最終話 「さらばメタボマン」
「メタボマン。おまえにことごとくじゃまされたおかげで、スカルナイト回収プロジェクトは凍結されてしまった。だがおまえを倒しこの街を征服すれば、プロジェクトは再開する」
スカル星人の声が聞こえてくる。
「今までの戦いからおまえの能力は調べ尽くした。予算をすべて投入した最強の怪獣でおまえを倒してやる。いでよトライコア!」
スカル星人が呼び出すと空に閃光が走り、怪獣トライコアが現れビルを破壊し始めた。
トライコアは黒白模様の体で二足歩行をし、胸と口の部分がオレンジ色に光っている。
そしてゆっくりと出部たちがいるビルの方へ向かっていく。
街の人々が逃げまどう中、出部はトライコアの方へ走っていった。
それを見かけた碧が出部を止める。
「出部さん、どこに行くの!? 危ないから早く逃げて!」
碧の声に出部は一瞬立ち止まったが、すぐに走り去った。
「出部さん!」
紅葉が碧を呼ぶ。
「碧! 早く逃げないと! 怪獣がこっちに向かってるんだって!」
メタボマンに変身するため、出部は路地裏に入った。
「クリスタル!」
その瞬間、格子結晶が光りだし、ついでに出部の体も光りだす。
出部はメタボマンに変身した。
そしてトライコアの近くに飛んでいき巨大化する。
メタボマンがトライコアと対峙すると、強烈な圧迫感が伝わってくる。
(こいつは強い。長期戦は不利だ)
「メタボナイフ!」
メタボマンの指先からナイフ状の光が敵に向かっていくが、トライコアには効かなかった。
「水引ブーメラン!」
胸のブーメランを投げつけるが、トライコアに手で受け止められてしまった。
トライコアは、じりじりとメタボマンに近づき、投げ返すタイミングを計っている。
そしてメタボマンがわずかにバランスを崩した瞬間、ブーメランを投げた。
すかさずメタボマンはブーメランをコントロールして反転させる。
ところがブーメランは簡単に弾き返された。
「メタボスピア!」
無数の光の槍がトライコアに降り注ぐが、すべて体の表面で弾かれる。
「クロスショット!」
クロス状の光線がトライコアに向かう。
だが光線は片手で止められた。
「くそう、水引ファイアー!」
胸の水引から発せられた超高温の熱線は、トライコアの電磁バリアで遮られる。
「攻撃が効かない……」
メタボマンの攻撃が途切れると、トライコアが口からプラズマ光弾を吐いた。
メタボマンはバリアを展開したが、光弾はバリアを破り、メタボマンに大ダメージを与え、さらにその周りの物すべてを破壊した。
残りの武器はあと一つである。
メタボマンが切り札のメタボリウム光線を両手から発射すると、らせん状の光線がトライコアを襲う。
だがトライコアはそれを掌で吸収し、逆にメタボマンに光線を浴びせ返した。
メタボマンは強烈なダメージを受け、立ちつくす。
もはや彼に攻撃する力は残っていなかった。
それを見たトライコアはいくつものカプセルを指から発射した。
カプセルはメタボマンに命中し、中からゲル状の物質が出てきてメタボスーツを溶かす。
「まずい!」
メタボマンは元のサイズに戻った。
ゲル状の溶解物質により、メタボスーツはおろか、メタボヘルムに装備されているHMDのスクリーンまで溶けている。
スーツの機能はいまや完全に停止していた。
「素顔を誰かに見られたらお終いだ。早くどこかへ行かないと……」
しかしダメ-ジのため、体が動かない。
ゲル状物質の中をメタボマンはのたうちまわっていた。
そこに人影が現れた。
メタボマンを心配してやってきた碧であった。
そしてメタボヘルムから覗く出部の顔を見て驚く。
「出部さん…… あなただったの……」
「槇場さん、頼む! こんなみじめな俺を見ないでくれ!」
ところが碧は出部のそばにやってきて、ハンカチでゲル状物質を拭き始めた。
「槇場さん、俺のことはいい。危ないから早く逃げるんだ!」
「出部さん、ごめんなさい。メタボマンのあなたに命まで助けてもらいながら、あなたにひどいことばかり言ってた。本当にごめんなさい……」
