16
「しまっ――!?」
「捉えちゃった。 ……バイバイ、不燃ゴミ」
アダムの巨大なハンマーが、逃げ場のない俺の頭上から振り下ろされる。
俺は歯を食いしばり、インベントリの端に見えた「あるもの」に手を伸ばした。
「……『肆型』は保留だと言ったが、『使えない』とは言ってねぇ!」
俺はインベントリから肆型をアダムのハンマーの直下へ叩き出した。
「ポポ! 肆型のコアを暴走させろ!」
「ラジャー! 食べ合わせ、サイアクにするよ!」
アダムの重力が肆型を押し潰そうとした瞬間、肆型の魔力吸引回路が、参型(改)の波形と衝突して激しい魔力崩壊を引き起こす。
ドォォォォン!!!
「……っ!? 重力が、弾かれた!?」
アダムが驚愕に目を見開く。
二つの掃除機がゴミを取り合い、互いの吸引が干渉して停止するように、位相の異なる重力制御同士が衝突し、局所的な制御系が崩壊した。
「今だ! 重力の檻は壊したぞ……突き抜けろ、参型ッ!!」
加速の衝撃で肺の空気が押し出される。だが、俺の眼はアダムの持つ「巨兵の鉄槌」を捉えて離さなかった。
「ポポ! 腕だ! 届くか!?」
「ラジャー! クンペイ、ポポの腕、ビヨーンってなるよ!」
アダムの重力場が再起動するまで、あと数秒。
加速する参型(改)から、ポポがその短い腕をガシャンと射出した。
マジックハンドのように節々が伸び、火花を散らしながらアダムの振り上げたハンマーの「柄の付け根」にしがみつく。
「……ッ、何これ!? 離しなさい、このブリキ!」
アダムがハンマーからポポを叩き落とそうとする。
だが、ポポは必死にしがみつく。
「ハナサナイ! クンペイ、今、掴ンデル」
「ナイスだ、ポポ!」
俺はそれを見逃さない。
ポポがハンマーにしがみついたことで、アダムの「重心」が物理的に崩れたんだ。
「よっしゃ。ポポ、引っこ抜け!」
ポポのワイヤーが巻き取られ、アダムの体が無防備に引きずり出される。
――行ける。
そう確信して俺たちが畳み込もうとした、その瞬間、アダムの口角が、不自然なほど吊り上がった。
「……捕まえたのは、私の方だよ」
ズ、ンッ!!
「なっ……!?」
衝撃が走ったのはアダムではなく、俺の方だった。 アダムを「引いた」はずのポポの腕を伝って、逆流するような斥力が俺の参型(改)を直撃する。
「作用と反作用……キミが引けば引くほど、私への衝撃は『倍』になってキミに返る。――『重力反射』」
アダムは微動だにしていない。 それどころか、ポポが掴んでいるハンマーの柄を支点にして、アダムの体が一瞬で「コマ」のように高速回転を始めた。
「ガシャンッ!!」
「ぎ、ぎゃあああ!? クンペイ、ポポの腕が、ねじ切れるぅぅ!!」
ポポの悲鳴。 引く力と、その場に固定しようとする斥力の間に挟まれ、参型(改)のフレームが嫌な音を立てて歪む。
「 ……ほら、遠心力のおまけだ」
アダムがハンマーを握り直すと同時に、回転の遠心力をすべて乗せた「蹴り」が、参型へと吸い込まれた。
ドッ、ゴォォォォン!!!
重力で加速された一撃。 防護隔壁がひしゃげ、俺の視界が火花と警告灯の赤色で埋め尽くされる。
俺とポポは、参型からゴミのように弾き飛ばされ、地面を何度もバウンドしながら、先ほどまでいた場所から数十メートル先まで転がされた。
「ポポ、まだ動けるか?」
ポポはなんとか立ち上がる。
「クンペイ。ポポはマダ、闘エル」
「よし。まだ、俺たちはやられてねぇ。 ポポ、少しだけでいい。 アダムの動き抑えられるか?」
「ラジャー! 『軟性接手』」
ポポの腕が、しなりながら伸び、ハンマーをしっかり掴む。
「このブリキめ。 離せ!!」
アダムはポポに夢中で俺の存在を忘れている。
(頼んだぞ。ポポ!)
≪ 構造解析――成功≫
「やっぱりあったぞ……」
俺が見つけたのはアダムのけつの部分に位置する熱排気機構。あそこを塞げば……
俺は参型(改)をインベントリに収納した。
「っ……!」
地面に降り立った瞬間、膝が笑う。だが、今は参型に乗ってる場合じゃない。魔力の波形でアダムに気づかれる。
俺は歯を食いしばり、瓦礫の影から影へと身を潜めながら、アダムの背後へと走った。
ポポの悲鳴が響く。アダムがハンマーを振り回すたび、ポポの腕が不自然な方向にねじれる。
「もう少しだ……!」
息を殺し、アダムの死角に滑り込む。
至近距離で見ると、アダムの背中の排熱口から白い蒸気が激しく噴き出していた。
俺はそこらに落ちてるガラクタを手に取った。
≪ 異物接合――成功≫
金属片と瓦礫が溶け合い、排熱口にピッタリと嵌まり込む。
「な、なんなの。次から次と……」
アダムは塞がれたことに気づいていない。
俺は参型をインベントリから取り出して、乗り込む。
「ポポ、もう離していいぞ!」
「ラジャー! ポポ、ハナス!」
ポポの腕が弾けるようにハンマーから離れた。
「……?」
アダムが初めて、違和感に眉をひそめた。
背中だ。
内部から圧が逃げない。
熱が、魔力が、行き場を失っている。
「……私に何をした!」
気づいた時には、もう遅い。
「今だ――参型(改)! 全力加速!!」
参型(改)を走らせ、そこにポポを乗せる。
推進器が限界まで火を噴き、地面を抉りながら一直線に突っ込んだ。
「ッ、重力障壁――!」
アダムが反射的に重力場を展開する。
だが、さっきまでの“圧”がない。
内部に溜まり続ける熱と魔力が、制御を狂わせていた。
「効かねぇよ……中がパンパンなんだろ!」
参型(改)が、重力の膜を突き破る。
ズ、ギャァァン!!
