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壊れたポポを直すのもだいぶなれてきた。
「そういえばまたレベル上がったな……」
○○○
【プレイヤー・ステータス】
【名 前】 クンペイ
【職 業】 魔道具師
【レベル】 29
【体 力】 245
【魔 力】 325(+100)
【筋 力】 22
【耐 久】 20
【敏 捷】 41
【知 力】 135(+80)
【器 用】 285(+155)
【スキル】構造解析
魔導回路
異物接合
孤独職人【パッシブ】
最速飛行【パッシブ / 公式大会優勝特典(永久)】
(SP:5)
○○○
「ポポ、最後のカギはどこにあるんだ?」
この質問にポポはいつもと違う反応を見せた。
ポポがその場で静止する。いつもなら電子的な快活さで即答するはずの相棒が、レンズのようなメインセンサーを忙しなく明滅させていた。
「ポポ、どうした?故障か?」
俺は手を伸ばし、使い慣れた『構造解析』を無意識に発動させようとした。
だが、その指先がポポの外装に触れる直前、ノイズ混じりの声が響く。
「……クンペイ、矛盾が生ジル」
「矛盾……なんのことだ?」
「『最後のカギ』は、ポポの『核』……」
「……は?」
耳を疑った。
「ポポ、冗談だろ……?」
俺は冷笑を貫く。
だが、ポポのレンズが悲しいほど静かな光を放った。
「ポポ、安心しろ。 俺が死なせない。 魔道具師の俺が死なせない。」
俺は管理室の鍵そのものを作れないが、核となるものなら作れるかもしれない。
いや、作ってみせる。
「ポポ、使えそうな材料を集めてくれ」
そういうと、ポポは何も言わず動き出した。
*
一通り材料を集めてもらい、俺はこう告げた。
「ポポ。また後で会おう」
レンチで分解し、核を取り出すと、ポポのレンズの輝きが失われた。
――ただしそれは、機能停止を示す表示に過ぎない。
再起動さえすれば、意識は戻る。
「……相棒をバラすのは初めてだ。たとえ機械でも、気分のいいもんじゃないな」
≪構造解析――成功≫
回路は、常に形を変えていた。
固定された設計図じゃない。
稼働そのものが、構造の一部になっている。
だが、あまりにも精密すぎる。こんなの俺には再現できるはずがない……
だけど、ポポを動かすにはこの全部の回路はいらないだろ。
設計図は存在しない。正解も、保証もない。
ここから、誰の真似でもない俺の孤独職人が始まった――
【1日目】
≪ 構造解析――成功 ≫
ポポの核が、俺の視界の中で透けて見える。
無数の魔力経路が、複雑に絡み合い、脈動するように光っていた。
「……すげぇな」
これが、ポポの心臓。
俺はその構造を脳内にコピーし、必要最低限の回路だけを抽出する。
「よし……まずは、この中心部分だけを再現してみるか」
≪ 魔導回路――成功 ≫
魔力が回路に流れ込み、設計通りの経路を形成していく。
≪ 異物接合――成功 ≫
ガラクタの金属片とワイヤーが、魔力で強引に繋がり、一つの核となった。
「……完璧だ」
俺は自信を持って、新しい核をポポの中心部に取り付けた。
カチリ。
……沈黙。
「……あれ?」
ポポのレンズは光らない。
「おい、ポポ?」
反応がない。
俺は慌てて核を取り出し、もう一度解析する。
≪ 構造解析――成功 ≫
「……魔力は流れてる。回路も繋がってる。なのに、なんで……?」
俺は首をひねった。
スキルは成功した。
だが、核は動かなかった。
「……もう一回、別のアプローチで試すか」
*
「今度は魔力の『出力』を上げてみる」
俺は新しい設計図を脳内で組み立てる。
魔力経路を太くして、循環速度を上げる。
そうすれば、より強い魔力がポポ全体に流れるはずだ。
≪ 魔導回路――成功 ≫
≪ 異物接合――成功 ≫
「……今度こそ」
カチリ。
ジジジ……ッ!!
