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「機体を直すぞ!」
ポポはくるりと周り、片腕を掲げた。
まずはポポにも手伝ってもらい、そこら辺のガラクタを集める。
ポポからもらったパーツや、イヴの残骸から剥ぎ取った高純度の魔導金属――「最高のガラクタ」は揃った。
俺はひん曲がった参型のフレームに手を当て、意識を集中させる。
≪構造解析――成功≫
グリッド線が参型の内部を透過し、焼き付いた回路と断裂した神経系を浮き彫りにする。
「なるほど、ここが魔力のボトルネックか。なら、今度はもっと太いバイパスを通してやる……!」
≪魔導回路――成功≫
指先から漏れる魔力が、参型の心臓部へと滑り込む。断たれた回路が再び鼓動を始め、血管のような光が機体を巡った。仕上げだ。
≪異物接合――成功≫
パキィィィン!!!
激しい火花と共に、イヴの遺産である魔導金属が参型の外装と融解・結合していく。現実世界で学んだ「応力分散(力を逃がす構造)」を強引に流し込み、ただの修理を超えた「再構築」が完了した。
○○○
【|嵐を喰らう者・参型(ヴォルテックス・イーター・MK-III)(改)】
• 種別: 特殊外装魔道具(唯一品・現場改修型)
• 効果1: 前方からの風圧を「魔力」と「推進力」へ変換する(変換効率150%)。
• 効果2: パッシブ『最速飛行の持ち主』を検知し、最大速度の開放率を13%まで上昇。
• 備考: 見た目は以前にも増してパッチワークだが、クンペイの知恵により耐久性が飛躍的に向上。ピーキーさは影を潜め、堅実な「翼」へと進化した。
○○○
「いい……。いい手応えだぞ、これならいける」
参型のレンズに力強い光が灯る。だが、俺の傍らにはまだ、戦い抜いた「肆型」の残骸が転がっていた。
「……そういや、『肆型』が余っちまうな。こいつを単なる『予備』にするのは勿体ねぇ……」
ふと、エンジニアとしての閃きが脳内を駆け巡る。
参型が「風」を「魔力」に変えるなら、その余った魔力を肆型の機構を使って「攻撃」に転換できないか?
「防御を捨てて突っ込むだけが俺の戦い方じゃない。……よし、全進あるのみだ!」
俺は再びレンチを握り直し、新たな「合体機構」の設計図を脳内に描き始めた。
「よし、『肆型』を『参型』の魔力回路に……」
≪魔導回路――警告≫
俺は両者のコアをバイパスで繋ごうとした。だが、接続した瞬間に凄まじいハウリング音が鳴り響き、参型のレンズが真っ赤に点滅する。
≪警告:魔力波形が一致しません。出力の干渉が発生しています≫
「くっ、そうか……! どっちも『風』を源にしてるから、お互いの魔力吸引が干渉し合ってんのか!」
例えるなら、一台の掃除機で吸い込もうとしているゴミを、横からもう一台の掃除機で奪い合っているような状態だ。
同じ風を食べていても、その「咀嚼の仕方」が致命的に違う。
無理に繋げば、参型の繊細な飛行回路が、肆型の荒っぽい吸引に巻き込まれて焼き切れてしまうのだ。
「参型で飛びながら肆型を撃てば、空中でガス欠(魔力切れ)を起こして墜落……か。今の俺の制御能力じゃ、この二つの『食い癖』を調整しきれねぇ」
「とりあえず、『肆型』は保留だな……」
俺は『肆型』をインベントリに入れた。
「次の敵はどこにいるんだ?」
「アッチの観測塔――」
「もう一個の方か……」
「……クンペイ、行クノ? 相手ハ、イヴ兄サンヨリずっとコワイ……」
「ああ、行くさ。ポポを直して、参型もここまで仕上げたんだ。……それに、あいつのハンマーが『島のエネルギー』だってなら、俺の『参型(改)』には最高の餌だろ?」
俺は参型の機首を撫でた。
「……ラジャー! クンペイ、信ジテル!」
俺は配管の影から飛び出した。
*
そこにつくと、巨大な鉄の扉を握りつぶし、退屈そうにこちらを見据える巨大な少女――アダムの姿があった。
「……あ、また来た。逃げればよかったのに」
アダムが巨大な魔導ハンマーをゆっくりと持ち上げる。
その動作だけで、周囲の空間が歪み、地面がミシミシと沈み込んだ。
「お兄ちゃんは君を『整理』しようとしたけど、私は違うよ。……私はただ、君を綺麗な『球』にして、そのゴミの山に捨ててあげる」
「悪いな、丸められるのは御免だ。……俺はどこまでも真っ直ぐ、突き抜ける主義なんでな!」
俺はスロットルを全開にした。
参型(改)のエンジンが咆哮を上げ、廃棄プラントの重苦しい空気を切り裂いて加速する。
「――無意味だよ。私の前では、どんな速度も等しく止まっているのと同じ」
アダムがハンマーを軽く地面に突く。それだけで、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。
参型(改)の高度計が狂ったように回転し、機体が目に見えない「重圧」に押し潰されそうになる。
「ぐっ……、これがアダムの力か!?」
「『重力』を操作してんのか……! なら、力ずくで引き剥がしてやる!」
俺はスロットルを限界以上に押し込んだ。
参型(改)の真骨頂、イヴから奪った魔導金属のバイパスが赤熱し、ハンマーから生じる風の波を「推進力」へと変換し始める。
「へぇ……。私の重力を『食べて』加速してるの? 面白い、でも――」
(アダムの攻撃から生まれる風を食べているんだが、知られていないなら、アドバンテージだ)
アダムがハンマーを横に一閃させる。
「『圧縮』」
直後、俺の進行方向にあった巨大な鉄柱やガラクタが、一瞬でリンゴほどの大きさにまで圧縮され、超高速の弾丸となって俺を襲う。
「ポポ、しっかり掴まれ! 隙間を縫うぞ!」
「ラジャー!」
火花を散らしながら、俺は圧縮弾の嵐を紙一重で回避する。
頬を掠めた衝撃波だけでHPが削れるが、参型(改)の翼は折れない。むしろ、敵の攻撃が激しくなればなるほど、推進力は増していく。
「捉えた……! お前の懐だ!」
「……遅い」
アダムが虚空を掴む。
刹那、俺の背後の空間が「重く」なり、慣性を無視して機体が真後ろへ引き戻された。
そして、目の前で、アダムのハンマーが振り下ろされる軌道に入った。
「しまっ――!?」
背骨が軋む。空気が潰れる。逃げ場がない。
それなら――




