格子結晶は剥奪され、最悪メタボマンに関する君の記憶も消されることになる。気をつけてくれたまえ」

そういうと、円盤は消えて行った。

「すちゃらかギャグ路線かと思ったら、結構シビアな設定だな。だが俺が今できることは、走って食うことだ」

出部はジョギングを続けた。


 家に帰って新聞を見ると、一面の見出しにメタボマンの名前が載っており、さらに昨日の怪獣やスカル星人のことも書いてある。

どうやらメタボマンとスカル星人の話を聞いていた記者がいたらしい。


 出部は早起きしたおかげで、すがすがしい気分で出勤した。

しかも課長は外出している。

出部は久しぶりに、気持ちよく仕事ができ、定時に帰宅した。

だが空を見ると厚い雲に覆われ、今にも雨が降ってきそうである。

出部は駅へ行く道を急いだ。


 途中出部がふと前を見ると、碧と紅葉がいた。

どうやらどこかの男たちとトラブっているらしく、二人は男たちに路地へ連れて行かれた。

出部は様子を見るためについていく。


「だからー、いきなりビンタはないんじゃないのー?」

碧が反論する。

「だって、先に脅してきたのはあなたたちでしょ」

「君たちがおとなしくついて来ないからだよ?」

「何で見ず知らずのあなたたちについて行かなきゃならないの」

「君も強情だねえ。そういう態度はいけないなあ。おい! そっちの女抑えとけ!」

「オッケー」

「ちょ、ちょっと、やめて!」

「紅葉!」

「おっと、おまえの相手は俺だぜ」

碧は両手をつかまれ身動きが取れない。

男は空いた手で碧の服を脱がそうとしている。

碧は叫ぼうとしたが、恐怖で声が出ない。

(誰か…… 誰か助けて……)


 出部はメタボマンに変身しようとしたが、空の厚い雨雲が電波を通さないため変身できない。

仕方なく出部は生身で助けに入ることにした。

「待て!」

碧は声がした方を見る。

「出部さん?」

「何だおまえは。怪我しないうちに引っ込んでな」

「そうはいかない。彼女たちは知り合いなもんでね」

「いいから帰れよ!」

いきなり一人が殴りかかってきた。

だが出部の腹周りに阻まれ、パンチが顔まで届かない。


「おいおい、何やってんだよこんなデブに。こういうやつにはここだろここ」

そう言うともう一人の男はローキックを放ち、出部は一発で沈む。

「女の前でカッコいいとこ見せようとしたんだろうけど、惜しかったねえ、おっさん」

出部は男たちに散々蹴り倒された。

「紅葉! 警察呼んできて!」

碧が機転をきかせて叫び、紅葉が駆けだす。

紅葉を追いかけようとする男の足を、出部がつかむ。

「うぜぇんだよ!」

出部の手を蹴り飛ばし、男たちは逃げていった。


 いつの間にか雨が降り始めている。

碧が出部に近づいてきて、声をかけた。

「助けてくれてありがとうございます。だけど自分の身も守れない人が、他人を助けようと思わない方がいいですよ」

そう言うと表通りに去っていった。

戻ってきた紅葉は出部にごめんなさいと言い、碧を追っていく。


 雨の中、出部は動けずに地面に倒れていた。

(何であいつらと戦おうと思ったんだろう)

(いつもの俺なら警察を呼んでいただろうに)

(メタボマンになれなければ、並以下の人間なのにな。槇場さんの言う通りだ)


