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No.27vs迷宮


「チッ!ベフェマ!一旦引くよ!」



『言われなくても!もちろんなーの!』



即座に入ってきた門から外へと出る。見渡す限りの荒野で、魔物がちらほらみれるが構っている暇はない。急いで全力疾走する。





結構走ってきて、ふと後ろを振り返った。



振り返って、みたことを後悔した。



そこにあったのは地獄絵図。ボス部屋へと続く巨大な門いっぱいから黒い液体と魔物が溢れ出ている。出てきた魔物は周りの魔物へと走り、ある程度距離が近づくとなぜか近づかれた魔物も溢れ出た魔物と同じように別の魔物の元へと走っていく。



それだけでも結構みていられない光景なのに、更にまずいと思ったのは色々な方向へと統率感すら感じる動きで向かう魔物たちが共食いをしながら走っていることだ。彼ら同士の関係性がわからない。



「これは……やばい、な」



『のっ。原因不明、状況不明。何がどうなってるのか理解できないーの』



だよねぇ。でもこれ、多分人為的なものだよね?多分だけどさ。だってこの10階層に元々いた魔物たちが門から出てきた魔物に近づいた途端、そいつらと同じように一気に周りへ、しかも統率感を匂わせる動きで走り出した。



この時点でまともな現象ではない。半ば勘だけどこの現象の裏には黒幕(フィクサー)がいる。



さらに共食いのこれ。別にこれ単体ではおかしいわけではないけど、この状況ではこれは異常と言えるはずだ。先の現象を踏まえるとこれにもなんらかの意図があるように思えてならない。



「……ひとまず、ここはどうしようもない、か。やっぱり拠点への帰還が第一だね。同時にあの共食いの状況変化を定期的に観測するとしよう。今は情報収集しておくべきだ」







⬜︎






あれから、1日程度は経っただろうか。ひとまず、門からの魔物の洪水はひと段落した。今はもうあそこから魔物は出てきていない。



それから、あの近づかれるとまるで支配されたかのように動きが変わる現象。あれは結構近づかないと影響はないようだ。せいぜいが直径2メートル位だろう。流石に自分で試すわけにはいかなかったので、捕獲した魔物を放り込んで検証したが。



そして、この検証の結果として、私たちはこの現象は完全に誰かが操っているものだと確信した。何故か?それは、捕獲した魔物を仮称支配領域に放り込んだ時、変化を観測するために私が分析を行った結果だ。



ーー結論から言うと、放り込んだ魔物には称号『死兵』が追加されていた。



そして、その『死兵』の称号内容をなんとか引き出した結果がこれだ。



『称号:死兵。兵士系列の称号の一種。【()()()】が保有する『称号授与』によって得られるもの。自分も死んで相手も殺すことから捨て駒などに使われる』



もう確定だ。この地獄絵図を描いた存在は確かにいる。だが、そうだとしてもその存在がどこにいるのか全くわからないし、そもそも状況が少し理解できてもその存在の目的がなんなのかすらわかっていない。



とはいえ、今現在から読み取れる事実もありはするわけで。魔物が溢れ出したあの時、魔物たちは共食いをしていた。そしてこれは仮称【指揮官】による命令だと推察することができる。



では、魔物たちに共食いをさせて仮称【指揮官】が得るであろう利益とは何か?魔物たちを巻き込み、共食いをさせながら階層を上っていく。ここから私は一つ閃いたことがある。



……蠱毒。



虫たち同士で殺し合い、最後まで残ったのならその虫こそが最も強い毒を持つ。そんな意味を表す言葉。私には、一度そう考えるとそうとしか当てはめることができなくなっていた。



強い魔物を作ってボス部屋に配置する。成る程、これなら迷宮のパターンにもよるが、魔物が増えすぎることもないし、ボス候補も作れて一石二鳥。ここの迷宮で魔物が増えすぎる、いわばスタンピードが起こるとは思えないが、私が今推測した通りならさぞ素晴らしいシステムであろう。



ーーそれが、私たちに関係ないならば、ね。



ほんっっっとうに、やってくれるものだ。ニュースで見る事故への関心と、実際に巻き込まれた事故への関心との違いと似たようなものだろう。何せこれに関しては自分が対処しないといけないのだから。


