おっとり系美女、婚約破棄される。〜彼女が選んだのは穏やかな日常でした〜
「お前みたいな馬鹿女とはやっていけん! よって、婚約は破棄とする!」
絶世の美女ランべリッサは、ある夏の日、婚約者であるアインから突然関係の終わりを告げられた。
……だが彼女はおっとりしている。
「あらー……」
道を歩けば誰もが振り返るほどの美貌を持つランべリッサだが、のんびりとした性格で、それゆえ些細なことには動じない強さがある。
「婚約破棄だなんて……残念ねー……」
「顔に騙されて婚約して失敗した! もっと魅力的な女だと思ったのに!」
「それは、ごめんなさいね」
「そういうところだよ! そういうところがムカつくんだ! 変に堂々としやがって!」
おっとりしている、とはいえ、ランべリッサは性格の悪い女性ではない。むしろ逆。悪口は言わないし、他者を傷つけることもない、基本的に無害で優しい性格の持ち主。
ただ、美貌だけしか見ていなかったアインは、そういう彼女の長所には気づけていなかった。
「女ならもっと慎ましくも魅惑的であれよ」
「それはー……なかなか、難しいわー」
「ほら! そんなことを言う! だから可愛くないんだよ。見た目だけかよ! 結局!」
アインは、婚約者という近しい関係になって、それでもなおランべリッサの良いところを理解できないままで。
「ま、もういい。これで終わりだからな。ではな。……永遠にさよなら」
◆
ランべリッサが婚約破棄された。
そう聞いた男性陣は一斉に動き出す。
多数の男性がランべリッサに求婚した。
一人は、大規模な農家を管理している青年。
一人は、現在は王族ではないものの王族の血を引いている男性。
一人は、若くして事業で成功しお金持ちになった青年。
……他にも、色々。
だが、そんな中でランべリッサが選んだのは、街の郵便屋さんだった。
十年以上郵便を運ぶ仕事をしている青年。ランべリッサより五つほど年上ではあるのだが、明るい性格で、フレッシュな雰囲気をまとった人物である。雨の日も風の日も郵便を運ぶ真っ直ぐなその姿にランべリッサは恋をした。
どんなに高貴な人も。
どんなに裕福な人も。
青年の真っ直ぐさには勝てなかった。
◆
「じゃ、今日も行ってくるよ!」
「はーい」
あれから三年。
ランべリッサは今も郵便配達の青年と仲良く暮らしている。
夫婦の仲は良好。
互いを想い、互いに寄り添い合って、穏やかな日々の中に在る。
「あ、そうだ」
「どうしたのー?」
「今夜は僕が料理作るからね!」
「まぁ! いいのかしらー」
「もちろん。たまには何かさせてよ。ね」
「それは嬉しいわー。貴方の料理、美味しいから好きなのよー。ふふ、とっても楽しみだわー」
派手なことはなくても、幸せは確かに存在している。
「楽しみに待っているわねー」
「そう言ってもらえると嬉しいよ! やる気になってきた! じゃ、楽しみに待ってて」
「ええ、待っているわねー」
二人はこれからも愛を積み上げてゆくだろう。
それは目立つものではないけれど。
しかし圧倒的に確かなものだ。
こうしてランべリッサは幸せに暮らしているわけだが。
一方、アインはというと、幸せにはなれなかったようだ。
ランべリッサと別れた後、アインはより良い女性を探したが、なかなか見つからなかった。また、少し良いかなと思った女性にはことごとく拒否されてしまった。それでも諦めず結婚相手探しを続けていたのだが、ある時、一人の女性に心ない言葉を吐かれてしまう。それによって深く傷ついたアインは、ある晩突然家からいなくなり、翌日、山の中で亡くなった状態で発見された。とても寒い夜だった。
穏やかなランべリッサを馬鹿だ何だと罵り切り捨てたアインには、幸せな未来はなかった。
……いや、幸せな、なんて話ではなく。
いたって普通の。
静かで穏やかな。
そんな未来すら存在しなかった。
◆終わり◆