碧は泣きながら謝った。
そのときトライコアが破壊したビルの瓦礫が、碧の上に降ってきた。
「きゃ……」
「危ない!」
出部は身を挺して碧をかばう。
瓦礫が出部の背中を直撃したが、マントは既に溶けてしまっている。
「出部さん? 出部さん!」
しかし出部の返事はない。
「イヤーーー!!」
そのとき格子結晶からボーンという音がして、カメロパルダリス星人の声が聞こえだした。
「本来であれば、正体を知られたメタボマンは二度と変身許可が下りない。だが今回だけはもう一度チャンスをやろう。槇場碧よ、メタボヘルムの両耳にあるロックカバーを開け、その中にあるボタンを左右同時に押すのだ」
「だ、誰? それで出部さんは助かるの?」
「今のままでは、メタボスーツの治癒装置が作動しない。出部太を助けるには、メタボスーツを最適化し直すその方法しかないのだ。さあ早くヘルメットのボタンを押したまえ」
碧がボタンを押すと、出部の姿に戻った。
「今のはリセットボタンだ。次に出部太のネックレスについている格子結晶を握り、『クリスタル』と叫ぶのだ」
半信半疑で碧が叫ぶ。
「クリスタル!」
格子結晶が光りだし、出部はメタボマンの姿に変身した。
格子結晶の光の浄化作用により、周りのゲル状物質は消えている。
「うぅ、俺は一体……」
「出部さん! 気がついたの!? よかった!」
「メタボマン、君の経験値や使用可能な武器はすべてリセットされた。そこで、こんなこともあろうかと用意しておいた武器を授けよう」
メタボヘルムのスクリーンに”Alart”の文字が点滅している。
文字をタッチすると武器の欄に”メタボソード”と”メタボシールド”が現れた。
「さあ行くのだ、メタボマン」
「槇場さん、危ないから離れてて」
「はい!」
メタボマンは再度巨大化し、メタボソードとメタボシールドの名を叫ぶ。
すると二つの光の玉が現れ、一つは剣の形に、もう一つは盾の形に変わっていく。
それらを両手に持ち、メタボマンはトライコアへ向かっていった。
トライコアは先ほどのカプセルを再度発射した。
それをメタボシールドで払いのける。
次にトライコアはプラズマ光弾を吐いたが、メタボシールドは光弾を完全に無効化した。
「今度はこっちの番だ!」
メタボソードで切りかかる。
トライコアは電磁バリアで受け止めたが、メタボソードはバリアごとトライコアを切り裂いた。
とどめにライデンスパークを放つ。
メタボソードから放たれた電撃が直撃し、トライコアは爆発した。
「すごいな、この武器。だけど今まで経験値を貯めたのは一体何だったんだ」
しかしタイマーを見るとすでに五分を切っている。
「なんだ!? まだ二分も経ってないはずだぞ!」
「メタボマン、先ほど言い忘れたが、メタボソードとメタボシールドはエネルギーの消費が激しいので、タイマー表示に気をつけるのだ」
「最後まで言い忘れかよ」
「メタボマン、よくもトライコアを倒してくれたな。だが最後に笑うのは私だ」
遂にスカル星人が現れた。
頭髪はなく、耳は尖り、まるで骸骨のような姿を呈している。
「何だよ。出てこれるんなら最初から出てこいよ」
スカル星人は指から火球を放った。
メタボマンはシールドで防御する。
「メタボマン、見事な攻撃だ。ならばこれはどうだ」
「いや、攻撃してないって」
スカル星人は四人に分身して、火球で攻撃してくる。
さすがにシールドでは防御しきれない。
ダメージが蓄積していく。
メタボマンは攻撃に耐えながら剣を空に掲げた。
電撃が四人のスカル星人を襲い、一人に戻った。
「おのれ、こしゃくな。これでも食らえ!」
スカル星人はメタボソードをかわし、メタボマンを空中へ放り投げた。
そして倒立状態のメタボマンの両脚を両手でつかみ、首を自分の肩でホールドし、スカルバスターをかけた。
メタボマンは首から股関節にかけてダメージを受ける。
「どうだ、メタボマン。これは以前読んだ地球の資料に載っていた技だ」
