No.68 拝啓、今尚淀み行く貴方へ 其の二十三
( ):昨日は投稿できなくてすみませんでした。
(裏):まさか遊園地行って遊んでたとかいうわけじゃないよなぁ?
( ):ちちちがいますよ?はい。だって平日じゃないっすか、ねぇ?
(裏):やろうか、詫び投稿?
( ):せめてっ、もう少しストックが溜まってからっ……!
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風水刀然。とある刀の流派である。とはいえ、それは半ば護身術のようなものであり、現代においてはいわば古武術というようなものである。
そんな刀術のコンセプトは何か?それは、自然との一体化。瞑想をしている最中にしかきかないような、目標としてはどこかずれているようなものに感じられるかもしれないが、実は理由はちゃんとある。
例えばの話だが、人は厄災に対して、それそのものを根絶することができるだろうか?そもそも、自然災害に同じ土俵で、真っ向から原因療法をすることができるだろうか?確かに、今からさらに時を経れば、あるいはそんな手段を確立できるかもしれない。しかし、少なくとも現代ではそれは無理である。
1人の人間として、自然に立ち向かおうとするのは不可能である。なぜなら、人と自然では、格が違うから。大自然、それこそ巨大な山や大海に立ち向かおうとする人間はいないだろう。勝てるヴィジョンが見えないのだから。
だから、風水刀然は絶対に負けない刀術という意味で、その目標を掲げたのだ。
では、その刀術の奥義とは、なんなのか。風水刀然は、大きく分けて攻撃に比重が乗った攻勢刀術と、主に防御や動きに関する補助刀術の二つに分けられる。故に、風水刀然は、その二つのそれぞれの到達点として、二つの技を編み出した。
一つは一切。自分を遥かに上回る強敵を想定して作られた攻勢刀術の到達点。それは技術的に上回る相手に対してもそうだし、身体的に上回る相手に対しても同様だ。故にこそ必殺の一撃としてはこれ以上ない技である。
一つは合切。自分より弱い、それでも群れを成してこちらを飲み込まんとするものに対する解。自然に存在するエネルギーを、相手から得られるエネルギーを、最大限に使って、自分が使わなければいけない力を限りなくゼロに近いほどの最低限程度の出力にして迎え撃つ技。延々と、相手が撤退するまで止まらず、攻撃を受けないが故に、持久戦としてはこれ以上ない技である。
しかし、それではまだ足りない。一切では相手が使用後に死ななければ負けてしまうし、合切では相手が退かなければいつかはこちらが負ける。
長時間戦い、かつ必殺の一撃を繰り出し続ける。それだけだが、極めて難易度の高い、それこそ不可能と言われるほどのもの。一切を使えば、体力を温存させることが目的の合切とは矛盾する動きになる。それでも、やり遂げた者がいた。そして、それを一度見て、執念で会得した者も。
『一切合切死滅劇』
風水刀然の机上の空論だった技。破格の才能でもって、不可能であったはずのそれを覆したのは……、今、風前の灯とすら生ぬるい状態で動き続ける一体の死霊。
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青龍は意味がわからなかった。なぜ、これだけ自分は想定を覆されるのか。勘が鈍っていた、などという次元の話ではない。これは、そんな言葉で片付けられるものではない。
叶わないはずだった。青龍はこの箱庭でも本当に強い存在だった。それこそ、実力では彼の主人を除いて一番だった。その強さに、この箱庭を作り、運営している存在も、生存者が青龍に勝てるのは、特殊勝利条件下でのみのケースだろうと。
ならば、今この目の前で繰り広げられている光景はなんなのか?
