第5話「街・グラントとギルド」
ラズ村で一泊した悠真と蓮は、朝早くに村を出発した。
目的地は、中規模の街「グラント」。
「いやー、ちゃんと寝たら元気出たわ! 今日も頑張ろー!」
「お前、どんな状況でも元気だな……」
悠真は呆れつつも、蓮の明るさに少しだけ救われていた。
村の見張りの男に見送られ、二人は街道を進んでいく。
ラズ村からグラントまでは、徒歩で半日ほどの距離だった。
道は比較的整備されており、商人や旅人の姿もちらほら見える。
「……モンスターとか、あんまりいないんだな」
悠真は周囲を警戒しながら呟いた。
「この辺の街道は、ギルドが定期的に討伐してるんだってさ。村で聞いた情報によるとね!」
「へぇ……」
異世界にも、治安維持のための仕組みがあるらしい。
少し安心しながら歩いていると——
「——た、助けてくれ!!」
突如、悲鳴が響いた。
悠真と蓮は顔を見合わせ、声のした方へ駆け出す。
道の先で、二人の商人らしき男が馬車のそばで怯えていた。
その前には、巨大な「土狼」が二匹。
体毛は灰色に濁り、鋭い爪が地面をえぐる。
「やべっ、間に合うかな……!」
蓮はすぐに斧を構え、悠真も短剣を抜いた。
「蓮、俺が一匹引きつける! そっちは頼んだ!」
「了解!」
悠真は歩法術を使い、素早く土狼の注意を引いた。
狼の一匹が低く唸りながら、悠真に向かって跳びかかる。
「……っ、来い!」
悠真は新たに習得した技を試す時が来たと感じた。
「二段突き!」
短剣が青白い光を帯び、悠真の手が自然と動く。
一撃目は喉元を狙い、二撃目は即座に腹部へ突き刺さった。
「ガゥッ!」
土狼が悲鳴を上げ、よろめく。
しかし、まだ息はある。
「……効いてる。なら——」
悠真は間髪入れずに動き、軽業術で背後に回り込む。
そして、最後の一突きを喉に打ち込んだ。
「グゥ……」
土狼が崩れ落ちる。
「やった……!」
悠真は息をつくが、すぐに蓮の方を見る。
蓮はもう一匹の土狼と対峙していた。
「うぉらぁっ!!」
豪快に振り下ろした斧が、土狼の肩に命中する。
鋭い一撃に、狼は悲鳴を上げてよろめいた。
「よし、もう一発……!」
しかし、その時——
「悠真、後ろ!!」
蓮の叫びと同時に、悠真は背後の気配に気づいた。
土狼のもう一匹が飛びかかろうとしている!
「くそっ——」
とっさに地面を蹴り、軽業術で横に跳ぶ。
狼の爪がかすめ、腕に痛みが走るが致命傷にはならなかった。
「悠真、下がって!」
蓮が跳躍術を使い、悠真の前に割って入る。
「——決めるよ!」
蓮は両手斧を振り上げると、技能書が発光した。
次の瞬間、蓮の斧が赤黒い魔力を帯びる。
「豪裂斬!」
蓮の斧が閃き、土狼の胴を豪快に切り裂いた。
血飛沫が舞い、狼は息絶えた。
「……はぁ、はぁ……」
「お、お前、そんな技……」
「どうやら、私も新しい技を習得しちゃったみたい!」
蓮は満足そうに斧を肩に担ぐ。
「ひぃっ……た、助かった……!」
商人たちは安堵の表情を浮かべ、何度も頭を下げた。
「ありがとう! お礼をしたいんだが……」
「お金とかはいいよ! その代わり、グラントまで一緒に行ってもいい?」
蓮が笑顔で言うと、商人たちは驚いたように頷いた。
「もちろん! 馬車に乗っていくか?」
「いいの!? じゃあ、お言葉に甘えて!」
こうして、悠真たちは商人の馬車に乗せてもらい、無事にグラントへ向かうことができた。
グラントの門は頑丈な石造りで、見張りの兵士が立っていた。
「お前たちは?」
「この方々、道中でモンスターに襲われまして……助けてもらったんです!」
商人が説明すると、兵士たちは感心したように頷いた。
「なるほど……転移者か。なら、ギルドで登録すれば街の通行証がもらえるぞ」
こうして、悠真と蓮は無事にグラントへ入ることができた。
「おお……都会だ……!」
悠真は思わず息をのむ。
ラズ村とは比べ物にならないほど、街並みは整っていた。
石畳の道が広がり、商人たちが店を並べ、行き交う人々の活気に満ちている。
「すごいねー! 異世界の都市って感じ!」
蓮も興奮した様子で周囲を見渡す。
「とりあえず、ギルドに行ってみるか」
商人に道を聞きながら、二人はギルドへ向かった。
ギルドは大通りに面した頑丈な建物で、大きな木製の看板には「冒険者ギルド・グラント支部」と刻まれていた。
「よし、入るぞ」
二人はギルドの扉を開け、中へと足を踏み入れた——。