No.20ラストダンジョンにご招待
おはようございます。今の時間が全くわからない私です。でもなんとなく夜な気がするんだよなぁ。あれ?じゃあこんばんはかな?
まぁそんなことは置いといて。現在私はぬいぐるみとして最適なモフ蛇とのんびり2人旅の真っ最中。いやぁ、一時はどうなることかと思ったけど、これが案外どうにかなるもんなんだなぁ。
「ベアァアアァアア!」
突然襲いかかってきた熊が私のカウンターで華麗に蹴り飛ばされる。同時に切り付けられた首から大量の血を撒き散らしながら倒れた。
一瞬で洞窟が赤色に染まる。
いやぁ、のんびり旅はやっぱり気分が良くなるねぇ。自然あふれる大きな洞窟。ほのかに光る緑の苔。真紅に染まる壁。うんうん。何一つおかしいことはない。
上から奇襲を仕掛けてきた大蜘蛛が何故か体の感覚が麻痺したとでもいうかのようにそのまま落ちて、モフ蛇に噛み殺される。大蜘蛛はそのまま先ほどから私たちが拠点にしている場の、なぜか積み上げられている死体の山に転がっていった。
ん?死体の山?気にすんな。
はい?だからのんびり旅に死体は無理ある?HAHAHA、人生いろんなことがあるんだよ、経験が足りてないだけ。だからこれもおかしくない。私正しい。
……いや、うん。言い訳をさせてもらうと、これは不可抗力だったんです。
気づいたらこんなよくわからん洞窟に転送されてて、現状把握をしようとしたらやべー奴が襲ってくるわくるわ。
そいつらを処理するうちに、いつのまにかこんなに死体の山ができてしまった。
でだ。ここで私はやばいことに気づいてしまった。即ち、こんなに魔物が絶え間なく大量に襲ってきたら私たちは休む余裕がないのでは、ということだ。
ぶっちゃけ私の方は死霊ということもあってか肉体的には作業を長時間続けることは問題ない。
でも、精神的には人間そのまんまだからやっぱりいつか限界が来るだろう。普通の肉体であるモフ蛇はもっと早くになるでしょうね。
目線をちらっとモフ蛇に向ける。この洞窟に転送されてからそこそこの時間は経ったとは思う。大体五時間くらいじゃないだろうか?あくまで体感だから実際にはわからないけど。
それだけの時間が経ったんだ。やはりモフ蛇も少々疲れているらしい。どうやら絶え間ない戦闘もそうだが、虎との対面での精神的ダメージが大きいようだ。
……やっぱりここはひとまず拠点になりそうな場所を探さないとだね。そうと決まれば……
「よし、モフ蛇。そこの山からなんかちょうど良さそうな大きさの魔物取ってくれない?それもってちょっと動物観察を始めようじゃないか。」
『ふゅー……あ、はいなーの!えっとえっとー…これとかどうなーの?』
「おお!いいね、センスあるじゃないか。それじゃあ早速お出かけと行こうか」
『えへへ……わたしはすごいーの!もっと褒めてなーの。あ、それはそうとおでかけってどこに行くなーの?動物観察っていたけど……』
くっくっく、なに、お出かけと言ってもそこまで遠くに行くわけではないのだよモフ蛇くぅん。場合によっては数分で終わるかもしれないんだよねぇ、これが。そう、これから始めるのはーー
◆
『……本当にここでいいなーの?絶対こんなところでそれやっても意味ないと思うーの。』
「いいや、ここだからいいんだよ」
私たちは現在洞窟を少し進んだところにある小さなT字路に来ていた。ここは洞窟でも人気がない、そう考えてここに来たところ、やはりというべきか、そこには一匹も魔物はいなかった。
動物観察に来たのでは?と思った方、ごもっともです。
しかーし!私が今回考えているそれはただの動物観察ではありません!
『そろそろ飽きてきたーの、肩に乗せて欲しもごごなの!?』
来た。気配を感じ取った私はモフ蛇の口を塞ぐ。同時に指でシーッとして静かにするよう指示。
……やがて、奥の通路、T字路の縦部分に位置する通路から一匹の猪が出てきた。私たちはT字路の横部分の右奥にある巨岩に隠れているため、今のところそいつに気づかれてる様子はない。
そいつは、やがて通路の交差部分にやってくる。途中からとあることに気づいていたのだろう、少々急ぎ足で、かつ周りを警戒しながら近づいている。
結局、周りには誰もいないと判断したのだろう。猪は気付いたもの、つまりは私たちがあえてそこに配置した死体に近づき、それを咥えたかと思うと、死体を引き摺りながら元の通路に戻っていった。
順調だ。私はモフ蛇に目配せしてなるべく気配を消して猪を見失わない程度に後ろから尾行する。
まだ時間はありそうだし、ざっと計画の全容を整理しておこう。
私たちはこの死体をどこか人気のない場に放置すれば、なんらかの存在がそれを食べるために現れ、それを自分の寝ぐらに持ち帰るだろうと踏んでいた。
これが魔物がうじゃうじゃいる場所だったらそれどころじゃないだろうが、他の敵がいない場所ならばこれが起こる可能性はあると見ている。
勘のいいガキ諸君ならばもう気づいているかもしれないが、私たちはその存在のねぐらを乗っ取るつもりだ。これが小さい魔物とかならそもそものねぐらが小さくて使えないのでは?と思うそこの方。実は私たちもそこについては考えてみた。
その結果、ある程度大きい魔物の死体を配置することで、この問題は解決できると踏んだ。
理由は簡単、小さい魔物ならそもそもが話こんなおっきい魔物を持ち帰るなんて無理じゃね?と考えたからである。正直小さい魔物でも持って帰れるやついるんじゃね?とか考えたりもしたが、そこまで考えていたら決められないだろうと判断してのこの結果だ。
とにかく、こうして計画は今のところほぼ成功。あとはこのまま猪がねぐらまでいってくれればパーフェクトと言えるだろう。フッ、どうやら隠れながら猪を狙う敵を射殺するという護衛ミッションが始まったようだな。
実は私、こういう隠れ護衛みたいなものが結構好きなのである。フッ、腕がなるってものよ……!
まぁ視覚的には腕がバキバキ鳴りながら変形してる訳なんですけれども。
おっ、そんなことを考えていたらなんとタイムリー。本当に猪を狙う敵がいるじゃあないか。
お相手さんはどうやら蛙。隙をうかがっているようだ。相手の隙を探すのはいいけど、探られるかどうか警戒もしておきなよ。言ってももう遅いけど。
音を極限まで抑えた銃弾が寸分違わず蛙の口内を貫通する。フッ、土に還りな。……カエルダケニ。
なんというかテンションがおかしいな私。休まず連戦を重ねていたから疲れてるんだよ、私。




