No.59 拝啓、今尚淀み行く貴方へ 其の十四
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『どうしたァッッ、我が眷属の視界越しではあるが、我に対し粋がっておったろう!??我がよもやこれほど貴様と格が違うとは思わなかったかァ!!?』
『分析』が起動しない。それは私自身に対してでもあるし、青龍に対するものでもある。なんだ、生身の肉体に対して使わないとダメなのか。……でも、相手が今どんな状態かは関係ないよね。……今は、ベフェマの護衛が、
「最、優先……!」
『そろそろ意思も危うくなってきたろう!!このまま甚振り殺しくれるわ!!!』
どうやら私の声がかき消されたらしい。あーうっさいなー……。こちとら考え事してんだよ、耳元で騒がないで欲しいねぇ。それともなんだ。
「意志が力のこの世界で、一見ボロボロの私がイコールで死にかけとでもぉ??」
そう、ここは意志が全ての精神世界だ。それなら、あいつが自分の攻撃がもっと威力があると思い込んで、実際にそうなっているように。
「私でも、想像したことを実現できるんでしょ?ここならさ」
『っ……?な、なんだ、どうなって--』
青龍が驚愕したのが理解できる。自分ができるのに相手ができないとでも思ってたの?ここは、そういう世界なんでしょうが。
だから、こんなことができる。
私の潰れた両足が元に戻った。時間でも戻すかのように、それはもう自然に。自己再生を使ったわけでもないのに、傷はもう跡形もない。
私の血まみれの全身が元通りになった。血は、逆再生でもするかのように傷口へと引っ込んでいった。
『な……っ、なっ、なぜだ!どうなっている!?想像力なんだぞ!この世界で実現するために必要な集中がどれほどのものかわかっているのか!???!ましてや、傷の逆再生など……『自己再生』を強化したとてそのレベルには至らない!!どうなっている……!貴様程度の意志が、我でも及ばないほどに強靭とでも!??』
「知らないよばーか。できるんだからいいだろうが。私ができて、あんたができない。そんだけだよ」
立ち上がる。先程まで勢いづいていたはずの青龍が僅かに後ずさった。その行動が、無意識なんだろうけど勝敗の結果を表しているじゃんか。
心臓が鳴る。死んでいるはずの私の体で、鈍ったはずの冷たい血に活力が注がれる。そうだよ……この感じだよ、あの時も。白虎に襲われ、まだ1人で、何もできなかった私が極限状態に陥った時にも。
錆びた機械にオイルを刺すように。歯車が動き出す、私の止まったはずの血が身体を巡りだす。いいね、息を吹き返した感じだ、テンションが自然と上がっていく。
『な、何がどうなっている……』
身体にリミッターがかかるのはなんでだと思う?過剰な力は諸刃の剣、私自身をも傷つけるから。
怒ると力が増すのはなぜだと思う?怒りは相手への殺意、己が生きるため、相手を殺せと限界を超えて実力を発揮するから。
じゃぁ、自分でリミッターを外せたらどうだろう?そして、思うだけで傷がなくなるのなら、どうだろう?
『っ、はや--!?』
「いいねェ!」
身体が考える通りに動く、効率的に肉が動くのを感じる。当然だ。私は今、意志でなんとでもできる状況下という条件付きではあるが、いつもの死んだ体ではない生ある者の動きをしている。
それも、限界を超えたそれの、ね。痛覚だけ最初からあったのは理解できないけど、痛みすぎてもう感覚が麻痺しちゃった。だからそれも、大丈夫。
「ガァアアアアァァ!!!?」
いつもより早く、肉体が変化する!いつも通りの動きを、より早く、早くっ!!刀の変成速度は充分だっ!お陰で私の全力疾走で青龍に辿り着く前に攻撃態勢が完成した……!
「ガッッ、グゥガァアアアアァァ!!」
「いつもより多めに回っておりまァす!!」
旋回ィ!思う通りに体が動くこの世界でなら、私の刀も受け流すだけには留まらない!!
龍が吠える。やっぱり痛いもんは痛いよね、私も痛かった。でもね、こんなものはもう慣れっこなんだよ。痛みを主張しちゃあ弱ってますって言ってるようなもんでしょう?!
『っ、小癪なぁっ!』
「癪に触るのはあんたのほうだよ」
易々と刃が通る。背を走りながら切り刻み、回りながら龍の体全体を傷つける。ここで止まりはしない、行動は終わらせない!!
「普段はできない。でも、今、ここだから!!私がついぞ至らなかった絶技が使えるんだよ!!」
『これ以上……っ、斬らせは、しな、いぃッッッ--!?』
「残念、飛び道具ありなんだ」
青龍の背中から飛び立った。必然私は空中にいて、身動きが取れない。そんな私に迫る青龍渾身の反撃。
避けられない?ならば相手を怯ませちゃおう。
「BANG!」
『ご、が……!?』
刀は自信ないけど、銃なら何故かうまく撃てるのさ。見事に目にヒットした銃弾が、数秒間の隙を作る。だから、これで決め手を打てる。これで勝負を終わらせる。
「対強敵用、風水流刀術、別名『風水刀然』!!初歩の初歩にして、奥義!『一切』!!!」
刀は大上段に。かつて見た誰かの姿を模倣する。イメージしろ。ここならそれを実現できる!
「私をここに招いたのは失策だったんじゃない?」
噴き上がる赤い血。その源は……頭のない首。
ごとりと何かが落ちる音がする。
それがこの世界の最後の音だった。
( ):一つ言っておくなら、意志で自由に動けるとは言え、不死になるだの余りにもぶっ飛んだことは不可能です。
(裏):リミッターがあるってことなのか。
( ):そういうことです。因みに、この精神世界は『代行権限』によるもの、そしてその名前通りこちらは青龍の進化に関わっている例の主人の権能を借り受けているものです。本物はこちらとは比になりません。
(裏):これすら、かー……問答無用で自分のフィールドに引き摺り込むこれが?
( ):えぇ、青龍が後半押し切られているようですが、本来確実に自分有利の環境に引き込めるというのは反則級の能力と言えるでしょう。ですが、神格持ち同士の戦闘は、これがスタートラインであるのです。
(裏):うわー……




