4.やっぱり何かがおかしい
そしてその絆されどうこうの心配は、嵐の前に飛ばされる。
「いや~ん、本当にかわいい!やだもう、この世界はイケメン美女しかいないの?や、アンネリーゼちゃんはまだ美少女ね。いや、美幼女?どっちでもいっか!ね、ね、アンネリーゼちゃん、気づいた?わたしたち、リーゼ、って同じなのよ?リーゼちゃんって呼んでもいい?わたしのことはリズで!どう?ママでもいいわよ!キャッ!なんてね!早いかしら?」
え、えぇ~~っと?
自分の部屋に案内されたリーゼロッテは、わたしと早く遊びたいと言って、楽なデイドレスに着替え、すぐにわたしの部屋に突進、いや、訪れてきた。そしてその私は今、リーゼロッテにぎゅうぎゅうに抱き締められている状態だ。く、苦しい。
「お嬢様、いえ、奥様。地が出過ぎでございます。アンネリーゼお嬢様もそこのマリアンも大変困惑しております。そしてアンネリーゼお嬢様が苦しそうです。さらに3歳のお子様に言葉を投げかけすぎです」
「はっ!つい!リーゼちゃんのかわいらしさに当てられて!」
リーゼロッテが公爵家から連れてきた侍女…エリーに窘められて、リーゼロッテは腕を緩めた。ほっ。
「アンネリーゼお嬢様、申し訳ございません。うちのお嬢…奥様は少々変わっておりまして」
「今から慣れてもらえれば誤魔化せるかなと思って」
「また勝手なことを……」
エリーは額に手をあてて、やれやれと言わんばかりに項垂れる。ちなみに、マリアンは驚き過ぎて固まっている。
アンネリーゼ戦記にこんな愉快なやり取りなんてあったっけ?いや、何度も読み込んだのよ、なかったわ。それにエリー。彼女も出て来ないはず。確か誰もが嫌がって、いろいろな理由をつけて、公爵令嬢なのにリーゼロッテは一人で嫁いできたのだ。この時点で、物語とちょっと違う。
「あ~、でもリーゼちゃん本当にかわいい。放っておけるとか、マジ信じられない」
「ですから奥様。話し方」
「あ、あにょっ。り、リーゼかわいいれすか?」
怒涛のように語られたけれど、リーゼロッテの本心を確かめたくて、確認してみる。それに、この話し方って。
リーゼロッテは「かわいすぎて腰が砕けるぅ」と悶えた後、私に向かってにっこりと答えた。
「あっ、リーゼちゃんて呼んでもいい感じかな?かっっっっわいいわよぅ!宇宙一!」
「奥様。うちゅういち、とは?」
「あ~、宇宙は宇宙よ!世界より広いのよ!」
「はあ……。申し訳ございません、アンネリーゼお嬢様。奥様がお嬢様をかわいいと思っているのは本当ですよ。マリアンさんもごめんなさいね。後で説明させてもらえるかしら」
「は、はい!」
これは……確定だよね。
ぐいっと聞いてしまおう。
「ねぇ、りじゅしゃんもてんせいしゃ?」
わたしの言葉に、今度は二人が固まった。
その後、常に一緒にいることになるマリアンとエリーも交えて、リーゼロッテと私は前世持ちであると話をした。エリーはリーゼロッテのことを聞いていたらしくて、すんなりと、マリアンも驚きつつも受け入れてくれた。
「最近のお嬢様は大人しいなと思っていたんです」
「うちの奥様は人格が変わりすぎて信じざるを得ませんでしたよ」
「ひどっ」
ただ、リーゼロッテはアンネリーゼ戦記は読んだことがないらしく、意地悪継母ポジにショックを受けていた。
「この、かわいいリーゼたんを虐める…?ありえん!例え同情する立場のリーゼロッテであっても、ありえん!」
「まあ、しょれでも?わたしはりじゅより年上だったし、がんばれるけど?」
「くぅ~っ!そんな舌足らずでツンツンされてもかわいいだけなんですけど!頼りないだろうけど、ママ業も頑張るからね。一緒に幸せになろう?」
リーゼロッテはまた私をぎゅっとする。子育てしたかったんだって。リーゼロッテのぎゅーには愛情がたっぷり感じられて、3歳のわたしが顔を出してきて、とても満たされた気持ちになる。
「せっかく子どもなんだから、子ども時代を楽しもうよ、リーゼ」
リーゼロッテが優しく微笑む。
その瞬間に、私の何かがかたっと崩れたのが分かった。……きっと、いい意味で。
「ふ、ふぇぇ~、り、りじゅママってよんでっ、いい?」
「当たり前じゃない、わたしのリーゼ」
ほっとして身体に引っ張られて、もう完全に気持ちは3歳児だ。涙腺が簡単に大崩壊だ。「わああん!」と、リーゼロッテにしがみつく。リーゼロッテは優しく背中を擦ってくれる。
気を張っていても怖かった。前世でいくら耐えたといっても、あの痛みをまた味わうのは怖かったんだよ、私。
マリアンとエリーも優しく見守ってくれている。
マリアンにも、辛い思いをさせずに済んで、本当に良かった。
……そういえば、私が聖女のチカラに目覚めるのは、リーゼロッテから私を庇ったマリアンが大怪我をしたからだったけど……と、頭をふっと過ったけど。
そんな未来はきっと来ない。
聖女がどうなるか、とか一瞬考えたけど。
いいや、3歳だし。まだ、3歳で。




