第3話「旅の始まり」
「それでさ、悠真はこれからどうするの?」
魔獣の死骸を避けながら歩いていた蓮が、ふと問いかけた。
「どうするって……正直、まだ何も考えてない」
息を整えながら答えると、蓮は「だよねー」と軽く笑った。
「じゃ、とりあえず村でも目指さない? いつまでもこんな森の中じゃ危ないし」
「……村か」
考えてみれば、今の自分には何の当てもない。
目の前の森を抜けても、どんな世界が広がっているのかもわからない。
情報が必要だ。
「そうだな、まずは人のいる場所を探さないと……」
「よし決まり! ほら、さっさと行くよ!」
そう言って蓮はぐいっと悠真の腕を引っ張る。
「わっ!? ちょ、待て、俺まだ回復して――」
「いやいや、これくらいでヘバってる場合じゃないって! ほら、歩く歩く!」
悠真は思わず苦笑した。
蓮の明るさと前向きさは、この異世界に飛ばされてから感じ続けていた緊張を少しだけ和らげてくれる。
こうして、悠真と蓮の二人は、最初の目的地を「村」と定め、歩き始めた。
「そういえばさ、悠真の技能書ってどんな感じなの?」
移動しながら蓮が尋ねた。
「え?」
「ほら、さっき二段突き習得したじゃん? 他には何が書かれてるのかなって」
悠真は少し戸惑いながらも、自分の技能書を開いた。
そこには、最初から記されていた五つの技能が載っている。
〈戦闘系〉
・短剣術
・蹴術
〈非戦闘系〉
・調合術
〈汎用系〉
・軽業術
・歩法術
「俺のはこんな感じ」
「へぇー、短剣と蹴り? それに調合術? なんか器用なタイプっぽいね」
「器用かはわからないけど、なんとなく戦い方のイメージはついてきたかも」
最初の戦闘では無我夢中だったが、自分の技能をどう活かすべきか、なんとなく見えてきた気がする。
短剣と蹴りを組み合わせた立ち回り。
軽業と歩法での素早い動き。
そして調合術を駆使すれば、毒や回復薬で戦闘を有利に進められるかもしれない。
「蓮の技能は?」
「私はねー、両手斧術、交渉術、魔力操作術(腕力強化)、魔力操作術(声量強化)、跳躍術!」
「……やっぱり戦闘向きだな」
「でしょ!? まさかこんな脳筋スキルになるとは思わなかったけどねー!」
蓮は豪快に笑うが、その技能の組み合わせはかなり強そうだった。
腕力強化で両手斧の破壊力はさらに増し、跳躍術での機動力もある。
そして交渉術……戦闘だけでなく、社会で生きていくのにも役立ちそうだ。
「……うん、蓮はすごいな」
悠真が感心したように言うと、蓮は「ん?」と不思議そうな顔をした。
「悠真だって、かなりいい技能してるじゃん? ていうか、あんたの戦い方、結構好きだよ。ちゃんと頭使って動いてるし」
「そ、そうか……?」
「うんうん! だからさ、これからも一緒に強くなってこ!」
蓮は笑顔で手を差し出した。
悠真は一瞬迷ったが、すぐにその手を握り返した。
「……ああ」
森の中を進み続け、日が傾き始めた頃、二人は開けた場所へと出た。
目の前には、広い平原が広がっている。
そして、その向こうには――
「あれ、村じゃない?」
蓮が指さした先には、いくつかの建物が立ち並ぶ集落が見えた。
「本当に村だ……助かった」
「でしょ! じゃ、さっそく行こう!」
「いや、ちょっと待て。まずは様子を見てから……」
「えー? まぁ、慎重にいくのは大事だけどさ」
悠真の警戒心をよそに、蓮はどんどん前へ進んでいく。
「ちょっ、蓮!」
「大丈夫だって! もし何かあっても、交渉術があるし!」
そういう問題じゃない、と言いたかったが、蓮の勢いに押され、悠真も仕方なく後を追った。
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