「……っ!? 排熱が……!」
アダムの背中から、赤熱した光が漏れ出す。
塞がれた排熱口を起点に、内部構造が悲鳴を上げていた。
――だが。
「無駄だよ」
アダムはまだ、立っていた。
排熱はできていない。
内部は暴走しているはずだ。
それでも――倒れない。
「……なら」
転がっていた肆型に目線を落とす。
外からじゃ足りない。内側から、壊す。
俺は、転がっていた肆型に近づいた。
肆型はまだ死んでいない。
それなら――俺はポポに肆型を投げた。
「それをアダムの排熱口に、叩き込め!」
ポポが壊れかけた肆型をつかみ、アダムのけつへ押し込む。
(これが効かなかったら、一巻の終わりだ。)
肆型が排熱口に半分は入っているその時――
「何をする。 私に近づくんじゃない」
アダムはポポの足をつかみ、そのまま地面にたたきつけた。
「あと一人。君だけだね」
アダムは不気味に笑う。
「『重力支配』」
肆型の妨害が止まっていることに気付いたのか、再び重力を操作してくる。
俺はその力で、アダムの元へ引きずられそうになる。
ここで負けを認めるのが、普通だろう。
だが俺は違う。
アダムのけつにかろうじて肆型が引っかかっているのを見逃していなかった――
俺は、倒れたポポを一瞬だけ見た。
(ポポ、襷は受け取ったぞ)
アダムめがけて、フルスロットルで突っ込んだ。
重力に引きずられ、参型(改)のフレームが悲鳴を上げる。
視界が歪む。頬の皮膚が後ろへ引っ張られる。
(くそっ……このままじゃ押し潰される……!)
アダムは俺の動きを読んでいる。
重力の流れが、まるで巨大な手のひらのように俺を掴み、アダムの足元へと引き寄せてくる。
「逃げられないよ。 君はここで終わりだ」
アダムの声が、重力の圧に乗って耳を震わせた。
だが――それでいい。
(近づけさえすれば……!)
アダムのけつまであと数メートル。
排熱口から吹き出す熱風が、顔を焼くように叩きつけ、参型(改)の接続部が軋む。
「うおおおおおおおッ!!」
参型(改)の推進器を限界まで噴かし、重力の引き寄せと正面衝突する。
「食らえぇぇぇッ!!」
ガンッ!!
肆型の残骸が、アダムの排熱口にめり込んだ。
半分以上が押し潰れながらも、確かに“刺さった”。
「なっ……!? やめろ……そこは――!」
アダムが初めて焦りの声を上げる。
「遅ぇよ!!」
俺は参型(改)をアダムの背中に押し付け、排熱口へ肆型をさらに深くねじ込んだ。
(肆型――俺たちに勝利を……)
「オーバーロード、第二弾だ! 今度は、てめぇの内側で暴走させてやる!」
ギィィィィン――!
排熱口から逆流した魔力が、内部で激突する。
逃げ場を失った熱と力が、アダムの中枢へと雪崩れ込んだ。
熱暴走と魔力崩壊のダブルパンチ。
「なぜ。 私は選ばれた存在……私は管理する立場だぞ……」
世界の音が、消えた。
熱も、重力も、悲鳴も、すべてが一点に押し込められる。
アダムが、俺を見る。
「管理するのは、お前の特権じゃないんだよ」
アダムの瞳が、わずかに揺れた。
その瞬間――
ドォォォォン!!!
金属の破片が飛び散り、爆風が世界を塗り潰した。
やがて、重力が消え、静寂が訪れた。
アダムは、もう動かない。
そして、アダムがいた足元には管理室のカギとなるパーツが転がり落ちていた。
俺は拾い上げ、半壊しているポポのもとへ歩み寄った。
「……これも、管理室の鍵か?」
「分析……完了。間違イナイ。島14の管理室を開ケルタメノ、アクセス・プラグ……」
俺はパーツを握りしめ、ポポと重厚な扉へと向かった。
*
扉の横にあるコンソールにパーツを差し込むと、カチリという音と共にインジケーターの一つが輝きだす。
この戦いで肆型を失った。
だが、使われないで終わるよりかは、よい終わり方だったと信じている。
「あと、一つ。 終わらせに行くぞ!」
俺は管理室の扉を静かに見上げた――




