No.51拝啓、今尚淀み行く貴方へ 其の六
( ):一つあたりの文章了どれくらいにすればいいのかわからない問題。
(裏):フェルマーの最終定理より難しいじゃねーか……!
( ):正直フェルマーの最終定理がどれくらい難しいかわかってないんだよなぁ……すごく難しいと聞いただけ。
私が飲料さんの本性に気付いたと勘付いたか、もはや隠す気もない反響する声が霧全体に広がる。
早急に対策を練らなければ。けれど、私が空気である飲料さんに対抗できる攻撃手段は……はっきり言って持ち合わせていない。
私の持ち武器は銃と刀による遠近共に攻防一体を誇る物理攻撃。加えて肉体変成による搦手を含む特殊攻撃。どちらも完全な物理攻撃。まぁ、なんだ。これでわかったかもしれないけど、今の私では打つ手がない。魔法でも使えれば話は別だったけど、生憎と私は魔力に嫌われていらしいので、そんなものは使えないのである。
『アァッハッハハハ!!』
ぐぅ……、私の心情を読み取れんのか、意外に頭いいのか?
やたらテンションが高いのか、霧の中から現れる水の鞭を容赦なくこちらへ振りかざす飲料さんへの反撃が思いつかない。必死に頭を回す。回して回して、オーバーヒートしかけているのにそれでもまだ足りない。くっそ、焦りが止まらない……!
どうする??私の持ち札はどう活かせる?攻撃を届かせるには純粋な物理攻撃では不可能。ならばやっぱり肉体変成の使用が不可欠。だが、この範囲、この濃度の霧だ。私の能力では範囲が足りない。
「っ、が、は??!」
しくじった!!最悪だ、マジで最悪だ!!!
考え事をし続けた結果か。肺から空気が抜ける。別に私は生物として必要な生命活動は必須ではない、が。前世の習慣で息をし続けている私には充分な量の酸素が入っていて。
「っくぅ……!」
目眩がする。よくない感じの目眩だ。見れば、胸を貫かれていた。……あれ。
これ、死ぬ?
⭐︎
精霊種。
それは実体なき肉体を持つ希少種。彼らが持つ最も特徴的な特性は、その自然現象と化した肉体による物理的干渉の無効化。
自然現象と一体化する彼らは、それが故にこの多岐に渡り存在する色々な環境の中で偏在する。いや、していた。
昔は精霊というのは、今ほど見かけないものではなかったのだ。それが今のようになったのは、とある勢力による仕業。その勢力による圧倒的な力によって、精霊種というものは、現在希少種となっていた。
そして、希少種となったが故にあまり見かけられなくなった精霊種独自の性質。
それは、自身の肉体を変形させるというもの。正確には変形はしていないのだが、自然現象と一体化している存在が故に、もともとの身体が自由自在に変わるのだ。
例えば、夢幻隠霊。幻、あるいは蜃気楼を体とするその種族はその気体のような身体を持ってして全貌を把握できないような自身の体内へ敵を誘い、そして害するのだ。
あるいはそれは、どこかの死霊が行うように、魂へ干渉する絶技に通じるように思えるかもしれない。
しかし、それは違うのだ。
最初から動かすことが前提となっている他の精霊と、個体として形が定められ、可動域が設定されている肉体の限界を踏み越えて当然のように変形させるのとでは、似ているようで根本的に違うのだ。
言うなれば、泉の精霊の霧の如き動きが関節を動かすようなものだとすると、死霊のそれは間接を外して360度回転を始めるようなものなのである。
同じ精霊でも、違いというものはある。そして、最早自我すら失った精霊として落ちぶれた……言うなれば邪妖精と、精霊種なのにも関わらず圧倒的な異形でありイレギュラーの死霊とでは……そもそもが話、格が違ったのである。
⭐︎
目の前に映る瀕死の体。死んでいるから静かに流れ落ちる血液。零れ落ちているのは私の命。このまま行動しなければもうあと数十秒で私は終わる。わ、たし……っ。
いやだ、死にたくない。まだ……
「ま、だぁ!!!」
体の体積はもう全然ない。即ち、体力ももう心もとない。もうHPは一桁だと思う。こんなんでは『自己再生』を使うこともままならない。が、知らん。
怖い。死ぬのが怖い。
痛い。攻撃を受ける度に増える空虚感が、無へと近づく焦燥が痛い。
何よりも。
私には、やらなければいけないことがある。まだ、死ぬ時ではないのである。
義務がある。願いがある。そして、憎悪がある。
『!?』
ねぇ飲料さん。今、私の体はどう見えてる?そうだよね、なにも見えないよね。
私は今、ほぼ実体を持っていない。今あるのは、いつかの私が行った分子レベルの肉体変成。
いつかの誰かが理解しろと言っていた。己の内を、原理を掌握しろと言っていた。
あぁ、うん。正直もうどうでもいい。
もう考えるのはやめだ。元々詳細なことをアドリブで考えるなんて無理なんだ。私はあーだこーだ考えて、最後にゃ結局適当に動くんだよ。ただ、できる。今はそれでいい。今私ができているこれのやり方やコツは後の私が考える。これが自分の能力を理解するってことかな?