「うおっ!?」
核が火花を散らし、一瞬で焼き切れた。
「……出力が強すぎたのか」
俺は焦げた核を手に取り、ため息をつく。
*
「じゃあ、逆に出力を抑えてみるか……」
魔力経路を細くし、循環の流れを緩やかにする。
≪ 魔導回路――成功 ≫
≪ 異物接合――成功 ≫
カチリ。
……沈黙。
「……また、動かない」
俺は解析し直す。
≪ 構造解析――成功 ≫
「魔力は流れてる……でも、『循環』してない。一方通行になってる……」
魔力が流れ込むだけで、戻ってこない。
だから、核が反応しないんだ。
「くそ……強すぎてもダメ、弱すぎてもダメ、一方通行でもダメ……」
机の上には、すでに三つの失敗作が転がっている。
*
「もう一回……今度は循環を意識して」
俺は魔力が「戻ってくる」ための経路を追加する。
≪ 魔導回路――成功 ≫
≪ 異物接合――成功 ≫
カチリ。
ピクッ。
「……お、反応した!?」
ポポのレンズが一瞬だけ光った。
だが、それだけだった。
すぐに光は消え、再び沈黙する。
「……惜しい。でも、何かが足りない」
俺は額に手を当て、深く息をつく。
「……もう、今日はここまでだ」
失敗作は四つに増えた。
【2日目】
翌日。
俺は昨日の「一瞬だけ光った核」をもう一度解析していた。
≪ 構造解析――成功 ≫
「……循環はしてる。魔力も流れてる。でも、すぐに止まる」
まるで、エンジンがかかった直後に息切れするみたいに。
「足りないのは……持続力か?」
俺は新しい設計を組む。
魔力を「溜める」部分を追加して、循環が途切れないようにする。
≪ 魔導回路――成功 ≫
≪ 異物接合――成功 ≫
カチリ。
ピカッ――ジジ……ッ。
「……!」
今度は三秒ほど光った。
だが、やはり消える。
「くそ……何が違うんだ」
*
それから、俺は何度も試した。
魔力を溜める部分を大きくする→容量オーバーで焼き切れる。
魔力経路を増やす→複雑すぎて干渉し合い、停止。
魔力の流れを一定にする→途中で詰まって停止。
失敗作は、十を超えた。
どれも、ポポの核にはなれなかった。
「……ダメだ。全然ダメだ」
俺は床に座り込み、天井を仰いだ。
材料も残り少ない。
このままじゃ、本当に――
「……ポポを、殺したことになる」
その考えが頭をよぎった瞬間、俺の手が震えた。
「……いや、ダメだ。諦めるな」
俺は頬を叩き、もう一度ポポの核を見つめる。
≪ 構造解析――成功 ≫
そして、ようやく気づいた。
「……待てよ。魔力経路って、『固定』されてないのか?」
よく見ると、魔力経路が微妙に形を変えている。
まるで、心臓の鼓動のように、収縮と拡張を繰り返している。
「そうか……ポポの核は、『生きてる』んだ」
固定された回路じゃない。
魔力の流れに合わせて、自分で形を変える回路。
「……だから、俺が作った『固定回路』じゃ、すぐに止まるんだ」
俺は拳を握りしめる。
「でも、そんな回路、俺には作れない……」
形を変える回路。
それは、俺の技術じゃ不可能だ。
「……じゃあ、どうすればいい?」
俺は考え込む。
数分の沈黙。
そして――
「……待て。『形を変える回路』を作るんじゃなくて……」
俺は、ある考えに至った。
「『形を変えなくていい回路』を作ればいいんじゃないか?」
ポポの核は複雑だから、形を変えて調整する必要がある。
だが、もっとシンプルな回路なら――
「魔力を『受け取る』部分と『送り出す』部分だけを作って、あとはポポの元の回路に任せる」
つまり、俺が作るべきなのは「完璧な核」じゃない。
「……『最低限の核』だ」
俺は目を見開いた。
「そうだ……俺は最初から間違ってた。ポポの『全部』を再現しようとしてた」
だが、ポポを動かすために必要なのは、魔力を循環させる『心臓』だけ。
「それ以外の回路は、全部ポポが元々持ってる」
俺は立ち上がり、最後の材料を手に取った。
作業台の上には、動かなかった心臓が並んでいる。
「……明日、決着をつける」




