表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/18

13

 部屋の隅、作業台の下に隠されるようにして、マップに記された「赤い点」はあった。

 

「……ポポ!」

 

 俺は必死に駆け寄った。そこには、あの忌々しい黒い魔導ワイヤーでぐるぐる巻きにされ、機能を停止したかのように沈黙しているポポが転がっていた。外装の一部が欠け、内部の回路が剥き出しになっている。イヴの野郎、あいつをここまで……!

 

「今、助けてやる……!」

 

 俺は手に持ったレンチをワイヤーの隙間にねじ込み、強引にこじ開けようとした。

 

  だが、ワイヤーは生き物のようにレンチに絡みつき、ギリギリと嫌な音を立てて抵抗する。

 

「……クン……ペイ……?」

 

 微かな起動音と共に、ポポのカメラレンズが弱々しく光った。

 

「ポポ! 生きてるな!?」

 

「ダメ……ナノ。……コレ、ただの拘束ジャナイ……。ワイヤーがポポの魔力を吸い取って……この部屋の『警報装置』に直結シテル……。無理に解くと……」

 

「……警報が鳴って、イヴが来るってか」

 

 俺は周囲を見渡した。幸い、イヴ本人はまだここにはいない。

 

「おい、ポポ。魔力カートリッジの余りを持っていないか?」

 

「コレ……10個シカ、ナイ……」

 

「10個だと? いや、十分だぞポポ! よし、今外してやるからな!」

 

 覚悟を決め、俺は力任せにワイヤーを断ち切った。

 その瞬間、部屋中に鼓膜を突き刺すような警報音が鳴り響く。

 

「おい、逃げるぞ!」

 

 叫びながら駆け出そうとするが、ポポは地面に転がったままだ。

 

「ウゴカナイ……」

 

「なんだと!?」


 損傷が激しすぎて、動けないようだった。

 

「クンペイ……ポポハ、イイカラ……オイテケ……」

 

「馬鹿野郎、待ってろ。今直してやる!」

 

 周りに落ちているガラクタをポポにくっつけようとする。

 

異物接合ジャンク・バインド――失敗≫

 

 焦りから魔力が弾かれる。

 

異物接合ジャンク・バインド――失敗≫

 

 火花が散り、システムが拒絶反応を示す。

 

「繋がれ……繋がれよッ!」

 

 祈るように叫びながら、無理やり回路をねじ伏せた。

 

異物接合ジャンク・バインド――成功≫

 

「――ッ、よし! 繋がった!」

 

 三度目の正直。激しい火花が散り、焦げた匂いが鼻を突いたが、確かに確かな手応えがあった。ポポの瞳に、再び強い光が灯る。

 

 その瞬間――


 カチッ――と音が鳴り、部屋全体に光が届いた。

 

「……ふっ。やはりきたか」

 

 警報が鳴り響く中、入り口にゆっくりと姿を現したのは、間違えるはずもない。


 髪を微かに揺らした少年――イヴだ。

 

「……驚いたな。そのボロボロのステータスで、しかもゴミ同然のパーツを組み合わせて、本当にその個体を再起動させるとは」

 

 イヴは表情を変えず、ただ冷徹に、俺とポポの姿をその瞳に焼き付けている。


 彼の右腕からは、先ほどポポを縛り上げていたものよりもさらに太く、鋭い魔導ワイヤーが、獲物を狙う蛇のように鎌首をもたげていた。

 

計算プランを修正しよう。君はここで『排除』する。……ポポ、君はもう一度僕が初期化してあげるよ。そんな壊れかけのエンジニアに固執するのは、非効率だ」

 

 イヴの手が、微かに動く。攻撃の予備動作だ。

 

「……効率、効率って、うるせぇよ」

 

 俺は立ち上がり、ポポを自分の背後へ庇うように立たせた。

 

 圧倒的な強さを前に頭の中が真っ白になった。

 

「クンペイ……ニゲル」

 

「いや、ポポ。手を貸してくれ。一つだけ勝つ方法を思いついた」

 

「ホント……?」

 

「ああ。お前を肆型しがたにくっつける」

 

「……ポポを……?」

 

 ポポの弱々しいレンズが、俺の腰で不気味に、不規則に脈動する「あのランタン」を捉えた。

 

 かつてはただの照明だった。だが今は、宿屋でデスペナルティの震える手に抗いながら、現実世界の「釣り糸とゴム」のイメージを強引に流し込んだ、泥沼の回路の塊だ。

 

「無茶ダヨ、クンペイ……」

 

「いいや、完成だ。俺の計算できない失敗とお前の『意思』……それが揃って、ようやく完成なんだよ!」

 

 俺はイヴの右腕がしなった瞬間、迷わずスキルを叩き込んだ。

 

異物接合ジャンク・バインド≫!!

