No.62 拝啓、今尚淀み行く貴方へ 其の十七
⭐︎⭐︎⭐︎ 【延戦刀士Lv1】 ワン・スプリングス
「……やれやれ、都合の悪い時だけ泣きついて後は主導権は渡さない、か。自分はそれで満足しているからいいが、一般的に考えたらどうなのだろうなぁ?青龍殿?」
『……?なんだ、雰囲気が変わったな。いきなり怒りの矛を収めるとは、どういう領分だ?』
「早い話が、自分は先程までの彼女とは別人格だよ。考えも、動きもね」
『それはまた面妖な……、だが、だとしても我が行うことに変わりはない。出てきて早々悪いが、退場してもらうぞ?』
「彼女相手に消耗戦しかできなかった貴様に、自分を削り切ることは難しいと思うぞ?言ったろう、自分は彼奴とは考えも、」
踏み込み。床を踏み潰して土煙を生成する。そこでワンテンポ遅らせて……。
「動きも違うからなぁ?」
自分の得意技、鎌鼬が敵手の指三本を切り落とした。
『いっ……な、ぁ!?』
ふむ、やはり先ほどまではこうも容易く指を切り落とされなどしていなかったのだろうなぁ。せいぜいが最初に奇襲で一本破壊といったところか。自分が切り落とした三本の横には、明らかに他とは違う長さの指があった。つまり……。
「これで貴様の左手は使い物にならんというわけだ」
『キサマァアアアア!!』
「直情的なのは褒められんな」
突っ込んできた青龍はそのまま枯葉舞で受け流す。同時に……。
「これがっ、間切!」
自分の刃が鱗をなぞる様に動き、その隙間から奥の肉を確実に断つ。
「グゥガァアアァァアアッ!」
自分にできることはとにかく目の前のこの存在を殺すこと。その後のことは主人格がどうにかすると言っているのだから任せればいい。
「自分は、自分の目的が果たせるなら構わない」
「グゥ、ガァアアアァァァアアアアアアアア!!!」
吠えるだけで見え見えの攻撃しかしない青龍は身体能力で劣ってこそ、目で追い、反応がギリギリできるという程度なら自分にとっては問題ない。脳筋な龍殿に教えてくれよう。
「技術は、不利を覆す!」
『なんだ、なんなんだ貴様はぁ!?』
形勢は逆転した。このままいけば自分は順当に相手に勝つことができるだろう。だが、そうはいかないというのが世の常である。相手もまだ隠している札があるに違いない。現に先ほど見た龍のす、ステータス?なるものにはまだ知らない奴の手札だろうものがわんさか残っていた。オールがやっていたように自分も名前からどんなものか推測こそしているが、未だ釈然としないものが多い。
広間はすでに崩壊している。外観はまだ大丈夫だったのだが、今青龍が打った『薙ぎ払い』だろう尾の一撃で天井が粉砕された。
上から瓦礫が降ってくる。まぁ、問題ないな。跳躍でその場から引き、ついでとばかりに打ち込まれた『薙ぎ払い』に反撃を加える。
『急に強さが跳ね上がったではないか……なんだ、今までは本気などではなかったと?』
「自分もいつでも表に出れるほど自由なものではない。訳あって今はオールは自分の存在を知らない」
『制約はあると……』
「まぁ、知ったところでどうにかなるわけではないからな」
自分がそう答えると、それまで考え込むように地を眺めていた青龍が顔をあげ、ニヤリと笑みを浮かべた。とはいえ、爬虫類のそれなので、正直口元が少し上がったとかそんなものしかわからないが。
『いぃや、不可解な者よ。貴様が今教えた情報は自分にとってはそれなりに大きな意味を持つ。それこそ、解決策を思いつく程度にはな』
む。どうやら、先ほどのステータス何某の確認で見た割には精神攻撃の類のものはなかったが、間接的にそれを成し得る手段はあるようだ。失敗したな。少し余裕ができて、油断ができたか?いや、油断というよりは、これはもう純粋な経験の鈍りだ。
まぁ、それは基本的に主人格に体を操られていたら経験など鈍るが……、次から積極的に体の主導権を握るべく努力するか?いや、でも……。
『どうやら我がどうやって貴様を突破するか心当たりがないようだな』
「生憎と、頭脳分野は苦手でね」
『ほざけ。まぁ、わからないのなら教えてやろう。実際に体験するという形でなぁ!!』
何か来る。自分が身構えた時にはもう遅かった。
「なんと……」
青龍の渾身の『薙ぎ払い』。その一撃が、開いた天井のそのさらに奥、見事な夜空を模した絵の天井に突き刺さった。




