No.26まっくろどくろ
「さーて、準備も終わったしボス戦行きますかー!」
『清々しいまでにさっきの痴態を無かったことにしてるなーの……』
いやーなんのことを言っているのか全くわからないな?私はこんなにも自然体じゃないか!?
「(゜o゜;;」
『わたしはオールさんの顔をどう表現するべきなーの……?』
ふほほほほ……よし、聞かなかったことにしよう。
「はーい開門開門ー」
『あっちょわたしまだ心の準備……!?』
獄門疆、開門!いや違うけど。
門を開いた先。そこは簡単に言えばアリジゴクの巣のような場所だった。
ろうとの液体をろ過する部分のように真ん中に向けて深くなっている場所はその中央でまさしくろうとの様に穴が空いており、その先を見通すことはできそうにない。
そんなボス部屋というには少し変な場所に、訝しみつつも足を一歩踏み入れた瞬間。
ーー私たちは宙を舞っていた。
咄嗟に下を確認する。幸いそこまで高い位置にはいなかったようで、高さはマンションの3階程度の高さに落ち着いている。
だが、問題なのはそこではない。重力に引かれて落ちながら下を確認すると、そこには既に渦があった。
そう、渦だ。黒く濁った液体で漏斗の中心へと渦を巻いている。そして、それにより液体はどんどんと穴に吸い込まれていき……完全に黒い液体が全て吸い込まれた瞬間。突然、何かが穴から飛び出した。
黒くてよくわからない何かは一瞬で私たちよりも高い場所へまで飛び上がり、そこで一度止まったことでようやくそれが何かを確かめることができた。
それは、黒く硬質な輝きを帯びていた。それは、普通に考えれば生きているはずがないものであった。それは……
この世界にはいないはずの人の髑髏であった。
そこまで理解したが否や、黒髑髏がその眼窪から、その口から、開いている穴から黒い液体を噴射し始めた。
しかし、それらは私たちには降りかからない。なぜならそれは黒髑髏へそのまま纏わりつき、いわばスライムのようになったから。
そこまでしてやっと、黒髑髏は地面にまで降りてきた。先に地上まで降りていた私たちは警戒して構えている中、黒い液体の中でふわふわと揺れ動くそれは随分と余裕がありそうだ。
ーーー
種族:ラクエア・スライム LvMAX/70
状態:通常 ランク:B -
HP:1 MP:101
ATK:46 VIT:333 AGI:10 INT:78 MND:290 DEX:23
技能:『外骨格Lv6』『水魔法Lv3』『縛濘滂沱LvMAX』『築魔術Lv2』『堅牢Lv1』『麻痺の魔眼Lv3』
『護法Lv7』
ーーー
……うん、特化しすぎでは?いやいやいや硬すぎでしょ!?んでもって極端すぎでしょ!
まずHP!おかしい、1はおかしい!君ちょっと高いところから落ちたら死ぬんじゃないの?まぁ、外骨格とかいうスキルあったしそこら辺は解決済みなんだろうけどさ。
それから次、これはあんま今考えるべきじゃないけど魔法と魔術は何が違うの?それと築ってなんの魔術?建築系ってこと?建造物とか作るのか?
そして一番ヤバいやつ。うん、硬すぎでは?なんだよVIT333って。攻撃通す気あるの?馬鹿では?
っはーーー、そりゃね?10階層のボスだからね?強いのはわかるよ、うん。
でもこれはあんまりじゃないかなぁ!?そもそも攻撃通せなけりゃ意味がない!ベフェマは共鳴が通じなかったら暗殺ビルドのためボス戦で、しかもこの相手は相性が悪い。だから必然的に私がなんとかしないいけなくなる。
『……共鳴通じなかったーの!ちょっと頃合いを見て不意打ちするけどあんまり期待しないで欲しいの』
「オーケー、あいつアホほど硬いから貫通第一でやってみて。私は色々試してみる」
一旦頭の上にいたベフェマとは別行動だ。不意打ちで上がった火力でもあの鉄壁防御を貫けるかは怪しいだろう。であれば私が使える技をおさらいすることから始めよう。
この場合、私が使えるのは刀と銃による技術の攻撃、それと肉体の変成。防御とかは霊体変換か。刀なら神刺とかによる貫通攻撃。他にも貫通系の技はあるだろうけどただでさえ貫通系は難易度が高い。
前回私が成功できたのも相手が動かなくて初めてできるかどうかレベルだ。つまりあの攻撃を逸らしますよといかにもアピールしているあいつには絶対に効かないということ。
さて、であればハンマーとかの新しい武器に変えて攻撃するか?それは愚策だろうね。だって私が今まで格上の相手に立ち向かえていたのは技術によるものが大きいでしょう。
ダメダメ、ダメだな。やっぱり今までの能力だけでは私にはあのアホほど硬い防御は貫けない。
な、ら、ば、だ。別に馬鹿正直に真正面からその防御を抜く必要はない。あいつのあからさまな弱点を外法で穿てばいいだけだ。
この場合、弱点があるのは間違いなく髑髏の中。こんなに硬いやつがなんの弱点も持ってないとかそりゃあないでしょうって感じだしねー。
さて、でもじゃあどうやるの?というそこのあなた。私も進化する前までならあうあうあーって頭抱えていたでしょう。
ですがー?今の私にはとある壊れスキルがありまして。んで、そのスキルの仕様上私が上手くやれば確実にあの鉄壁防御を抜けるんですよ。なんせ防御力関係ないからね、すり抜けるもん。
まぁ勘のいいガキ諸君ならわかるだろうけど、これは私の新スキル、っていうよりは『死霊』に含まれる『霊体変換』のことだね。
こいつなら確実にあいつのーーっ!?
