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狂い昔話

【狂い昔話】誕生日に悲惨な目に遭う毟束湯臭紫

作者: 七宝

 むかしむかしあるところに、毟束(むしりたば) 湯臭紫(ゆにおいむらさき)という男がいた。彼は今日60歳になった。誕生日などこの歳になると嬉しくもなんともないどころか、なんと今日は健康診断に行かなければならない。


 彼は玄関を突き破り、勢いよく三輪車に乗り重い足取りで保健所に向かった。


 保健所に到着すると、三輪車置き場に三輪車侍(さんりんしゃざむらい)がいた。湯臭紫は三輪車侍に三輪車を託すと、侍の頭をナデナデしたあと保健所の門を叩いた。


「たのもー!」


 中から般若の面を被った汗だくの大男が10人ほど出てきたかと思うと、すぐさま湯臭紫を担ぎ上げ、中へと運んでいった。


「早速ですが毟束さん、ご自分で気になるところはありますか?」


「そうですね⋯⋯血圧と、血糖値と、最近はちょっと目も見えにくくなった気がします。痛いところとかは特にないです」


「うるせぇ!」


 翁の面を被った汗だくの大女の怒鳴り声が所内に響いた。湯臭紫は落ちていたババシャツを着込み、縮こまっておはぎのようなポーズになった。


「サプリメントとか飲んでます?」


「飲んでねぇよ!」


 おはぎになった湯臭紫の怒号が響く。


「それでは胃カメラ入れますね〜」


「んあー」


 満面の笑みで胃カメラを飲む湯臭紫。何を隠そう彼は胃カメラが大好物なのだ。2番目はすき焼きだそうだ。3番目は人参の皮だそうだ。4番目は枝豆の皮、5番目は三途の川だ。


「あー、爆弾ありますね」


 胃の中に爆弾があるそうだ。


「31秒って書いてあります。あっ、28、27、26、25⋯⋯」


 翁面汗だく大女が口笛を鳴らすと、先程の般若面汗だく大男が10人やってきて、湯臭紫(ゆにおいむらさき)を担いで保健所から出ていった。


「適度に運動してくださいねー! あと、塩分を少し控えてくださーい! お疲れ様でしたー!」


 翁面汗だく大女が連れていかれる湯臭紫に向かって叫んだ。健康診断はだいたいいつもこの終わり方である。


 般若面汗だく大男10人は途中で三輪車侍を倒し、三輪車も一緒に担いで隣の公園へと向かった。


 14、13、12、11⋯⋯


 タイムリミットは迫っていた。


「せーのっ!」ドボーン


 般若面10人組は三輪車ごと湯臭紫を公園の池に投げ入れると、そそくさと保健所に帰っていった。


 ドガーン!


 直後、公園の池を中心に半径1km規模の大爆発が起こった。半径1km以内にいた生物は全て死に絶え、建造物は全て砂と化していた。


 爆発の中心点に1人の男が立っていた。湯臭紫である。しかし、彼はもう以前の湯臭紫ではない。この爆発によりミャンマー人になったのだ。


「信じられないと思うがどうか受け入れてやってほしい。頼んだぞ」と公園の池の中で唯一生き残っていた饅頭の皮が湯臭紫を手渡した。


「信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない」


 そう言いながら湯臭紫の妻は嬉しそうに湯臭紫を受け取った。妻は彼に息を吹きかけた。


「はっぴばーすでーディアゆにおいむらさき〜! はっぴばーすでーいとぅーゆーふぉおおおおおおおおオオオ!」


 もう1度息を吹きかけた妻は、湯臭紫の頭にマッチで火をつけた。


「おめでとう、あなた!」


「ありがとう、柄管犯筆(がらくたはんぺん)


 2人は自分たちの愛を再確認しましたとさ、めでたしめでたし。


「そんなわけにいくかーっ!」


 湯臭紫は燃え盛り弱りゆく己の身体に鞭を打ち、力の限り叫んだ。


「主人公が妻に放火されてめでたしなわけあるかい! ぬおおおおおおおおおおお!」


「あなた、もう寝ましょ」


「はい」


 柄管犯筆が(なだ)めたことにより湯臭紫(ゆにおいむらさき)も落ち着きを取り戻し、2人して床に就いた。


『コケコッコ〜〜〜!』


 東の空に輝く太陽代わりの人間に鶏が声を上げた。


「⋯⋯zzZ」


「フンゴー(-ω-)プシュルルルー」


 2人は昼の2時まで眠っていたという。


「あ、冷たっ」


 湯臭紫の頬に雨粒が落ちた。


「婆さんや、雨が降ってきたぞい」


「わたしゃまだ婆さんと呼ばれるような歳ではありませんよ」


 柄管犯筆は今年で99歳である。年の差39歳。柄管犯筆が50歳の頃湯臭紫は11歳である。そう考えると年の差婚ってすごい。


 次第に雨が強くなる。


「降ってきた降ってきた! 避難するぞー!」


 公園の隅っこにダンボールを敷いた上に寝ていた2人はすぐに公衆便所の中に避難した。


 彼ら2人は実は日本人ではなく、この公園の一角に国を築いた外国人なのだ。ダンボールで作られた3畳分ほどの敷地で生活の全てをこなす、外国人なのである!


「ヘーイヘーイ! バーベキュ〜♪」


 陽気な歌声が聞こえてきた方を見ると、筋骨隆々の黒い人間が数十人歩いてきていた。


「ヘーイヘーイ! バーベキュ〜♪」


 公園の真ん中にバーベキューのセットを広げ、持っていたビニール袋から野菜を取り出す。紙皿を配る者、コップを配る者、野菜を切る者、ジュースを用意する者など、皆それぞれ動いていた。


「ヘーイゴイッショシマセンカー?」


 そう言って1人が湯臭紫にタブレットの画面を見せた。


「えっ!?」


 そこには筋骨隆々の人間に手際よく調理される湯臭紫夫妻の姿があった。


「ヘーイヘーイ⋯⋯」


 その日の夜、公園から肉の焼ける匂いがしたという。めでたしめでたし。

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