そう、私たち自身でなんとかしないといけないのだ。肝心な時に皆んなは誰も助けてはくれない。



ーー他人の助けなど気まぐれなものでしかない。



だから他人を真の意味で信じることはない。



ーー必要なのは自分たちのみ。他者など不要。



裏切られて肉体的にも、精神的にも傷を負うくらいなら、私は他人に完全に背中は預けない。裏切られて肉体的のみならず心にまで傷を負うならば、その方が……


はっと我に帰ったらベフェマがこちらを心配げにみていた。



『オールさん、大丈夫なーの?顔色が悪いーの』



どうやら私は心配されてしまったらしい。世話をかけてしまったかな。そもそも対策を考えていたはずがなぜこんな話になったのか。……私はこんなことを考えるような性質(たち)ではないと言うのに。記憶する限りでもこんなことを考えるような何かも知らない。


……やっぱり私の記憶はいずれ精査するべきだろう。だが、今はひとまず眼前の問題を対処しなければ。



「……問題ないよ。少し黒歴史を思い出してしまってね。内心で苦笑いしていたところなんだ」



こう言っておけば大丈夫だろう。



『黒歴史という割には、少し悲しそうな顔だったーの。……わたしでは、話す相手に足りえないーの?』



意外と、……本当に、意外と見ているんだなぁ。



「話すようなことでもない、それだけさ。軽いものだよ。何せ私もよく覚えていない。大丈夫、私は君を信頼している」


『そう……それなら、いいなーの』


「よし!それじゃあさっさと進むためにもこの状況を打破しないとね!対策会議の時間だよ」


『あいさー、なーの』






⬜︎






対策を立ててから2日くらいは経っただろう。魔物が溢れてからはもう3日だ。この間、私たちは進むことなく、かつ戻ることなく10階層の拠点に待機し続けた。



端的に言えば、これは仮称【指揮官】を釣り出すためだ。私たちは、推測と事実から、魔物が仮称支配領域に入ると支配されたかのような現象からあれだけ大規模で強力な現象は遠くから行うことはできない、少なくともボス部屋の下五階層までのどこかに仮称【指揮官】はいると踏んだ。



そして、支配された魔物たちは色々な方向へ向かいながらも最終的に上の階層へと向かっている。ならば、仮称支配領域を維持するためにはいずれ仮称【指揮官】もこの場へ来る必要がある。



そこまで推測して、結果私たちは今ここにいる、という訳である。



2日も経って、十階層にいた魔物はほとんどがいなくなっている。これのおかげで元々寂しい荒野だったが、今はもはや何もないただっぴろい地面が広がっている。



そして、それからどれくらい経ったかわからないくらい後。



『コォォォォ……』



今、私たちが隠れている荒野の穴の上の近くには、何やら得体の知れないものがいる。



淡い青に輝く水晶でできた二メートルはあるかどうかという正三角錐。その周囲には光の帯が伸び、色々な物を掴んでいる。



……この魔物が少なくなった荒野に突如現れた不自然な存在。さらにどこか人工物めいたこの場に一般的にいる生物的な魔物たちとは異質なそれは、明らかに只者ではない。十中八九私たちが狙っている【指揮官】何某だろう。



……正直に言えば、ここからあいつの目を盗んで奥の階層へ向かうことはできなくはないだろう。隠蔽系統のスキルを持つ魔物であるベフェマに霊体変換を使える私。ここで逃げる方が生き残れる可能性は高いかもしれない。


まぁ、こんなふうに考えている時点でそれはないのだが。第一、第二第三のこいつが現れないとは限らないし、本当に逃げられるのかもわからない。何せ特殊な相手だからね。


だが、それよりも私のこの感情が大きいのだろう。よくわからない地獄絵図へと巻き込まされた恨み、生存を脅かす相手への敵意、何よりも、私が白虎に惨敗したあの時、私は次はあいつをぶちのめすと決めたんだ。



「だから、こんな鉱物程度に逃げてやることはしない」



さぁ、あの敗北から一歩進む時が来た。もう戻らない。戻らせない。私は、私が生きるためにその生存を脅かすものを許しはしない。不倶戴天にも近いこの感情を持って緋血猩々よりも圧倒的に強いだろうこの存在に勝ってみせる。



「その神々しい光を完膚なきまでに曇らせてやるわ」



さぁ、生存競争の始まりだ。

( ):はい。

(裏):はいじゃないが?

( ):えー……というわけで、ある意味では迷宮自身との対決開始です。まぁあくまで迷宮が作り出した存在の中で一番強いというだけなので、最終階層では……まぁ、ラスボスは勝ってるかな?実質この迷宮での序列第二位との戦闘ということです。

(裏):こんな序盤でなんちゅうやばいやつと戦ってるんだ……。

( ):まぁ、敵が弱いやつから順番で出てくるはずがないので。

(裏):捻くれていらっしゃる……。

( ):とはいえ、手段を選ばなければ、2人なら勝てますよ。手段を選ばなければ、ね。

(裏):うーわ……。

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