この霧全体に今私は存在している。いつかの私は白虎に対してただ存在を分解することでやり過ごした。今は違う。私は今、自分の意思でこの希薄な体を操れる。
そして、霧全体に私の影響を及ぼせるということは、もう次の行動は確実だな。いくら全体に広がる分特定の場所だけの部分は希薄だとしても、変成の効果を得られるんだから十分だ。
『……ァ?』
何か違和感を感じたようだね。まぁ突然急に私が消えたらそうなるか。それじゃあ、今度こそ、終わりだね。
『ガ、ァ……!?』
最低限私が死なないだけの肉体を残して他は全て水を吸収する物質へと変成。急速に領域内の水を吸収する。
『ァ、ァァッ……!!』
霧が晴れていく。目の前には、焦りを見せる飲料さんが這いつくばった状態でいる。これで絶体絶命だね、私も君も。でも、どっちが死にかけって……そりゃあ君でしょう?
『ガッ!』
「これが、最後」
呆気ないものだね。拡散していた体を再び収束して元の形をスケールを小さくして再構築する。……うん?あぁ、どうやらこれだけ肉体の密度を薄くして肉体を変成すると、戻す時に時間がかかるみたいだ。まぁ、今は相手が動ける状態じゃないからいいけど、咄嗟のやつとかだったら隙が大きいね、気をつけないと。
さて、あれだけ私を追い詰めた君も、もう立場逆転。といっても、これは薄氷の勝利だ。私は今だって死にかけだ。だからさっさと終わらせる。
足をのっぺりと平く広げて飲料さんにとどめをさす。もちろん足は特注だ。呻き声すらせずにその本体は押し潰されて、この世界から消え去った。同時に霧が完全に晴れる。
『条件を満たしました。種族レベルが54からMAXへと上昇しました。』
晴れた森で干上がった泉が目を引く。そういえば、あの泉の底にあった何かを確認するためにここまで来たんだった。はぁ、疲れたな……。
あー、そっか、レベルも上限きたか。当初の目的も達成、と。飲料さんに一応ありがとうと言っておこうか。
干上がった泉。やはりその底には何かが刻まれている。そして……これも、日本語、か。やっぱり何か作為的なものがあるね。いやまぁここが神の箱庭ならそれもこのサービスもあってくれてもいいのかもしれないけど……なんか違和感を覚えるんだ。
ひとまず、内容を読み込むのが先か。えぇと、どれどれ。
---
ココウの光は龍には通らない。それでもココウの光は龍を清め浄化することだろう。だってそれは懐古の光。だってそれは思い出の光だから。
---
簡素な文。そして、思い当たる部分があまりないことに少し落胆してしまった。内容としては多分青龍に関する弱点に関するものだろう。でも、ココウの光ってなんだ?通じないのに浄化するって矛盾してない??
懐古だから……なんか記憶に関する光ってこと??じゃあ比喩表現かな。ってことは精神面での光ってことかな。あー、それならわかるかも。
物理では効かないけど、精神面では通じる……という解釈でいいのだろうか。でも、ココウの光がなんなのかわからない以上、取らぬ狸の皮算用ってところかな。
……。よし、心にメモはした。後は、進化だけだな。
さて、戻ろうか。
( ):ココウの光。言っておくと孤高の光とかではありません。
( ):もう一つ言っておくと、泉の精霊も、ガチャの大樹も、ある観点から、同じカテゴリーに分類されています。
(裏):まぁ、要はヒントだな。多少ヒント以外の理由もあるけど。




