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第2話「出会いと決意」


 肩で荒い息をつきながら、主人公——春川悠真はるかわ ゆうまは狼型魔獣の亡骸を見下ろした。

 戦いの余韻が残る中、ゆっくりと震える手を握りしめる。


「……勝った、のか?」


 実感が湧かない。

 体は恐怖でこわばり、頭の中は混乱でいっぱいだった。

 だが、倒れた魔獣が再び動き出す気配はない。


 勝った。生き延びたのだ。


 安堵した瞬間、全身の力が抜ける。


「はぁ……、もう動きたくねぇ……」


 どさりと地面に腰を落とす。

 腕や足には魔獣の爪で引っ掻かれた傷がいくつも走り、痛みがじわじわと広がっていた。


 それでも生きている。


 それが何よりの救いだった。


「おーい、大丈夫かー?」


 唐突に響いた元気な声に、悠真はびくりと肩を跳ね上げた。

 警戒しながら振り向くと、そこには長身の女性が立っていた。


 肩ほどの長さの赤茶の髪。

 軽装ながらも鍛えられた体躯が目を引く。

 手には大きな両手斧を携えていた。


 「おお、やっぱり日本人? アンタも転移者?」


 彼女は興味津々といった様子で悠真を覗き込む。


「……え?」


「ん? ああ、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね! 私は天音蓮あまねれん! 23歳、元雑誌編集者!」


「……は?」


 あまりに軽い調子に、悠真は思わず間の抜けた声を上げる。

 異世界に飛ばされて、魔獣と死闘を繰り広げた直後に、いきなりこんなノリのいい人物に話しかけられるとは思わなかった。


「ちょっと、なんでそんな呆けた顔してんのさ。転移者なら仲間じゃん?」


「……いや、まぁ、そう……なのか?」


「そうだよ! ほら、技能書持ってるでしょ? それ、転移者の証みたいなもんだからね」


 蓮はにこっと笑いながら、腰に下げていた技能書を見せた。


「私の技能はねぇ、両手斧術、交渉術、魔力操作術(腕力強化)、魔力操作術(声量強化)、跳躍術って感じ! もう脳筋技能ばっかで泣きたいけどね!」


 笑い飛ばす蓮に、悠真は呆れつつも少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。

 この異世界で、自分と同じ境遇の人間がいる。

 それがどれほど心強いことか。


「……俺は春川悠真。大学生、って言っても、もう異世界じゃ関係ないけどな……」


「そうだねー。でもまぁ、お互い生き延びるために頑張ろっか!」


 紗月は明るく笑いながら手を差し出した。

 悠真は少しだけためらった後、その手を握り返す。


 その瞬間——


「うおっ!?」


「ん?」


 突如として、悠真の技能書が光を放った。


 慌てて開くと、新たなページが追加されているのが目に入った。


「……短剣術、二段突き習得?」


「へぇ、戦闘で熟練度が上がると技を覚えるってわけか。面白いね!」


 蓮が興味深げに覗き込む。


「つまり、この技能書を成長させれば、俺たちはもっと強くなれる……?」


「そういうことじゃない? やる気出てきた?」


「……正直、怖いよ。でも、何もしなきゃ死ぬだけだ」


 悠真は拳を握りしめる。


「ここで生き抜くために、強くなるしかないんだろ?」


 それが、この異世界での最初の「決意」だった。

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