前編
なんて事だ、意識が薄らいで行く……。馬鹿女……深く刺しすぎなんだよ。腹が焼ける様に熱い。失血症状で目のかすみと手先の震えが自覚出来た。
死ぬ……死んでしまう。
-1-
水の音。霧雨みたいな音。
「まーだ生きてたか」
俺もしぶてえな……。ぼんやりとそう思った。
「あかり!あかり……!」ドンドンと扉が叩かれる音。ガチャン。
「あかり……。は……あなた、あなた救急車!」……。
「誰だ、なに言ってやがるババア」
俺はバスタブに浸かり右手をシャワーに当てている。指先に強い痺れがある。
「あなた、早く!」
ドタバタ劇が目の前で繰り広げられる。そんなさなか俺は気づく、
俺は『若い女の子』らしい。
手首から血が滴っている。
『風呂場で自殺未遂をした17才の少女』
これからの俺の肩書きだ。
-2-
学校に行くと、自殺未遂の原因は簡単にわかった。「おっす!」バチンと後ろから頭を叩かれる。「って、誰だよ!」
「へー反抗的だ」3人の少女は俺を囲む。
「死に損ない! 」
「死ねばいいのに! 」
……。
「 自殺教唆罪、刑事事件だな……」
「なに難しい事言ってるの? なに……」
「えっ」
「赤川弓子。島田亜樹。西野玲奈。俺はしつこいからな、てめえらも、死にたくなるまでやってやるよ」
ヒソヒソと3人は集まり、
「柳田に言ってやる。また突っ込まれればいいんだわ」
目のくりっとした少女は、残酷なセリフを吐く。
「自殺教唆に強姦か、ずいぶんいい趣味だな。クック、ヤクザモノよりたちが悪い。必ず、俺に関わった事を後悔させてやるからな」
3人はプイと校舎に入って行く。
-2-
俺が教室に入ると、ざわつきが止まる。
俺は自分の席に座った。
「澤野!」
ガタイのいい、タッパ、180位の男が話しかけてくる。柔道か、レスリングだな。
「お前、放課後残れよ」
「また強姦か?
へったくそな、包茎チンポ。カスくせえんだよ。剥けてから出直せ!」
クスっと周りから笑いが起きる。
ガラッと前の扉が開き。担任が入ってくる。
「てめぇ……
覚えておけ」
顔を真っ赤にして男は背を向けた。
タン、俺は男の背中にしがみついた、
すっと左腕を喉元に廻し右腕で固定し、締めつける。「が……げ……」
奴は後ろに飛び、俺の体を机に叩き付ける。角が当たり痛い。
けれど、離す訳にはいかない。俺は腕の締めを強めた。細腕がぎゅっともう一段階食い込む。「やめろ! 何やってんだ!」
先生が近づいてくる。
男は俺にタップしてくる。
必死に。
赤黒い顔色を見るとスカッとした気持ちになる。
「死ね! 強姦野郎」
先生が俺の背中を引っ張る。
「やめろ、殺す気か! 」
「ああ、殺す 」
「!! 」
教室に冷たい空気が流れる。止まっていた生徒達が慌てて、俺を引き剥がす。
遅え。もう、決着は付いた、
床にだらしなく伸びる男。
ざまあみろ!
俺は肩で息をしながら中指を立てた。
-3-
一週間経った。
あの日以降、俺への扱いが変わった。誰も話しかけて来ない。
いい事だ。
この『入れ物』にいる限りそれでいい。いつものようにズタボロの靴箱。
そして、靴。靴はダミー。
鞄から靴を取り出し、校舎を出る。
「あ、あかりちゃん……これ」
お下げ髪の委員長タイプの女が俺に手紙を渡す。開いて見ると、
【てめえ調子くれてんなよ。ボコってやる。19:00に◯◯公園に来い!バックれんなよ! 柳田明夫
右端に小さく黒幕(短針◯長針◯)と書いてある。】
俺はその少女の鼻っ面に右ストレートを放った。
「ぶぎぃ」
鼻血がボタボタと垂れている。黒幕と書いてあったからだ。違っていたって知るもんか。
そう、こいつの名前は……。
池田 祥子
鮎川 唯
猪野 涼子
早乙女 葵
岸 貴子
澤野 理香子
谷 直美
ここからヒント書きます。ノーヒントで解く方はスクロールしないでください。ちなみに解読で名字がわかります。
19:00=7:00
短針7 長針12
7 12=◯◯
五十音。