14
ドォォンンン――!!
凄まじい衝撃音と体力減少の警告が響き渡り、やがて鼓膜が痛くなるほどの静寂が訪れた。
舞い上がる粉塵と、回路が焼ける焦げた匂い。視界の端ではまだ小さな火花が散っているが、システムノイズは徐々に収まりつつある。
――数秒か、あるいは数十秒か。
時間の感覚が戻ってくる。
(……勝った、のか)
胸の奥で、遅れて鼓動が跳ねた。
耳鳴りの向こうで、まだ火花がパチパチと弾け、鼻の奥を焼けるような匂いが突く。
俺は、しばらく立ち上がれなかった。
膝が笑っている。恐怖か、安堵か、自分でも判別できない。
「……ク、クンペイ?」
「……ポポ、俺たち、勝った……のか?」
恐る恐る体を起こすと、視界にシステム通知がポップアップした。
≪レベルが上昇しました:Lv.10 →Lv.24≫
その文字を見た瞬間、肺に溜まっていた熱い空気が一気に抜けた。
指先がまだ細かく震えているが、それは恐怖ではなく、極度の興奮のせいだろう。
俺は、光の渦が直撃した場所へ視線を向けた。
イヴの残骸は、もう動かない。
さっきまで俺を殺そうとしていた“意思”が、そこには微塵も残っていなかった。
そして、そのガラクタの真ん中に、鈍い光を放つパーツが1つ転がっていた。
「……これ、管理室の鍵か?」
「分析……完了。間違イナイ。島14の管理室を開ケルタメノ、アクセス・プラグ……」
ポポの声には、安堵と、どこか割り切れないような響きが混じっていた。
俺はふらつく足取りで歩み寄り、そのパーツを拾い上げる。冷たい金属の感触が、デスペナルティで冷え切った俺の手に、確かな「勝利」の手応えを伝えてきた。
「よし、まずはこれを使いに行こう」
俺はパーツを握りしめ、ポポと共に重厚な扉へと向かった。
扉の横にあるコンソールにパーツを差し込むと、カチリという音と共にインジケーターの一つが輝きだした。
「ようやく一歩を踏めたってわけか。……あと、二つ見つけるぞ」
「オオォーー!」
ポポの元気な声を聞いて安心したのか、急激に体の感覚が変わっていくのを感じた。
デスペナルティの重みが消え、代わりに内側から力が湧いてくる。
「そういえば……さっきのログ……。ステータス、オープン――」
○○○
【プレイヤー・ステータス】
【名 前】 クンペイ
【職 業】 魔道具師
【レベル】 24
【体 力】 210
【魔 力】 280(+80)
【筋 力】 20
【耐 久】 18
【敏 捷】 35
【知 力】 110(+60)
【器 用】 240(+120)
【スキル】構造解析
魔導回路
異物接合
孤独職人【パッシブ】
最速飛行【パッシブ / 公式大会優勝特典(永久)】
○○○
「……24。これって、正常な上がり方なのか……?」
視界に流れるログの数値に、俺は思わず乾いた笑いが出た。
スライムを必死に倒してちまちま経験値を稼いでいた日々が嘘のようだ。命を削り、格上のボスを倒した報酬はあまりにも破格だった。
特に『器用』と『魔力』の上昇が著しい。これなら、あの過酷な道も今度はもっと楽に進めるはずだ。
だが、感慨に浸る前にやるべきことがある。
俺たちは、静まり返った観測塔の片隅に横たわる、無残に大破した機体の元へと歩み寄った。
「よかった……残ってた」
「参型、アッタ!」
原型を留めてはいないが、核となるパーツは生きている。
直せる。いや、今の俺ならもっと上にいけるはずだ。
「レベルが上がって、SPも15たまってるな」
俺はウィンドウを開き、迷わずポイントを振り分けた。
構造解析、魔導回路、異物接合。
俺の生命線である三つのスキル全てに5ポイントずつ投入し、一気にLv.3へと引き上げる。
「よし……これで基本成功率は35%まで上がった」
さらに、跳ね上がった『器用』ステータスの補正値+24%が加算され、合計、59%。
以前の「成功率約40%」という絶望的なギャンブルに比べれば、天と地ほどの差だ。これで作業効率は劇的に変わる。
「さて、まずはポポの修理からやるか。こっちに来てくれ」
「……ハイ。……体、ギシギシ、スル」
ポポがぎこちない動作で俺の前に座り込む。
イヴのワイヤーに締め上げられ、最後は肆型の一部として特攻したんだ。外装はボコボコ、レンズにはヒビが入り、内部からは異音がしている。
以前の俺なら「イチかバチか」で叩くしかなかったが、今は違う。
「診察開始だ。じっとしてろよ」
俺はポポの胸元に手をかざし、Lv.3になったスキルを発動した。
≪ 構造解析ーー成功 ≫
ブォン、と視界が切り替わる。
ポポの外装の下にある複雑な魔力神経、その断裂箇所、フレームの金属疲労度までが、青白い数値として脳内に流れ込んでくる。
「メイン回路の断線が3箇所。動力パイプの歪みが15%……」
俺はポーチから工具と、拾ってきたイヴの残骸――高品質な魔導ワイヤーの切れ端を取り出した。
「まずは神経を繋ぎ直す」
指先に魔力を集中させる。これまでは震える手で無理やり押し込んでいたが、一安心からか、安定している。
≪ 魔導回路ーー成功 ≫
切れた回路の間に、俺の魔力がバイパス(抜け道)を作る。
抵抗がない。
まるで水が流れるように、青白い光がポポの内部を駆け巡った。
「……アッ。……熱イの、消エタ。……魔力、流レル……!」
「いいぞ。次は一番の難所、ひしゃげた装甲の補強だ」
俺はイヴの残骸である装甲片を、ポポの凹んだボディに当てがった。
本来なら素材の相性が悪すぎて弾かれる場面だ。だが、俺の手には確信があった。
「くっつけ……ッ!」
≪ 異物接合ーー成功 ≫
カチリ。
火花も爆発も起きない。
吸い付くように異素材同士が融合し、継ぎ目が滑らかに塞がった。
成功率59%。約6割。
数字にすればまだ半分強だが、以前の「ほぼ失敗」という感覚を知っている身からすれば、これはもう「必中」に近い感覚だ。
俺はそのまま、リズム良く作業を続けた。
≪ 異物接合ーー成功 ≫
≪ 異物接合ーー失敗 ≫
失敗だ。約六割といっても失敗しないわけではなかったな。
≪ 異物接合ーー成功 ≫
レンズの亀裂を透明樹脂で埋め、関節のギアに潤滑油代わりの魔力を注ぐ。
「……よし、完了だ」
作業開始からわずか数分。
目の前には、新品……とまではいかないが、傷が綺麗に修復され、どこか以前より逞しくなったポポが立っていた。
イヴのパーツを一部流用したせいで、銀色のパッチワークが勲章のように輝いている。
「……スゴイ、クンペイ! ……体、軽イ! 視界、クリア!」
ポポが嬉しそうにその場でクルクルと回転し、アームをブンブンと振り回した。
「良かった。俺の腕も上がったみたいで、前より細かい調整が効いたようだ」
俺はレンチを回しながら、満足げに頷いた。
さて、相棒の修理も終わった。
次は――俺の足となる『機体』の番だ。




