No.24進化のお時間
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長かった。それはもう、ここまで長かった。
私たちの前には今これまで見たことがないほどの巨大な門が鎮座している。これがあるということはこの階層……十階層はここで終わりということだ。
もう一度言おう。ここまで本当に長かったと。
私たちは一階層で妙に異質なボウ球を爆殺(自滅とも言う)し、その後休息を取ってから改めて二階層へと突入した。
そこにあったのは自然が溢れ、草木が繁茂する私がイメージしていた神秘的な森林そっくりであった。
木漏れ日が差し、死んでいるこの肉体を温かく包む様はどこかの虹色林とは全く違う。
だが、私たちはそんな神秘的な光景に長く呆けていることはできなかった。その理由は簡単。ここには、木漏れ日があったからである。
それはつまり、ここは地下なのに太陽があるわけで。
あぁ、ちなみに光源は別のなんかなんじゃない?と思った賢い諸君に伝えておくと、この光は人口のそれが与えるものというよりも体を芯から温めるように暖かい、つまりどちらかというと陽光に近いものだったと記しておこう。
まぁとはいえ、小説、それもファンタジーに類するものを好んで読んでいた者の身からすれば思い当たる事例があるわけで。
私の考え、それは勘のいいガキ諸君ならわかっているだろうが、ここはダンジョンではないか、という考えだ。私の読んでいた小説の中にはダンジョンの中には階層ごとに環境がガラリと変化するものがあった。
もし、ここがそうだというのなら、ある程度はこの普通に考えれば異常な場所についてもそこそこ説明がつく上に、ここで何をするべきかを仮説とはいえ立てることができる。
そう、ダンジョンならばダンジョンコアがあるのでは?という仮説を、そして私たちはそれを砕けば元の場所に戻れるのでは?というここに来て初めて見えた地上への光明を私たちは見たのだ。
こんなところからとはいえ、そうして私たちは目的新たに階層攻略を進めることとなった。
結果は順調。最初のボウ球以外、妙な魔物に襲われることもなく、順風満帆に攻略を進めることができた。
途中から魔物が一気に多くなったが、階層を降りるのだから敵も強くなるのだろうと気にしないでおいた。苦戦の数は増えたけれども。
そして迎えた第十階層。ここでさらに増えた魔物を悪戦苦闘しながらもなんとか制し、そして今ここに立っている。
ここを開けば、ボス戦が始まるのだろう。それが終わればもしかしたらここを出られるかもしれない。そう思えば自然と緊張が入るものであり、私たちはついにその手を門にかけ、ることはなかった。
私たちはここまで何度も連戦を重ねてきた。言い換えれば、多くの経験値を重ねてきたとも言える。
……何が言いたいのか。それは簡単だ。
ーーー
種族:デコス・ゴースト LvMAX/32
称号:【銃士Lv3】 副:【刀士Lv2】 STC: ランク:E
ーーー
そう、私は、この直前の戦闘でついにレベルが上限になった。そしてそれはベフェマにも。
ーーー
種族:スモールネレゾ LvMAX/20
称号:【暗殺者Lv1】 STC: ランク:E +
ーーー
この地獄のダンジョン攻略の間に、ベフェマも新たな称号を手に入れているが、これは進化後にでも解説すればいいだろう。というかぶっちゃけ共鳴により妨害攻撃でこれが取得できたらしい。
まぁとにかく、このステータスのレベルを見て貰えばわかるだろうが、ここで一つ私たちにはチャンスが訪れた。
ーーそれは進化。それは新たな力を得る機会。
こんないかにもここを開けたらもう戻れませんよ風な場所には、できることは全てやってからでもいいでしょう。
そういうわけで、私たちは一度拠点に戻ることにした。
◆
さて、現在私たちは荒野に空いた無数の穴のうちの一つを拠点としていた。この荒野、何故かはわからないけど、空が赤い。どこかのハ⚪︎ラルを救ってそうな勇者の目の前で、魔物を再び復活させる赤い月と一緒に出てそうだ。
まぁともかく。相変わらず中は洞窟仕様の拠点で腰を下ろし、改めて進化について詳細を調べる。分析を持っている人限定のメリットだ。
『種族進化が可能です。進化候補一覧を表示しますか?』
いえーす。
『進化候補:
種族;デコス・ラコイ
説明:精霊系統の魔物の一種。死霊としての死の力を薄め、より生の力を強めることで、背反する力同士を同程度に持ち合わせ、生物へと返り咲こうと試みる死霊。
この進化先を選んだ場合、一部のスキル効力が下がる、もしくはスキルレベルが下がる可能性があります。
種族;デコス・フェアリー
説明:精霊系統の魔物の一種。死霊としての死の力をより深め、生への道を棄てることで死霊系統の最奥にある深淵、その入り口へと臨む死霊。
この進化先を選んだ場合、一部のスキル効力が上がる、もしくはスキルレベルが上がる可能性があります。また、光属性のスキル取得に必要な熟練度が多くなります。』
……ほぁー、なんかすごそうだな。
いや、本当に感想がそれしか出ない。よくわからないポエム的な文章があるけど、要は前者は万能性が増して、後者が特化するって話だよね?
