第8話「ダンジョンの守護者」
魔法陣の中心に足を踏み入れた瞬間、眩い光が二人を包み込んだ。
「——っ!」
意識が引きずられる感覚の後、気がつくと悠真と蓮は巨大な広間の中央に立っていた。
暗闇に包まれた空間。青白い魔法の光が壁面に埋め込まれ、ぼんやりと周囲を照らしている。
「……転移した?」
悠真が警戒しながら呟く。
「みたいだね。……なんか、めちゃくちゃ嫌な感じの場所だけど」
蓮が大斧を構えながら周囲を見渡す。
すると——
ギィ……ギィ……
奥の扉の前に立っていた人影が、ゆっくりと動き出した。
全身を漆黒の重厚な甲冑に覆われた騎士。
その手には巨大な漆黒の大剣が握られている。
ただの騎士ではない——先ほどまでの敵とは比べものにならないほどの威圧感を放っていた。
「——試練を受ける者よ、覚悟せよ」
低く響く声が、空間にこだました。
「……ダンジョンの守護者ってやつか」
悠真が短剣を構え、身を低くする。
「うわー、強そう……でも、やるしかないね!」
蓮は気合を入れるように大斧を肩に担いだ。
そして——
守護者が動いた。
悠真と蓮の距離を一瞬で詰め、巨大な剣を振り下ろす。
「くっ!」
悠真は歩法術を駆使し、ギリギリで横に跳ぶ。
大剣が床を砕き、鋭い衝撃が辺りに走った。
「ちょっと! やばいよこれ!」
「分かってる!」
悠真は背後へ跳びながら蓮と距離を取る。
蓮が前に出て、大斧を構えた。
「悠真、サポートお願い!」
「了解!」
悠真は守護者の側面へ回り込む。
蓮が渾身の力で大斧を振るう。
「豪烈斬!」
斧が守護者の鎧を叩きつける。
——しかし、重い金属音を響かせただけで、深くは斬り込めなかった。
「硬っ……!」
守護者は蓮の攻撃を受け流し、反撃の大剣を振るう。
「うおっ!」
蓮は跳躍術で大きく後退し、間一髪で回避する。
悠真はその隙に、影から素早く突撃する。
「隙ありっ!」
短剣の二段突きを繰り出すが——
ガキンッ!
守護者の鎧に阻まれ、刃が通らない。
「マジかよ……!」
悠真が驚愕する。
「正面からじゃダメだ! 弱点を探らないと!」
蓮が叫ぶ。
しかし——
守護者が一瞬で距離を詰め、悠真の目の前で大剣を横薙ぎに振るった。
「っ!?」
間に合わない——そう悟った瞬間、悠真の体が勝手に動いた。
「歩法術・影駆け」
その瞬間、悠真の体が影のように揺らぎ、異常な速度で後方へ飛び退く。
「——な、何だ今の動き!?」
悠真は驚きつつも、新たな感覚を理解する。
極限の状況で、新たな歩法術を会得したのだ。
「……やれる!」
悠真は守護者の動きを読み、影駆けで高速移動しながら、鎧の関節を狙って斬りつける。
「蓮、今だ!」
悠真が膝関節を狙って攻撃した瞬間、蓮も本能的に新たな力を発揮する。
「——なら、こっちも負けてられないね!」
蓮は跳躍術を極限まで高め、足元の空間を蹴る。
「跳躍術・空裂歩!」
空中を蹴り、まるで飛ぶように加速し——
「——喰らえぇぇぇ!!」
守護者の脇下へ向かって、豪烈斬を叩き込んだ。
ガギィィィン!!
今度は、鎧の隙間に攻撃が食い込み、守護者の体がよろめく。
「これで……終わりだっ!」
悠真と蓮が同時に攻撃を叩き込む。
ドォォン!!
守護者の体が光の粒子となり、消滅した。
——直後、奥の扉が開かれた。
「……勝った?」
悠真が荒い息をつきながら短剣を収めた。
「うん。でも、めちゃくちゃギリギリだったね……」
蓮も肩で息をしながら、大斧を地面に突く。
すると、開かれた扉の先に、二つの宝箱が鎮座しているのが見えた。
「……まさか、報酬?」
悠真と蓮は慎重に宝箱へ近づく。
——中には、それぞれの技能に適した装備が収められていた。
《影縫いの短靴》(歩法術の効果を高める靴)
《風裂の篭手》(跳躍術の動きを補助する篭手)
「これは……すごい!」
悠真と蓮は驚きながら装備を手に取った。
そして、その奥には——
古びた石板が一つ、残されていた。
「……何か、書かれてる?」
悠真が石板に手を触れると、突如として頭の中に言葉が流れ込んできた。
「世界の始まりは、神々の手によって造られた——」
それは、この世界の秘密の一端を示すものだった。
悠真と蓮は顔を見合わせる。
——このダンジョンは、世界の真実へと続く道の一つなのかもしれない。