No.47拝啓、今尚淀み行く貴方へ 其のニ
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「あうあうあー」
『いい加減正気に戻ってなーの』
わかった、わかったからその尾でべしべし叩くのやめて。具体的には顔が痛い。
さて、場所は変わって私たちが戻ってきたのはそろそろ見慣れてきた拠点。新鮮さを出すためにも一度爆破するべきではと思うが、それはこの際置いておいて先の話をしよう。ここに戻るまで私があらぬ方向へ走り出したからただでさえ迷子だったのがもうどこにどう行くのかわからなくなりかけたがそれは割愛する。
『全くもう……それじゃあ、わたしは進化始めていいなーの?いつも通り、といってもまだ一回だけだけど多分意識はなくなるなーの。だからその番をお願いするーの』
まぁ、進化となったらそうだよねぇ。こういうところは複数いて良かったと思えるよね。身の安全が格段に違う。さてさて……それじゃあ私が番をしている間は何をしようか……大体三十分くらいはかかるからなぁ。
『よし、じゃあ進化するーの!』
おっ、ついに始まったか。ふっと力が抜けたベフェマの体がそのまま下に敷いた怪鳥の羽毛に横たわる。うん、この様子だとやっぱり置いておいた方が良かったみたい。難点はあれあんまり集められなかったから私が寝る分には不十分なんだよなぁ。はぁ……私のア⚪︎ホテル製造の夢が……。
「……」
進化の間って言うほど変化があったりしないんだよなぁ。強いて言えばちょっとずつ大きくなってるくらい?
「……あっ」
そうだ。一つ思い出したことがある。この際だしそれにちなんで色々考察とかするかな。柄じゃないけどさ、どっかで自分を理解することが大事だって聞いたから。それに私の内面はあんまり晒すつもりないからね、そういうのに触れないようどこまで話していいのか線引きしないとだし。まぁ、ベフェマなら話すことはあるかもだけど。
「ふぅぅぅううぅぅ……」
ゆっくりと息を吐く。思考を頑張って集中しよう。常に2人行動だときっとこんな機会はそうないから。
さて、何から考えたものか。まぁ、今考えるべきはこれからどうするべきか、それと個人的に気になっている何かありげなこの世界。
さて、まずはこれからの予定についてだね。私はまだ進化できない、けどもうレベル的にはすぐだ。ベフェマが進化を終えたら、少しぼっちで狩りにでも行こうかな。
勿論、ベフェマは単体での攻撃力とかは低いから少し対策するべきだと思うけど、なんだかんだでベフェマもだいぶ強い。きっと進化の疲労とかが落ちた万全の状態なら留守番してもらっても大丈夫でしょう。
「ふあぁ……」
死んだ体で眠気を感じるのもおかしいかもしれないけど、精神的なものだ。仕方ないよね。まぁ、これからボッチ狩り行くんだしちょっと気を引き締めないとね。実を言うとちょっと楽しみにしてたりするからね。私はベフェマと一緒に行動するのも別に好きだけど、それと同等かそれ以上一匹狼じみた行動をとりたがるきらいがある。
「進化までどれくらいかかるかなぁ……」
まぁ、勘だけど、あんだけの強敵を倒したからもうすぐそこまでとは思うんだけどさ。とにかく、私がぼっち行動して進化まで漕ぎ着けたら後は……
『すぴー』
「……ふっ」
雰囲気を壊してくれるなぁ。もちろんいい意味でだけどね、せっかく意気込んでたのに霧散しちゃったじゃんもう……まぁ、その方が私らしいかな、私はそんな深いこと考えてシリアスに動くようなやつじゃないから……まぁいざって時はわからないけど。
……さて、もう一つの気になる事項、だけど、やっぱりなんというか既に仮説が浮かんでいる。
それもとても救われないものがね。
ーーあの時の青龍の、といっても眷属を介したものだけど、だからこそ際立つあの黒く澱んだ目。思えば私もあっちでは絶対に気がついてなかっただろうことに当たり前のように把握できるな、それも知りたくないようなものばかり。困ったものだね。
はぁ、考えるだけで精神が削られるような背景を持つ相手に立ち回らないといけないのか。ついさっき思ったことだけど本当に困ったものだね。
え?勿体ぶってないで仮説をさっさと言え?……聞いてもあんまいい気分にはならないだろうけど、そんなに言うなら、まぁ。
では、勘だけど、この箱庭にある時点で明らかにここと関係あるだろう手記を取り出します。そう、なんかヤバげなガチャで引いたあの手記です。
さて、手記を開いたらまた回想が入るのでそれは開かないでおいて、と。
この手記に出てくるルーという神と、その部下は確か生贄にされたんだよね、それも結構エグそうな所に。生贄、ここと関係のある、中ボス、ラスボス、龍の澱んだ目、この箱庭におけるゲームルール。
さて、勘のいいガキ諸君はもうわかってるんじゃないかな?この手記に出てくるルーという存在の今の状況について。
私が考えているのは簡単なことだ。ルーはラスボスといういずれ倒されることが確定の立場に据えられている、そしてその部下であった四匹の白虎や青龍は中ボスとして同じく神々の娯楽の駒にされた、そんな少なくとも聞いていて楽しくはならない仮説だ。
「面白くないな、本当にぃ……」
少なくとも部下思いではあった存在がそんな末路を辿っていて、これから私たちはその操り人形になっている一匹を殺さなければいけないというのは。
別に、そいつらと対峙する時に動きに躊躇いができるほど哀れに思ってる訳じゃない。白虎にも青龍にもどやされてきたのだ。多少見る目が優しくはなるけど、それだけ。
言うなれば、目の前で人を轢き殺した車に乗る犯人に、実は殺したのにはどうしようもない理由があったようなものだ。確かに可哀想だが、一歩間違えれば私は殺されていたのだ、戦闘では心置きなく青龍を叩けるだろう。
私が言っているのはそこじゃない。私が苛立っているのはそこではない。私は、私が倒されることが前提の中ボスに、神の想定通りに真っ向から戦って、駒として踊らないといけないのが面白くない。
だから、できる限り足掻いてやろう。優越者を不快にさせるような、それでいて私たちに一番被害が少ないやり方で。
ねぇ、手記を書いたどこかの誰かさん、あなたも神なんでしょう?どこかでこの世界を見守っているのかな?そんな貴方に朗報だ。私が貴方の罪を少し減らしてあげよう。私が、ルーさん?と、それに連なる四神を覚えてあげよう、そしてあいつらの最期に少し華を添えてあげよう。
きっと、神々は苛立つだろうね、罰で与えた実質の死刑に、爽やかな顔で逝かれたら。だから、やる。無論、死にそうなら生き残ることが最優先だ。でも、できるだけやってやる。何度も言うが、生きているだけでは意味などない。私は、私が笑えるように生きてみせる。
「--そのために、ちょいと神を犠牲にしよう」
有言実行ってね。




