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No.53拝啓、今尚淀み行く貴方へ 其の八

⭐︎






洞窟内で、突っ立ったまま進化を開始したオールはそのままパタンと倒れて意識を失う。その体が進化特有のほのかな光に包まれながら変化していくのをベフェマは静かに、けれどどこか嬉しそうに眺めていた。


ベフェマは毛皮の布団をオールにそっとかけると、一匹洞窟の外に出る。上を見れば、いつも通りだが、どこか不穏さを感じさせる夜を表す仄暗い赤の空。そして、本来あるべき血のような月を覆い隠している巨大な影。



『……』



影を覆う巨大な雲は、その時突然割れた。


ベフェマから見て正面から縦に真っ二つに割れていく球状の雲。雲は少し経つとそのまま風に流され消えていってしまった。


ベフェマは感じていた。あの城から感じる黒い視線を。それは彼女が前世の時から感じていたもの。近くから、けれど決して誰からも送られているかわからないように隠れて送られてきたそれは、名を--



憎悪と言う。



ベフェマは普通の学生だった。選択というものを経験していない彼女ではあったが、それでも優秀な彼女は人付き合いも良く、一般的にみて十分いい学生生活を送ることができていたのだろう。


だが、だからこそそれはある。順風満帆な生活を、許せない劣情を持つ存在がどの世界にも存在する。彼女は、陰で感じるその感情をずっと受けながら生きていた。表には出さない。けれど、いつもかけられていたその悪意は、彼女を敵に対して、より明確にいえば、敵意に類する感情について鋭敏にさせた。


幸か不幸か、その感覚は、この箱庭において役立つものとなった。だから彼女は彼女のパートナーのためにもその技術をフル活用する。それでも、受けてていい思いをしない物なのは変わらないのだ。



『……オールさんから事情は聞いてるの。きっと、辛い事情があったのね。それを踏まえて、宣言させてもらうーの』





『--わたしたちのために、死んでください』



風が凪いだ。大地が揺れた。木がさざめいて、誰かの意思が固まった。


そして、上から重圧が降ってきた。ベフェマは、それを受けて……。




それでも、笑った。不敵に、そんな感情などとっくの昔に慣れたのだと、いつもは見せない鋭い目で。







⭐︎







……おいーっす。ねむ--



パンッッッ!!



「ほぁあ!??」



何!?なんで!?目の前で急に尾を地面に叩きつけないで!眠い頭に大きな音は辛いんです!



『寝ぼけてる時間はないーのー。早くいかないとせっかくのチャンスが無くなっちゃうーのー』


「んぅ?チャァンスゥ??」


『見ればわかるーの』



そう言って、ベフェマが私を引きずっていった先には……いやまず引きずるなし。


まぁ、なんだ。剥き出しの城があった。いやね?前々からこの空中要塞無くならないなぁって思いましたよ?なんか要注意対象になっちゃったかなぁって思いましたよ?でもね。


なんで空中城塞が丸々見え見えの状態で、しかもこんな近くにあるのかな?


今現在のお城は多分、私たちがいる洞窟、その外の森林にある十メートル級超巨大樹のちょっと上にあった。いや本当なんでそんなとこあんの?なに、私があんまりにも熟睡するからほっこりして近くで見ようとか思った訳?いやぁ、照れるねぇ。


まぁ絶対そんなことないだろうなぁとは思うけどね。だってこのプレッシャーでどう考えてもほっこりしてる訳ないでしょ。



『なんかさっきから急にプレッシャーを出し始めてここまで急接近してきたーの。多分、オールさんの進化がトリガーじゃないのかなってタイミング的に思うーの』



あぁ……まぁ、あり得なくはない、か?観察してるなら私が進化するのを良しとはしないだろうし。でもなんでじゃあ尖兵を送ってこないんだろう。意図が読めないなぁ……。



『オールさん!考えてる暇はないーの!とりあえずそういうのはお城の中で考えるべきなーの、ほら早く!』



む。そういえばそうか。この調子ならベフェマも鳥に同調する必要はないだろうし……あ、じゃあ何に同調してもらおうか?考えてなかった……。



『わたしが何に『強制同調』を使うべき考えてるなのね?もう候補は確保してあるから、先に行っててなーの。今ならきっと木に登ればそのまま行けるはずなーの』


「……そっか。じゃあ登ったすぐのところで待ってるよ。早く来るんだよ?」



もちろんなーの!と、ふんすふんすするベフェマを一瞥して、私は先に木へ登った。



「あっちょっとやることあるから待って」


『ここで止まる!?普通!』






⬜︎








……思ったより登りずらいね。私は子供時代にだって登ったことないから当然か。


苦労して登った先には、城の地面が突き出た崖のようにあった。うんうん、これなら楽に掴めそうだね。……ベフェマが登れるかが問題だけど。まぁあんなに豪語していたんだし、多分大丈夫だと思うけど。



「よいしょっと……」



さて……うん、とても荘厳だね。どこか古さを感じさせながらも、その金混じりの白の外壁は綺麗に保たれたまま。教会にも似てるかな?どうやら尖塔とかは中央の一つだけみたいだし。


正面の大きな扉。開いていないけど、開けられるかな?



「……これ、触れたら開くタイプか」



扉に触れた瞬間、ギギーっと音を立てて扉が内側に向けて開いていく。中は……これまた教会みたいだね。礼拝堂っぽいな。


中にある扉は左右に通じる扉と、奥の扉。……、多分、左右から行ったほうがいいかな。奥のはどう考えてもラスボスに通じる奴だろうし。まぁ、残るどっちにいくかにせよ、あんまり扉の奥の規模が大きいようならベフェマの到着を待つけどね。どっちかっていうと下見みたいなものかなぁ。



「じゃあ、こういう時は左からかな」



左の扉。竜巻のような紋様が描かれている古びた銅のそれは、やはり触れれば開く便利なタイプのようだ。開いた扉の奥は、どうやら図書館に近いようだ。いや、書斎の方が近いかな?


視界いっぱいに広がる本の数々と、その奥にポツンと置かれている机と椅子。私にはちょっと大きいけど、まぁベフェマを待つにはちょうどいいかな。



「……もう今更だろうけど、やっぱり全部日本語なんだね」



どうせ見るなら、青龍の情報に関する本がいいかな。区分けがされてないから、ちょっとどれがどれだかわからないけど。



「これか、な……?」

( ):はい、ベフェマさんがなんで気配に目敏いのか、というお話です。

(裏):はいで済ませていい話じゃねーだろじゅーぶん重いじゃねぇか。

( ):まぁ、オールの方も結構重いので。

(裏):鬱展開やめろ。

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