「マンガに載ってた技……練習すんなよ」
「それでは、私も剣と盾でお相手しよう」
スカル星人は剣で切りかかってくる。
だがメタボマンはダメージのため、体がうまく動かない。
スクリーンのタイマーを見ると、表示は既に二分台である。
剣で斬りあっているうちに、スカル星人にメタボソードを弾き飛ばされてしまった。
剣は空中に舞い上がる。
メタボマンはシールドで必死にスカル星人の攻撃をかわす。
だがメタボマンはスカル星人に押され、徐々に後退していく。
そしてメタボマンはバランスを崩し、地面に倒れてしまった。
「これで終わりだ!」
スカル星人が剣を振り上げる。
そのとき、空から落ちてきたメタボソードが、スカル星人を刺し貫いた。
スカル星人は血を吐いて地面に膝をつく。
「な、何だと!? まさかこれを狙って……」
「運も実力のうちってね」
「謀ったな、メタボマン! だが貴様も道連れだ!」
スカル星人は流体形になり、メタボマンに張り付いた。
「メタボマン。スカル星人は自爆するつもりだ。早く引き剥がすのだ」
「自爆!? ちょっと待て。これ引き離せないぞ!」
「出部さん! 早く逃げて!」
「槇場さん、何でここへ!? 危ないから早くここから離れてくれ!」
「ダメ! 出部さんを置いて私だけ逃げるなんてできない!」
スクリーンのタイマーは一分を切り、赤く点滅している。
一瞬考えた後、メタボマンはスカル星人ごと空へ飛んでいった。
そしてメタボマンが見えなくなったとき、空の一点が明るく光った。
「あ…… 出部さん……」
碧は座り込んでしまった。
その瞳から止めどなく涙が流れ落ちる。
碧は何も考えられず、ただ泣き続けていた。
すると後ろから声をかけられる。
「お嬢さん、そんなに泣くと美人が台無しですよ」
碧が振り返るとそこには出部がいた。
「出部さん! 無事だったのね!」
碧は思わず出部に抱きつく
「ギリギリだったけど、メタボシールドが球体バリアになってくれて助かったよ。ただ何とかここまでは持ったけど、過負荷で格子結晶が壊れて変身できないみたいだ」
カメロパルダリス星人の声が聞こえてくる。
「出部太よ、よくやってくれた。君のおかげでスカル星人の野望を打ち砕くことができた。感謝する。メタボマンとしての君の使命は終わった。さあ我々と一緒にカメロパルダリス星へ行こう」
「俺はここに残りたいんだけど」
「そんなに地球人のことが好きになったのか」
「いや、元から地球人だし」
「わかった。もう止めはしない。これからは普通の人間として暮らしてくれたまえ。ではさらばだ」
カメロパルダリス星人の空飛ぶ円盤は消えていった。
そして半年後、出部は以前と同様に無能社員と呼ばれながら、会社での毎日を送っていた。
課長の小言も相変わらずである。
いや嫉妬が入った分厳しくなったかもしれない。
「イデブー、今日も定位置ね」
「今週末だというのに、お可哀想に」
もちろん碧以外、出部がメタボマンであったことを知る者はいない。
そしてメタボマンのことも、たまに思い出したように、人々の話題になるぐらいであった。
その週末、出部は公園のベンチに腰かけ、向かいの教会の結婚式をぼんやりと眺めていた。
「きれいだなぁ」
花嫁の笑顔が印象的である。
そのときいきなり耳を引っ張られた。
「いてててて」
「人のお嫁さん見ながら、何にやにやしてるの?」
「それは誤解だよ。ちょっと見ていただけじゃないか」
「そうよね。あなたにはそんな甲斐性ないわよね」
「それもまたひどいな」
「そんなにモテたいの?」
「いや、一人にモテればいいよ」
「でしょう?」
「はい。俺は幸せ者です」
「ふふ、私も幸せだからゆるしてあげる」
そして二人は抱き合い、唇を重ねる。
「大好き!」
「俺もだよ」
「さて、人の結婚式を見ていて、自分たちの式に遅れちゃしょうがない。そろそろ行こうか」
「はい!」
そう言うと出部と碧は車に乗り込み、結婚式場へと向かって行った。




