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レベルが10になり、ついにスキルが解放された。
ゲーム内での三ヶ月間、1ダメージを積み上げ続けた「苦行」の報酬だ。
○○○
【プレイヤー・ステータス】
【名 前】 クンペイ
【職 業】 魔道具師
【レベル】 10
【体 力】 120
【魔 力】 160(+30)
【筋 力】 12
【耐 久】 12
【敏 捷】 18
【知 力】 45(+20)
【器 用】 85(+50)
【スキル】構造解析
魔導回路
異物接合
孤独職人【パッシブ】
○○○
俺はSPを振り分けるため、そして内容を確認するために詳細ウィンドウを開く。
○○○
構造解析 Lv.1→Lv.2 消費SP:3
アイテムの内部構造を透過して視認したり、自分の作りたい物の設計図を解析するスキル。
魔導回路 Lv.1→Lv.2 消費SP:3
道具の魔力経路をつくるスキル。
異物接合 Lv.1→Lv.2 消費SP:3
本来組み合わさらない素材同士を魔力で強引に繋ぎ合わせるスキル。
○○○
とりあえず、全てのレベルを2まで上げた。
どうやら「器用さ」が高いとスキルの成功率も上がるらしい。
俺の器用さは85。計算すると……ボーナスで8.5%アップか。
基本の30%に足して、成功率は38.5%だ。
俺は手元にある初期装備の、古ぼけたランタンに視線を移す。
≪構造解析――成功≫
運よく一発で通った。
≪構造解析:初期装備・魔導ランタン≫
■風を燃料に動く。
さっき試したもう一つの初期装備、レンチの方は何も情報が出なかった。
成功・失敗に関わらず、1回で魔力を15も持っていかれるのはキツいな……。
今の俺の最大MPじゃ、10回使うのが限界か。
そんなことを考えていると、視界に運営からの「緊急通知」が飛び込んできた。
○○○
【重要】第3回公式イベント『ヴォルテックス・ダッシュ』開催のお知らせ
スカイ・ヴォルテックス・オンライン運営チームです。
正式サービス開始を記念し、全プレイヤー参加型の大型イベントを開催いたします!
■ イベント概要
浮遊島群を繋ぐ巨大気流を駆け抜け、最速でゴールを目指す「空の障害物レース」です。チェックポイントとなる各島を通過し、栄光のトップチェッカーを目指してください!
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この告知に、案の定、掲示板は爆発的な盛り上がりを見せた。
○○○ SVO攻略掲示板 ○○○
452 名無しのスカイランナー
第3回公式イベントきたあああ!
浮遊島間レースかよ、翼の性能差がモロに出そうだな。
453 名無しのスカイランナー
妨害ありってのがエグいな。
後方から魔術師が火球ぶっ放したり、狩人が翼を狙い撃ちにするのが目に見えるわ。
454 名無しのスカイランナー
うちのギルド、魔術師ばっかりだけど今回は正解かも。
前を飛ぶ奴を全員撃ち落とせば、飛行速度が遅くても勝てるしなww
○○○
画面を閉じ、俺は静かに立ち上がった。
魔術師の遠距離攻撃。狩人の狙撃。飛空艇の馬力。
誰もが「既存のルール」の中でどう勝つかを議論している。
成功率38.5%?
三ヶ月で数万回レンチを振ってきた俺に言わせれば、十分すぎるほど高い数字だ。
それに、この解析結果はどうだ。
≪構造解析:初期装備・魔導ランタン≫
■風を燃料に動く。
誰もが「魔法」や「燃料」で無理やり空を飛ぼうとしているこのゲームで、このガラクタだけは、この世界の主役である「風」をエネルギーに変えるポテンシャルを秘めていた。
運営すらゴミと切り捨てた初期装備の中に、唯一の正解が隠されていたわけだ。
「……やってやるよ」
俺の脳内では、すでに設計図が組み上がり始めている。
魔力が尽きれば休めばいい。素材が足りなければ、三ヶ月分溜め込んだスライムの核がある。
他プレイヤーが豪華な翼や飛空艇を自慢し合っている間に、俺はジャンク屋の隅にある作業台へと向かった。
既存のルール? 集団戦?
そんなものは知ったことか。
レースそのものを根底からひっくり返す、俺だけの「魔道具」を組み上げるために。
俺は、錆びついたレンチを静かに構えた。
*スカイポート・ジャンク屋*
始まりの地『スカイポート』の華やかな大通りから外れた、薄暗い路地裏。
そこにあるのが、俺の主戦場――ジャンク屋『カザグルマ』だ。
店先には、ひしゃげたプロペラや、魔力が枯渇して色褪せた魔石の破片が山積みになっている。
普通のプレイヤーなら、装備の修理すら断るようなゴミ溜め。だが、今の俺の目には、それらが輝くパーツの群れに見えていた。
「よお、親父。また来たぜ」
実は何回も来ていた。俺にはこの高性能NPCが唯一の味方ってわけだ。
カウンターの奥で、煤けたゴーグルを額に上げたドワーフ風の店主が顔を上げた。
「……またお前か。その錆びたレンチといい、魔道具師といい、お前さんはゴミを愛でるのが趣味なのか?」
「趣味じゃない。……これが、最強の素材に見えるだけだ」
毎度思うが、どんなAIを積めばこんな会話ができるんだ?
「店先にある『歪んだ排気パイプ』と、奥に放ってある『ひび割れた魔力伝達管』。あとは、そこの『機能停止した姿勢制御翼』を全部くれ」
一応、この世界には魔道具が存在する、飛行艇もその一つだ。
買うことができたり、イベントの報酬でもらえたりするが、どちらも今の俺には無理。
だから、ジャンク屋に壊れた状態のを買い取ろうという策略だ。
「……本気か? どれも魔導回路がズタズタで、まともに魔力も通らねえぞ」
「いいんだ。俺が『繋ぐ』から」
俺は、これまでスライムを叩いて手に入れた端金をカウンターに置き、大量のガラクタと、数千個の『スカイスライムの核』をインベントリからドサドサと取り出した。
まず、中心に置くのはあの『魔導ランタン』だ。
これに、スライムの核の「弾力」と「魔力伝達性」を組み合わせ、さらにジャンクの排気パイプで「風の流路」を物理的に拡張する。
≪異物接合――開始≫
パキィィィィィィン!!
≪異物接合:失敗。素材の一部が消失しました≫
一回目、失敗。
目の前でスライムの核が数粒、光の塵となって消える。
だが、俺の表情は動かない。
「……角度が1ミリずれたか。次は、魔導回路を少し左に寄せてから繋ぐ」
成功率?
システム上の確率なんて、俺の執念でねじ伏せてやる。
「おいおい、本当にやる気か……」
親父が背後で息を呑む。
魔力が尽きれば、数分間目を閉じて集中し、回復した瞬間にまたレンチを振る。
現実の一時間はゲーム内の三時間。
誰もいないジャンク屋の片隅で、俺だけの「進化」が加速していく。
目指すのは、翼の性能差も、集団の妨害も、すべてを過去にする――風そのものを喰らって加速する、究極のイレギュラーだ。




