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心の奥  作者: 遠藤 敦子
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 数日後、私のスマートフォンにマーメイドベーカリーから着信が入る。

「はい、もしもし、梅岡です」

 私が出ると、店長の小出さんから

「先日は面接にお越しくださりありがとうございました。ぜひ梅岡さんには当店で働いていただきたく、お電話させていただきました」

 と返ってくる。採用の連絡だったのだ。まさか採用されるなんて思わなかったので、私は驚いたと同時に嬉しかった。それからはあれよあれよという間に初出勤日や今月分のシフトも決まっていく。今月のシフトについては初出勤日に渡してくれるそうだ。


 そんなこんなでマーメイドベーカリーでの初出勤日を迎えた。私は緊張しながらお店に向かう。お店では小出さんや先日の面接で私が声をかけた方が迎えてくれた。この方は城戸崎(きどさき)麻江(あさえ)さんで、パートスタッフとして働いている方だそうだ。

 初出勤ということでお店にあるパンの種類について学び、簡単な製造から教えてもらうことになった。製造ができるようになったらレジの研修もあるらしい。私はメモ帳を片手に、ついていくことに精一杯だった。ちんぷんかんぷんになり、何がわからないのかわからなかった。しかし同僚の方は優しい方が多く、次第に打ち解けられるようになったかと思う。

 何度かシフトに入るうちに1歳年上で大学2年生の伊藤(いとう)まりあさんや2歳年上で大学3年生の矢沢(やざわ)七星(ななせ)さん、パートスタッフの菅原(すがわら)文世(ふみよ)さんなどいろいろな同僚と仲良くなり、退勤時間が被れば一緒に帰ることもあった。それぞれ通っている大学が違うので学校や友達や彼氏や好きな人の話をしたり、パートさんとは趣味や休みの日の過ごし方の話をしたりしている。


 ある日、製造をしていた際に私は30代くらいの男性客から「すみませーん」と声をかけられた。声のする方に行くと、そこには3歳くらいの男の子がいて商品のクリームパンが床に落ちている。

「子どもがパン落としちゃったんですけど。そっちで捨てといてくれますよね?」

 男性客は悪びれもせず、パンを落としたことへの謝罪もなく、そう言ってきた。店内には「お子様が落とされたパンや手を触れられたパンはお買い上げいただきます。あらかじめご了承ください」と貼り紙が貼ってあるけれど、「お買い上げ」の部分に下線が引かれている。その男性客は貼り紙を見てすらいないのだろう。

「落とされたパンは販売できませんので、お買い上げいただく形になりますが……」

 私が貼り紙を指しながら説明すると、男性客は子どもを抱いて小走りで店を去った。30歳を過ぎているであろう妻子持ち(その男性客は左手薬指に結婚指輪をつけていた)の男性がする行動ではないと、私は呆気にとられている。小出さんは休みだったので、男性社員にすぐさま報告した。彼もその男性客には呆れ返っていたのだ。

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