第二章『変人達の交響曲』(3)
「ロスレンジャーだと!? 小癪なっ」
ヘラクレスが実に模範的なリアクションをとる。屋根の上に照らし出された五色の警備員に対し、負けじと声を張り上げた。
「ならば我らも行くぞ! 俺は燃える正義のリーダー、ヘラクレスっ!」
先日と同じ金のマントの男が、やっぱり同じポーズをとる。
「私は可憐な愛の使者、ビーナスっ!」
隣りにいた銀のマントの女も、同じ。
「わしは英知の魔術師、フェニックス!」
先日は見なかった魔法使いみたいな帽子の老人が、ヨロヨロと弱々しくポーズを決める。白い髭をたくわえた姿は、まさに絵本の魔術師のようだが……。
「あたしはキュートな戦士、エンジェル!」
マントが地についている純也よりもっと幼そうな少女が、一回転して綺麗に止まる。長いサラサラとした髪が動きにそって揺れた。
「自分は平和の傍観者、スフィンクスっ」
一見何の取り柄も無さそうな男が、最後にぎこちなく決める。
「「「「「我ら、窃盗集団レッドスティーラーズ見参!!」」」」」
暗い駐車場でポーズを決めているために、遼平達からではどんな格好をしているのかよく見えなかった。ただ、やっぱりこちらに負けず劣らず変なポーズを決めているであろう事は推測できる。端から見たら、一体この人間達はどういう風に映るのだろう。
「宝石は盗ませないわっ、観念しなさい!」
「ふっ、誰かと思えばこの前の悪の警備員諸君か! そちらも仲間を呼んだようだが、我らに勝てるかな?」
「お前なぁ……状況わかってるか? そっちこそジジイとガキ連れてきてどうするんだよ」
自分の姿はあくまで気にしないことにして、遼平は呆れて見下ろす。杖を支えに立っているような老人と、小学校に行っているかどうか怪しい少女。これではファミリーと言っても通用するだろう。
「はーはっはっはっは! 甘く見ないでもらおうかっ、我らレッドスティーラーズは集められた精鋭達だ。我らは盗みのスペシャリスト!」
「盗みのスペシャリストねぇ……。せやけど忘れてないか? これから戦うんやで?」
「……ぁ」
微かに、そんな音が聞こえた。屋根に立った五人が一斉に崩れる。
「おい……、マジで気付かなかったのか?」
「ふ……っふふ、はーはっはっは! 神は我らの味方だ! なんとかなるだろうっ」
全く根拠の無い言葉を口にするヘラクレスを、仲間達も不安そうに見ている。相手は警備員と言えども裏の人間だ、普通だったら生死を争うことになるのに。
とりあえず屋根から飛び降り、駐車場に立つロスレンジャー。いいのだろうか……このまま戦っても?
ロスレンジャーの男達四人が、顔を寄せ合って話し合う。衣装の派手な赤が眩しい遼平が、敵を指差して声を潜めながら。
「なぁ、俺は素で殴りかかっていいのか?」
「ダメだよ! 一般人にそんなことしたら、僕もうレッドのためにご飯作ってあげないから!」
「あやつらは『一般人』という解釈で良いのか? ……精神的に」
「純也、頼むから名前で呼んでくれ。頼む、頼むから『レッド』だけはやめてくれ。あとはどんな呼ばれ方してもかまわねぇから」
「貴様から暴力を取ったら何も残らないが、どうするのだ、人間のクズ?」
「そうだな、やっぱ口ゲンカとか……ってちょっと待て! 誰が『人間のクズ』だぁ!?」
「なんと呼ばれてもいい、と言ったではないか、クズ」
「紫牙には言ってねぇよ! ってかどんどん質が落ちてるぞ俺!」
「あんたら落ち着けって。だいたい、遼平は口ゲンカじゃ人間には勝てへんがな」
「うん、相手がネアンデルタール人あたりだったら勝機を見出せそうなんだけどね……」
「……おい純也、俺、お前になんか悪いコトしたか? 何? 俺なんか恨まれるようなコトした??」
仲間達が真剣に話し合っているにも関わらず、ロスピンクこと希紗は、不敵な顔で仁王立ちをしていた。それに相対する、ヘラクレス。
「ちょうど双方五人だな! 正々堂々一対一で戦おうじゃないか!」
「望むところよっ」
「ちょ、ちょっと希紗、ワイを差し置いて何を勝手に……」
「「いざ、勝負!!」」
他のメンバーの否応なく、希紗とヘラクレスのテンションと独断によって戦闘が始まった。