……これはちょっとまずいな、具体的には時間をかけるほどまずい。
私が考え事をしている間にも黒髑髏はどんどんとよくわからない黒い液体を量産して周りに撒き散らしていた。スキル的に該当するのは『縛濘滂沱』だ。だけどこいつも内容を推測できないから詳細がわからない。『分析』さん仕事してぇ……
まぁそれはともかくその液体がかすった。そう、掠っただけなんだ。なのに、
ーー私は全く抵抗できずに吹き飛ばされた。
なんで黒い液体が掠ったら吹っ飛ぶのか全くわからない。でも、言えるのはあれに触れちゃダメってことだ。思えば、最初に吹っ飛ばされたのもこれが原因なのかな。
そして今その液体は黒髑髏がいる中心付近からどんどんその領域を広げている。
これに加えて液体を吹き飛ばしてくるんだ、厄介にも程がある。
幸いなことに、液体自体は避けれなくもない。ベフェマも私の様子であの液体の危険性を理解しただろう。きっと注意しているはずだ。とはいえ、万が一の場合もあるからまだ手元には戻さないが。
さて、それでは『霊体変換』起動。
……ふむ、こんな感じか。三分間だけだし急いでやろうか。
私の今の体は半透明になっている。よく見たらそれは粒子状になっていることが確認できるだろう。そして肉体変成の効果も継続して、というかむしろ前より早く使うことができる。
これなら十分だ。いつも通りに右腕を銃に変成、そして即座に発砲。
連射音が耳を劈く。発砲に次ぐ発砲で、大量の銃弾を打ち込み、どれか一つでも当てれば勝てる。肝心なのは弾が髑髏に接触する瞬間を見逃さないこと。
ッ、今!
一瞬で霊体が肉体へと巻き戻り、体の重さを自覚する。それと同時にガラスが割れるような音が響き、耳障りな叫びとも嘆きとも取れない何かの声がこだました。
そのまま黒髑髏の周りの黒い液体がまとまりを失い、中央部にある深い穴へと流れていく。後にはもう何にも隠されていない髑髏だけ。
そんな髑髏すらも今ヒビが入り、粉々に砕け散った。
……よかった。成功したみたい。
防御力が高い相手に攻撃を通す時挙げられる手段の一つとして防御貫通による攻撃がある。今回私が行ったのもその類。
『霊体変換』。本来なら緊急エスケープなどに使うべきなのだろうが、今回はその特性である物理無効、というよりは物理干渉不可の仕様を使って黒髑髏の頭蓋だけ貫通し、その内側で霊体化を解除した。
この手法を持って通常なら討伐にとんでもなく長い時間がかかるべき黒髑髏を短期決戦で仕留められたのである。とはいえ、これは3日に一度しか使えないし、シビアなタイミングで合わなければ不発に終わるためあまり常用するつもりはないが。
『むむむ、わたしの活躍がないなーの。これじゃあ進化も意味ないなーの……』
「適材適所だよ。ベフェマには真っ向勝負では面倒な手合いの相手の方が有利だからね」
『……今戦った相手がその最たる例だと思うーの』
「…………適材、適所……だよ?」
シャーと不満げな声を上げて飛びかかってきた受け止めるついでに頭に乗せる。だが、ベフェマは頭だけを私の上に残して他の部分は私の背中を叩き始めた。その尻尾便利そうですね……。
そんなご機嫌斜めなベフェマであったが、私がお肉を狩ってくるというと即座に機嫌が直った。チョロい。
『オールさんのお肉はいいところだけが残ってるーのー♪焼いたりしてくれるから楽しみなーのー♪』
喜んでくれてるなら何よりだ。
しばらく休憩も兼ねてそこで今後の予定を話していたが、『気配感知』が反応したことで一気に気を引き締める。ベフェマも察してくれたようだ。気配の元は……
瞬間、ボス部屋の中央の穴から黒い液体が噴出する。同時に、奥の門……即ち11階層へと繋がる門から大量の魔物が溢れてきた。




