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心の奥  作者: 遠藤 敦子
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「はあ? 何そいつ! 好きじゃなくなったって何様なの?」

 矢沢さんはビールのジョッキをテーブルに叩きつけながら言う。健一郎に怒っているのが明らかだ。ほとんど私の話を聞く会のようになってしまったけれど、伊藤さんも

「もうそんな男早く忘れた方がいいよ」

 と言ってくれた。年齢も通っている大学も違うけれど、マーメイドベーカリーでのアルバイトを始めなければ彼女たちと出会うことはなかったと思う。私は友達や同僚に恵まれていると感じた。


     *


 製造にも慣れ、レジの研修にも合格し、私はどちらも任せてもらえるようになる。できることが増えてきて、マーメイドベーカリーでのアルバイトがさらに楽しくなってきた。新しく入ってきた40代の奥野(おくの)晴美(はるみ)さんというパートさんや20代後半でフリーターの菊地(きくち)真奈美(まなみ)さんに仕事を教えてあげてと頼まれることもあり、奥野さんや菊地さんとも打ち解けられるようになる。

 私がレジに入っていた時、見覚えのある女性客がやってくる。同じ大学の友人の石鍋(いしなべ)いずみと(たいら)瑠璃(るり)だ。

「恵、来たよ! この前学校で恵がおすすめしてたメロンパン、私も買っちゃった」

 いずみも瑠璃も私がおすすめしていたメロンパンを購入した。あとはそれぞれの好きなパン(いずみはクリームパンとくるみパン、瑠璃はあんパンといちごジャムパン)も選んでいる。マーメイドベーカリーでアルバイトしていることは伝えてあり「用事あったら行く」と言っていたけれど、まさか直近で来てくれるとは思わず、レジのカウンター越しに驚いた。あまり話し込むと他のお客さんの迷惑になるので少しだけ会話し、続きはLINEグループか学校でと言って2人を送り出す。なんだかんだで大学4年間、このマーメイドベーカリーでアルバイトを続けてきて良かったと思う。


 矢沢さんと伊藤さんは私よりも先に大学を卒業し、マーメイドベーカリーも退職してしまった。そういうわけで私が唯一の学生アルバイトになるのだけれど、私も大学卒業と就職を機に3月で退職することになる。

 このマーメイドベーカリーにはたくさんの思い出があった。私のために送別会を開いてもらい、ピンクを基調とした花束やみんなからの寄せ書きもプレゼントされる。私は就職を機に大阪から東京に行くことになるけれど、

「梅岡さんへ 今までありがとうございました。東京でも頑張ってください」

「恵ちゃん、大阪に帰ってきたらまたマーメイドベーカリーに遊びに来てくださいね」

 などと書かれている。大阪に帰省することがあれば必ずマーメイドベーカリーに遊びに行くと決め、みんなに見送られながら私は送別会の会場を後にした。

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