第4話「村と情報収集」
「おー、やっと着いた!」
蓮が大きく伸びをしながら、村の入り口に立つ。
悠真もそれに続き、慎重に周囲を見渡した。
村はこぢんまりとしていたが、畑や家畜の飼育場があり、生活がしっかり成り立っていることがわかる。
建物は木と石で作られた素朴なもので、所々に藁葺きの屋根が見える。
「意外と穏やかそうな村だな」
「でしょ? こういう村なら、情報も手に入りやすいはず!」
蓮は堂々とした足取りで村の中へと進んでいく。
悠真は少し戸惑いつつも、その後に続いた。
村の入り口には、槍を持った見張りの男が立っていた。
村人というよりは、簡易的な傭兵のような雰囲気だ。
「お前たち、旅の者か?」
男は少し警戒するような目つきでこちらを見ていた。
「うん、そうだよ!」
蓮はにっこり笑って即答した。
「ちょっと行く当てがなくてさ、この村で情報を集めさせてもらえないかな?」
「……怪しい者ではない、という証明は?」
「証明かぁ……うーん、何かあるかな?」
蓮が考え込んでいると、悠真が一歩前に出た。
「俺たちは異世界からの転移者なんだ」
「……異世界から?」
男は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに眉をひそめた。
「そんな話、そう簡単に信じられるわけがない」
「まぁ、そうだよな……」
悠真は困ったように口元を押さえたが、ふと蓮が「お?」と声を上げた。
「ならさ、これを見せればいいんじゃない?」
そう言って蓮は、自分の腰に下げた技能書を取り出した。
悠真もすぐに理解し、自分の技能書を見せる。
「これは、この世界に転移した者だけが持つ本らしい。俺たちが嘘をついていない証拠になると思う」
男はしばらく技能書を見つめ、少し考えた後、ため息をついた。
「……本当に転移者なのか」
「信じてもらえた?」
「まぁな。俺も昔、一度だけ転移者に会ったことがある。お前たちと同じような本を持っていた」
どうやら転移者という存在は、それほど珍しいわけではないらしい。
「わかった。村に入ってもいい。ただし、妙な真似はするなよ」
「もちろん!」
蓮はにこやかに答え、悠真と共に村の中へと足を踏み入れた。
村の中心には、簡素な広場と市場があった。
数軒の商店が並び、村人たちが行き交っている。
「さて、どこから情報を集めようか?」
悠真が周囲を見渡しながら尋ねると、蓮はすぐに指をさした。
「まずはあそこの酒場でしょ!」
「……酒場?」
「情報収集といえば、酒場だよ! ほら、冒険者っぽい人もいるし!」
確かに、酒場の前には旅人や傭兵風の男たちが数人たむろしている。
ただ、悠真としては、あまり無用なトラブルには巻き込まれたくないところだった。
「まぁ、他に当てもないしな……」
悠真と蓮は、酒場の扉を押し開いた。
酒場の中は、昼間にも関わらず活気に満ちていた。
木製のカウンターの向こうでは、女主人らしき女性が酒を注いでいる。
「おー、いい雰囲気!」
蓮は嬉しそうに店内を見渡し、さっそくカウンターへ向かう。
「すみませーん! 何か食べ物と、水かジュース的なもの、ある?」
「酒場で酒以外を頼むとは、珍しい客だね」
女主人はクスリと笑いながら、軽食と果実酒を出してくれた。
「ねえねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
蓮が陽気に話しかけると、女主人は興味深そうに身を乗り出した。
「へぇ、旅人さんが情報を探してるってわけね。で、何を知りたいの?」
「この辺りの地理とか、転移者についての話とか!」
「なるほどね……」
女主人は少し考えた後、小さく頷いた。
「まず、ここはラズ村。近くには中規模の街グラントがあるわ。そこにはギルドや商業施設も揃ってるから、旅人には便利な場所よ」
「グラントか……」
悠真は頭の中で情報を整理する。
「それと、転移者の話だけど……」
女主人は少し声を潜めた。
「最近、この近くで転移者の一団が目撃されたって噂があるわ」
「転移者の一団……?」
悠真と蓮は顔を見合わせる。
「詳しいことはわからないけど、彼らは何かを探しているみたいね」
「何を……?」
「さぁね。でも、興味があるなら、グラントのギルドで聞いてみるといいかもね」
グラントのギルド……
そこに行けば、もっと詳しい情報が得られるかもしれない。
「なるほど……ありがとう!」
蓮は満足げに笑い、悠真も軽く礼を言った。
酒場を出た二人は、村の広場に戻った。
「どうする?」
悠真が尋ねると、蓮は即答した。
「決まってるでしょ! グラントに行く!」
「やっぱりそうなるよな……」
悠真は苦笑しつつも、心の中で覚悟を決める。
転移者の一団が何を探しているのか
グラントのギルドにどんな情報があるのか
気になることは多い。
「じゃあ、明日の朝に出発しよう」
「うん! それまでにしっかり休んで、次の冒険に備えなきゃね!」
こうして、悠真と蓮の次の目的地は「グラント」に決まった。