うん、後者だな。
いやね?ちょっとあっさり決めすぎじゃね?って思ったそこのあなた。私も思う。私が今の私の簡単すぎる決定を見たら「馬鹿野郎!未来の私に刻まれる(物理)ぞ!」って言いながら殴るよなー、多分。
でもさ、正直私は特化型の方が基本的に強いと思っているんだよね。もちろんこれは私の意見だから賛否両論あるでしょう。
でも、私の意見を言うならば、万能性はすなわち対応できる場面が増える訳だけど、それってそういう予想外の事態に巻き込まれた時に咄嗟に対応できるのがメリットだと思うんだ。
それで、私はこんな控えめに言って不審者な格好と控えめに言ってバカっぽい言い回しばっかしてると思うんだけど、こんなんでも色々考えてるつもりなんだ。
頑張って周りの魔物から奇襲されないように警戒とかしてるんだよ?どっかの虎とかはそんなのぶち壊して襲撃してきたけど。
まぁ何が言いたいって、要は尖ってる自分の長所だけを押し付けられるよう動いて、尚且つ危機に陥らないようにいけばいいよねってことだ。
……自分で言ってて無理だと思うんだが、どうしよう。
真実はいつも一つだバーロー!ってどっかの名探偵が言ってる気がする。うん、とにかくこれは決まったな。
『種族:デコス・ラコイに進化しますか?』
「そうじゃないだろ」
なんでだよ。どう考えても今のはフェアリーでしょ、えぇ……?
ここに来てシステムさんポンコツ説が浮上してきた訳だがそれは置いといて。
『種族:デコス・ファミリーに進化しますか?』
進化の前に一度ベフェマの様子を確認しておく。どうやら先に私に進化させてくれるらしい。ホントにいい子なんだよなぁ……。まぁそれはそれとしておちょくるが。
では行きましょう。進化、スタート⭐︎
……。
……………。
「あれっこれ進化できぬわぁ?」
あー、なんか思ってたしん、か、じゃぁ……な、い……?
急に意識が遠のき、体の感覚がわからなくなったかと思うと、どさりと体が倒れた音と衝撃を最後に私の意識は沈んでいった。
『条件を満たしました。技能『死霊』のスキルレベルが2から5へと上昇しました。それに伴い、技能『死霊』に新たな能力が追加されました。』
『条件を満たしました。技能『死閃』のスキルレベルが1から3へと上昇しました。』
『条件を満たしました。技能『静流水』のスキルレベルが1から4へと上昇しました。』
『条件を満たしました。技能『旋風旗』のスキルレベルが1から4へと上昇しました。』
『条件を満たしました。技能『枯葉舞』のスキルレベルが1から4へと上昇した。』
『条件を満たしました。技能『神刺』のスキルレベルが1から4へと上昇しました。』
『条件を満たしました。技能『刀術』のスキルレベルが3から6へと上昇しました。』
『条件を満たしました。技能『死背』を獲得しました。』
『条件を満たしました。特典『分析』のスキルレベルが2から6へと上昇しました。』
『条件を満たしました。種族デコス・ゴーストから種族:デコス・フェアリーへと進化しました。』
『進化によるボーナスステータスを付与します。以上で進化を終了します。』




