良い子のクリスマス
「サンタさんは良い子にしてたら、プレゼントをくれるからね」
「本当? ママ、私、良い子になるよ!」
真美はそう宣言していた。実際、真美は優等生の良い子だった。学校の成績もよく、委員長も務め、来年は小学五年生になるが、生徒会にも入ろうと考えているぐらいだった。
母にはサンタさんやクリスマスの話題も匂わされ、真美は十二月中、勉強やお手伝いを頑張っていた。
「良い子にしてたら、サンタさんからプレゼント!」
もちろん、真美も本気でサンタを信じているわけではない。両親がサンタのフリをしている事は気づいていたが、なおさら良い子にして、豪華なプレゼントが欲しかった。特に真美はぬいぐるみが好きなので、大きなティディベアが欲しいと思っていた。
一方、妹の花子は、典型的な劣等生。成績も悪いし、学校もよく遅刻している。今日も手伝いなどもせず、リビングでポテチを食べながら、ダラダラしてた。
「花子、お姉ちゃんと一緒に洗濯物を畳まない?」
「えー、やだ。めんどくさいー」
「もう、本当は花子は自由な子ね」
呆れつつも、こんな怠け者の花子には、ろくなクリスマスプレゼントは無いと思っていた。
真美はうっすらと花子を馬鹿にしていたし、クラスメイトの劣等生も見下していた。近所のヤンキーも嫌い。ちょっと野良猫を優しくしただけで高評価を得ていた。普段から真面目に野良猫を世話をしていた真美は全く褒められない。子供ながらにして真美は世の中の理不尽さを感じていたのだ。
そうしてクリスマス当日。朝、目覚めたら、プレゼントがあった。
「わあ! 可愛い! ティディベアのぬいぐるみ!」
プレゼントは思惑通りのもので、真美は胸いっぱい。頑張って良い子にしていて良かった!
「お姉ちゃん、私もカワウソちゃんのぬいぐるみ貰った。めっちゃ可愛い」
「え!?」
妹の花子もプレゼントを貰っていた。しかも妹が好きなカワウソのぬいぐるみ。
嬉しい気持ちが萎え始めた。なんで怠け者の花子が良いプレゼント貰ってるんだ? 今まで自分が良い子をしていたのは何だったのか?
裏切られた気分。ついつい母にこの件を抗議した。
「花子は何にもしていないのに、プレゼントを貰っているのはおかしくないですか?」
抗議する真美の目は吊り上がり、顔も真っ赤だった。母は手鏡を差し出し、真美に自分自身の顔を確認させた。
「そう文句をつける真美は本当に良い子?」
「う、う」
反論できない。手鏡の自分は、ブスだったから。全く良い子じゃなかった。
「パパも私の目から見たら、真美も花子も良い子だよ。花子だって時々、近所のゴミ拾いしてたの知ってる?」
「え、知らない」
「隠れてコソコソやってたらしい。恥ずかしいからって」
「そうか……」
「それにクリスマスってキリスト教のお祭りの日でしょ。聖書には善行はこっそりと、お返しができない人にしようってあるよ。良い事しても偉そうにしたら台無し」
改めて手鏡を見る。自分は表面的なものしか見えてなかったらしい。ちょっと優等生だからって偉そうにしていた。花子のプレゼントに文句を言う資格はない。
「真美もプレゼント貰ったんだから良いでしょ? 花子は関係ある?」
「な、ないかも」
そこに花子がやってきた。例のカワウソのぬいぐるみを抱きしめ、上機嫌だ。その笑顔を見ていたら、毒気も抜けてきた。
「そうだね、パパもママもプレゼントありがとう!」
「ちょ、真美。サンタさんがくれたという設定にしてよ」
母は慌てていたが、真美はもうこれで十分だと思っていた。