 そのとき格子結晶から声が聞こえてきた。

空にはわずかに雲の切れ目がある。

「メタボマンに告ぐ。直ちに変身せよ。繰り返す。直ちに変身せよ」

「今ごろ変身しても遅えよ……」

とりあえず出部はクリスタルと叫ぶと格子結晶が光りだし、出部はメタボマンに変身した。


「おお、体が動く!」

「メタボスーツには簡易治癒装置を実装してある。その程度の傷なら一瞬で治せるだろう。だが治癒装置は変身時にしか作動しないのだ」

「へえ、こいつは便利だ」

そのうち救急車のサイレンが聞こえてきた。

「面倒になるから逃げるか」

「メタボマン、それより先ほどの二人組が、また槇場碧と照山紅葉にからんでいるぞ」

「何だって? 今度こそ助ける!」

メタボマンは空から碧たちを探した。

スクリーンをピンチアウトして、映像を拡大すると、男たちに必死に抵抗している碧たちが見える。

メタボマンはその場に降り立った。


「メタボマン!」

碧と紅葉が驚いて叫ぶ。

「何だおまえは。もしかしてさっきのおっさんのコスプレか?」

「へへ、こういうデブにはローキックと」

だがローキックを繰り出した男の足からボキッという音がした。

メタボヘルムのHMDで男の足を透視すると折れている。

「おい、足が折れているから、後で病院に行った方がいいぞ」

「このやろう! なめやがって!」

しかしパンチは当たらない。

逆に男はメタボマンのパンチ一発で伸びてしまった。


「メタボマン、ありがとう! あたし、あなたのファンなんです! あなたに助けてもらってほんとにうれしい!」

「紅葉、私からもお礼を言わせて。助けてもらって本当にありがとうございます。私もファンになっちゃいました。これからも頑張ってください!」

「二人ともありがとう。それじゃ私はこの二人を警察に連れて行くので。また会おう」

メタボマンは二人組を持ち上げ、空を飛んでいった。


「碧ずるい。メタボマンに興味ないって言ってたじゃない」

「だって興味が出てきちゃったんだもん。私強い男の人って好きなの」

「まったく気が多いんだから」

「えー、そんなことないよ。これでも一途なつもりなんだから」


 次の日、出部が出社すると、女子社員たちが昨日のことを話していた。

「へー、ついにメタボマンと話ができたんだ。よかったじゃない紅葉」

「うん、あたし感激しちゃった。碧もファンになったっていうし」

「ええ! 碧があの体形の人を好きになるの!?」

「別に好きになったわけじゃないわよ。興味がわいたって言っただけ。どこかの誰かさんと違って強いし」

「相変わらず、誰かさんには厳しいわね」

話が聞こえていた出部は、複雑な心境であった。


 そのとき空が割れ、怪獣ダオニールが現れた。

ダオニールは、手足と首の長い亀のような格好をしている。

ダオニールもまたビルを壊し始めた。

直ちに出部は会社を出ていつもの路地へ入り、メタボマンに変身した。

さらに巨大化し、ダオニールの前に立つ。

するとスカル星人の声が聞こえてきた。


「出たなメタボマン。このダオニールは先日のリピディルとは違うぞ。ダオニールよ、メタボマンを倒せ!」

ダオニールはメタボマンに突進して来る。

相変わらず巨大化したときに下半身に不安の残るメタボマンは、体当たりを受け簡単にひっくり返る。


「怪獣プロレスじゃ勝てない! ロケットパンチ!」

メタボマンの両手から、いくつもの光の拳が飛んでいくが、ダオニールはすべて受け止めてしまった。

「メタボナイフ!」

メタボマンの指先から無数の光のナイフが放たれる。

だがダオニールは背中の甲羅で防御し、メタボナイフは効かなかった。


 さらにダオニールは口から炎を吐いた。

メタボマンは危うく避けるが、炎がビルに燃え移る。

ダオニールは炎を吐き続け、次々とビルを燃やしていった。

メタボマンがスクリーンで新しい武器を探すと、”Alart”の文字が点滅している。

使えるようになったのは、ハイパー水流であった。

「これはこれでグッドタイミングなのだが……」

とりあえずメタボマンはビルの火を消した。


 ところがスクリーン上でさらに”Alart”が点滅している。

タッチしてみると、水引ブーメランが使えるようになっていた。

「この水引取れるのか」

胸の水引を取り外し、ダオニールめがけて投げつけると、ブーメランは三日月型の光となってダオニールを襲う。

ダオニールは背中の甲羅で受け止めようとしたが、光のブーメランは甲羅ごとダオニールを切断した。

ダオニールは灰になっていく。


「メタボマン、よくもやってくれたな。次は必ず倒してやるから、覚えていろ」

スカル星人の気配が消えた。

「なんかチンピラの捨て台詞みたいになってきたな」

メタボマンは空へ飛んでいった。


 翌日、出部は納期を間違えるという初歩的なミスを犯して課長に怒鳴られていた。

今回は出部も申し開きのしようがなく、課員たちもみなあきれていた。

「そんなミスをするなんて信じらんない。仕事変わった方がいいんじゃないかしら」

「み、碧!」

大声で話す碧を紅葉は制した。

しかし碧の罵倒を聞き、出部はますます落ち込むのであった。


 課長の説教から解放されたのは、もう昼過ぎである。

社員食堂に行くと、碧がお弁当仲間と一緒に食事をしながら楽しそうに話をしていた。

ときどき男性社員も碧に声をかけていく。

碧はその容姿もさることながら、明るい性格やみんなにやさしく振舞うことで、社員から人気があった。

(なのに何で俺だけあんなに嫌われるんだろうか。俺何かしたのかな)

しかしいくら考えても心当たりがない。

出部は社員食堂に入りづらくなり、外で昼食をすませた。


 午後は課長が外出したおかげで、出部は特に何事もなく仕事を終えることができた。

帰る途中、出部は飲み屋に寄る。

日本酒を飲んでいると、隣の席からメタボマンの話が聞こえてきた。

「それにしてもよくあの体型で戦えるもんだ」

「やっぱり宇宙人なのかね」

「あんなに大きくなれる地球人はいないよ」

「いずれにせよ、メタボマンは俺たち中年の希望だな」


 出部は話を聞いていてうれしくなった。

そしてこれからも頑張ってこの街を守っていこうと思うのであった。

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