第二章『変人達の交響曲』(1)
第二章『変人達の交響曲』
「つまり話をまとめるとやな、その『レッドスティーラーズ』が一連の宝石窃盗事件の犯人ってことか?」
監視カメラが捕らえた一部始終の映像を見終わって、真が腕を組む。澪斗があまりの馬鹿馬鹿しさに呆れてため息を落とす。純也が苦笑いで頷いた。
「とてつもなく弱い人達なんだけど……、本当に厄介なんだ」
「ヘラクレスっちゅうヤツがリーダーって言っておったな。窃盗集団ってことは、もしかしてまだ仲間がおるんか?」
「たぶん。次は全員で来るって……」
不安というよりは困惑といった表情で、純也は部屋の隅で壁に寄りかからせてある気絶した遼平を見やる。聴覚が良いという能力が、こんな所で弱点になるとは思わなかった。遼平には悪いが、少し笑えてしまう。
「っ、だあぁぁっ!」
悲鳴を上げていきなり遼平が飛び起きたので、驚いて全員が彼に注目する。息を切らせ、遼平は混乱しながら周囲を見回していた。
「遼、大丈夫だよね? ここは監視室だよ」
落ち着きを取り戻すように、純也が優しく話しかける。純也の青い瞳をじっと遼平は見つめて、何かに安堵して。
「夢、か……」
「どうしたの、嫌な夢でも見た?」
「ガキの頃……黒板を悪戯でひっかいたヤツがいてな……俺は卒倒して保健室に運ばれて……」
「遼…………ゴメン、笑っていい?」
真剣な顔で知られざる過去を語った遼平に、純也は笑いを堪えながら問う。許可が出る前に希紗は腹を抱えて既に爆笑しているし、真も含み笑いを止められない。
「十四年ぶりに思い出しちまった……笑いたきゃ笑え、俺にはマジで悪夢なんだよ……」
いつになく沈む遼平。頭を下げ、身震いをする。彼の受けた苦痛がどれほどかわからないが、あの遼平がここまで凹むのだ、よほどのコトなのだろう。
「あいつらは……逃がしたのか?」
「あ……うん、ゴメンね」
「……また、来るのか?」
「そうみたいだけど……」
大きく、ため息を落とす遼平。あの《秘密兵器》をまた喰らう羽目になるのかと思うと、暗くなる。何度もそうそう無様に倒れていられない。耳栓をしたからといって防げるとは思えないし。
「ふっふっふっふ、次回に備えて、私に考えがあるのよ」
「……すごく嫌な予感がするのは俺だけか?」
その問いを向けられた他の男達の顔にも、何か不安そうな色があった。
「『狂気共鳴』対策に、遼平には特訓してもらうわ。みんなにもやってもらう事があるの」
「はぁ? 特訓?」
「え、僕達も何かするの?」
希紗の顔が笑みに染まっていく。四人には、何故か悪寒が同時に襲う。
「偉大なるハンムラビ法典より抜粋っ! その名もっ、【目には目を、歯には歯を・ロスキーパー大作戦】よ!」
「「「「…………」」」」
渡された台本に、四人は固まることになる……。
◆ ◆ ◆
宝石店の前の広い駐車場に、複数の人影が現れる。堂々と正門から乗り込んでこようとするあたり、やはり窃盗初心者といったところか。
「皆、準備はいいな? 我らがレッドスティーラーズ全員集合だ、完璧に決めるぞ!」
「「「「おーっ!」」」」
全員でスクラムを組んで、息を合わせる。それぞれマントを羽織った五人は、歩き出した。
「そこまでよ!」
宝石店の屋根に、蒼い月光を背後にしたシルエットが飛び出てきた。「何者だ!?」とお約束的にヘラクレスが大袈裟に腕を振るう。
屋根の上に、五つのシルエット。一斉にライトアップされ、五色の人間が並ぶ。
「闇に生き、闇を護る! 私達に護れぬモノはなし!」
上下桃色の服を着た女が地上のレッドスティーラーズを指差し、声高らかに叫びだす。
「天才メカニッカー、ロスピンク!」
「頭脳派治療員、ロスホワイトっ!」
「関西代表、リーダーのロスイエロー」
「……冷酷無慈悲、ロスブルー……」
「ね、熱血向こう見ず、ロスレッドっっ!」
全員上下で色を揃えた変な五人組が、勝手に自己紹介(?)をする。興奮気味のピンクと、楽しそうなホワイトと、苦笑したイエローと、一番ポーズが固まっているブルーと、自棄気味なレッドが。
「私達っ、愛と!」
「友情と!」
「希望と?」
「正義と……」
「努力によってっ!」
「「「「「完璧警護ッ! 守護部隊、ロスレンジャー!!」」」」」
ババーンッと背後で爆発が起こり、ホワイトが衝撃で吹き飛ばされそうになる。
(どうしてこんな事になったんだ……)レッドは、ポーズをとりながら泣きたくなっていた。