叶わないはずだった。100歩譲って己が代行権限を行使して作った仮想空間の中で負けるのはまだ理解が及んだ。そういう法則だった仮想空間だったから。なのに、目の前の死霊はこの現実空間においても真っ向から自分を追い詰めている。
『が、ぐ……貴様、辻褄が合わないだろう!ゴッ!?っ、瀕死の、その体で、なぜ、なぜ動く!なんなんだ……なんなんだ貴様はァ!』
叶わないはずだった。突然人が変わったように動き出し、技術で持って自分を圧倒した。それすらも凌ぎ、目の前の死霊を元の雰囲気に戻した時点で勝っていたはずだった。次は行ける。次は勝てる。何度も何度もそう思い……その尽くを乗り越えられた。
青龍は意味がわからなかった。こんな理不尽は、彼の主人が人柱として捧げられた時以来だった。この身が、縛りを科せられてこの城で止まらなければいけなくなった時よりも、この身がもはや彼の主人を害した存在たちに抗することができなくなった時よりも。いっそのこと、泣いてしまいたかった。どうすればコイツは死ぬのだと。
まさか、まさかまさか技術のみで、青龍を圧倒しているなどと……彼には、理解などできなかった。
それでも、終わりはやってくる。青龍が辻褄が合わないと言ったが、そんなことはあり得ないのだ。オールも、未だ法則に囚われた身であり、これまでの理解不能な動きは全て最適解を選んだ行動の結果が故。そして、最適解を選んだとても、限界はいつかやってくるのだ。
⭐︎⭐︎⭐︎ 【延戦刀士】 オール・フォルタム
「……はぁっ、……はぁっ」
呼吸などする意味もないのに、前世の習慣なのか肩で息をしてしまう。これだけやっても、青龍はまだ倒れなかった。あの巨体には、数々の傷が刻まれ、削がれ、切り落とされ……それでも、青龍は息絶えていない。
「……」
彼我の状況を把握する。
青龍は、両腕欠損。あの虹色モードでそれなのだから、もう回復は見込めないだろう。他にも、大小様々な傷が多数。中でも、胸部に巨大な傷をつけた。後一歩進めていれば、あるいは殺せたのかもしれない。でも、現実問題あれ以上進めばその時点で行動不可能になっていっただろうから、意味のない話か。
一方で、私。視界の半分は霞みがかっていて見えないも同然。体の感覚はないし、ただでさえ冷たい体が、流血でもう気温と同程度。いや、もっと低いかも?そんな中で、なるべく流血を抑えて、相手のエネルギーを最大限活用して、それを使って攻撃して……。
なんでできてるんだろう、って思う。でも、そんなの考える暇なんてなかった。それを考えるくらいなら、一発でも多く青龍に手傷を負わせるべきだった。まぁ、それも今考えてる時点で終わりが近いってことなんだろうけどね。
ふと、自分の体を見下ろしてみると、もうただの肉塊も同然だ。ほとんどボロボロで、壊れてないところなんかないし、血が出てないところもない。つくづく生きてるのが不思議なくらいだね、まぁ死霊だからなんだけどさ。
そんな生存能力に長けてる死霊でも、死ぬ時は死ぬ。
血がこぼれ落ちた先から、自分のものでなくなっていくのがわかる。HP……あぁ、もうゴミみたいな数値だわ。なんだよ、2って。笑える。
片方使えないので、右目だけで青龍を睨む。あいつは何故か仕掛けてこない。それこそ、恐怖すら混じっているような気がする。ふふ、HP2の死霊の何が怖いのさ。あぁ、あちらは見えていないんだっけ、私の体力。
ひどく落ち着いた気分だ。これが何もない朝とかだったら、さぞ気分が良かっただろう。でも今は朝じゃないし、なんなら死にかけだから気分は最悪だ。ふふふ、矛盾してるね。あぁ、でもそうだなぁ。こんなにも体は崩れ落ちそうなのに。
--なぜか、胸の奥が熱いんだ。
もう、原理を理解するのは諦めてる。所詮、分析気取りの低IQだったってわけだ。でもさ、頭悪いとか関係なくてくさ。こんな良くもない性格の人間がね?それでも生きたいって醜い叫び上げてんだ。笑えるでしょ?こんな迷惑かけてばっかの人間が、自分本意なことばっかり。
「あぁ、それでも」
そんな私が、私は好きだから。世界中の誰もが否定しようとも。例え嬲られながら死に至る末路だとしても。
「だから」
今は、残り少ない命だから。
「私は、私の心に従うよ」
いつも通りの、私の欲。たった一つの、愛すべき生存欲求。
「さぁ、一度死んだ死霊と、君との生存競争だ」