 

 本来、ポポのような精密個体と、ランタンベースの粗悪品である肆型が組み合わさるはずがない。


 だが、俺の魔力が強引に、かつてないほど激しい火花を散らして両者を繋ぐ。

 

「……愚かな。ゴミを積み上げたところで、計算上の『0』は『0』だ。……消えろ」

 

 イヴの魔導ワイヤーが、音を置き去りにして射出される。

 精密演算に基づいた、回避不能の死の軌道。

 

 だが、それよりも早く、ポポを組み込んだ肆型が震えた。

 

「――っ!? 軌道が……逸れた……?」

 

 イヴの瞳に初めて動揺が走る。

 

 魔導回路リベリオン・リンクで構築された迷路のようなバイパスが、イヴの「最短・最速」の計算を泥沼へと引きずり込んでいく。

 

「くっ……操作性がゴミだ。ポポ、俺の合図に合わせて攻撃しろ」

 

「ワカッタ……」

 

 視界が激しく揺れ、体全身に猛烈なG(重力加速度)を感じながら機体を反転させる。


(画面酔いがひどい……)

 

 胃のあたりがせり上がる不快感に耐え、血走った目でイヴを捉える。

 

「よし、ポポ。いまだ!」

 

 イヴの瞳が大きく見開かれる。

 

 彼の演算装置が導き出していた俺の移動軌道から、今の肆型の動きはあまりにもかけ離れていた。


 だが、イヴの魔導ワイヤーが俺の頬を裂き、目の前が赤く点滅する。

 

「……あり得ない。その重心移動、構造的に破綻しているはずだ!」

 

「破綻してんだよ! 俺の設計も、このステータスもな!」

 

 叫びながら、俺はポポを直結した肆型の制御レバーを無理やり叩き込む。

 

 肆型の外装から「釣り糸」のように伸びた魔導ワイヤーの残骸が、ゴムのような弾力でしなり、イヴの逃げ場を塞ぐように網を張る。

 

構造解析ディープ・スキャン――失敗≫

 ……

構造解析ディープ・スキャン――失敗≫

 

「……くっ」

 

 この島で初めてロボットと戦った時と同じだ。

 警戒してる相手ほど、俺の解析は通らない。


 ――だからこそ。

 

構造解析ディープ・スキャン――成功≫

 

 青白いグリッド線がイヴの体を透過し、魔力が集中する急所を暴き出す。

 

「よしっ! そこだ、ポポ! イヴの右脇腹を潰せ!」

 

「効率だのなんだの……。俺たちは、その『無駄』の積み重ねでここまで来たんだよ!」


 俺の言葉にイヴは余裕を見せた。


「まだ動きが甘いな。 壊れろ、ジャンク品――」


 イヴは不吉に笑みを浮かべる。


「……クンペイ!! ウシロ」


 後ろを振り向くと、イヴの腕が伸びていた。


「やべっ――」

 

「これでおしまいだね」


 (やっぱり、俺には無理なのかもしれない)


「……」


 目の前はスローモーションになっているが、よける余地はどこにもない。

 時間がたつほどに腕が近づいてくる。

 

 死を悟った。また俺は守れないのか?

 そんなことが頭をよぎる。


 それでも、俺は制御レバーを握る力を緩めなかった。

 

 シュルルルル――


 なぜか、浮遊感を感じた。だが、衝撃は感じられない。


「なぜだ。なんでその動きができる」


 肆型の軌道の不規則性。

 それが、まるで意識を持ったかのように攻撃をよけた。


「ポポ、まだだ。 イヴの右脇腹を狙え!」


「ラジャー! 『軟性接手ラバー・ジョイント』」

 

 ポポの腕が、予測不能なスナップを効かせてしなりながら伸びる。

 

 それは直線の最短距離ではない。まるで生き物のようにうねり、物理法則を無視した角度でイヴの懐へと潜り込んだ。

 

 あまりにデタラメなその挙動に、イヴの完璧な演算はついに追いついていない。

 

「「いけぇぇぇえ!!!」」


「ありえない。 ありえない。 ありえない。 演算処理、再構築――」


 イヴの瞳が赤く点滅し、限界を超えた演算火花が散る。

 

「演算……不能……!? この、ゴミ屑がぁぁぁ!!」


 理屈を、法則を、そしてイヴの『正解』を。

 泥塗れのジャンク・バインドが、正面から粉砕した。

 

 ドォォンンン――!!


 その音と共に、凄まじい衝撃波が部屋を揺らし、視界が真っ白な光に塗りつぶされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