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人間との戦闘


「どうして……天使様とリール君が同じ部屋から出てくるんですか…?」


ウェルウィッチアがワナワナと震えながら言う。


「あら、部屋数が足りないからですわ。コーに部屋を取られてしまって」


そう言えばウェラってもともとコーと同じ部屋を割り当てられてたっけ。


「いや、わらわが追い出したわけではないのだが……まぁ、わらわの割り当てられた部屋は確かにせまいしの……二人は厳しいと思うのは確かだ」


「あら、先生。別にまだ子供だし、やましい事なんてないですよ」


と、ランダが言う。確かに、普通ならな。普通ならな!


「……そ、そこまで言うなら……でもボクは…良くないと思います」





「ウェルウィッチア殿!ウェルウィッチア殿!」


一人の青年が走ってきた。


「何事ですか」


「早急に街に戻るようにと仰せつかりました」


「いえ、私はここで……」


「この村と戦争するみたいで……ウェルウィッチア殿には支援を、と…」


そこまで言ってウェルウィッチアは驚いて振り返った。そこには何も分かってないリールと、顎に手を当てているウェラがいた。


「ボクは……お断りします。ボクはあくまで彼の先生です」


「しかし」


「良いんですか…?この村は首都と密な関係にあるのですよ……人類はエルフと戦争するつもりですか?」


「……しかし、彼らはそうは思っていないようです」


「ボクは……争いはやめるべきだと…」


その問いに答えたのはウェラだった。


「さっき調べたら、随分人間増えたのねぇ。少し間引かないと駄目ね」


ウェラってノリノリだな……?ウェルウィッチアは嫌そうな顔をしている。


「ドラゴンちゃんは里に帰ってもいいのよ?」


「わらわに帰る里などないぞ。手を貸そう。どうせわらわの事など、テーは干渉せぬであろ」


「コーのせいでテーに降りかかるかもしれなくても?」


リールが言うとコーは


「わらわを追い出した罰くらい受けてもらわねば、割りに合わぬ」


こいつらたくましいな……


「あら、リール。貴方の心の中にこんな言葉があるではありませんか「平和を望むなら、戦いに備えろ」て。さぁ、そこの坊や。いつ開戦ですの?」


「正午……」


「いつの?」


リールは思わず聞き返した。


「今日です」


それを聞いていた皆は空を見上げた。太陽はまだ昇り始めたばかりだというのに、随分高いところに登っている。もしかして、寝坊した…?今となってはどうでもいいか。備えなければならない。


「それと、ウェルウィッチア殿。これを」


その青年が何かをウェルウィッチアに渡そうとした。それは黒い箱の様に見えた。大きさは変形する筆箱くらいの大きさか。しかし、ウェラはそれを蹴り上げ、受け取るのを阻止し、コーはソレに対し氷弾を撃ち込んだ。


「えっ」


リールの驚きの声を爆音がかき消した。


「協力を得られなければ暗殺。なるほど」


ウェラが青年を睨む。


「……バレてしまっては仕方ない!」


「風の精霊よ、我がもとに集いなさい。その静謐は凪の如く。顕現せり力は森閑の如く。今一度我もとに力を示せ!―――サイレント!」


しんっと空気が張り詰める。だが、特に何か変わったわけではない。ウェラが唱えたこの魔法はいったい…?


「……なにも変わってないではないか」


青年は不思議そうにしている。だがどうだろう?彼が仲間を呼ぶために笛を吹いたが、音がでない。


「時間稼ぎには、良いかもしれぬな」


コーが殴り掛かると、青年はピストルを抜いてコーを牽制し、彼は逃げていった。


「正午の予定が早まるかもしれぬな……村の者に連絡を」


コーが言うとランダはすぐに駆け足で各家に向かっていく。






「あれ。エルフって魔法で戦うんだよね」


リールが言うとコーは


「仕方ない。わらわが前衛を担おう。リールは援護を」


人間たちは太鼓を叩きながら前進してくる。コーは大丈夫だろうか、と思ったが、彼女の手には氷でできた槍を持っていた。戦列歩兵は眼前まで迫ってきている。


「リール。銃の有効射程はどれくらいだ?」


「80ヤード。おおよそ70メートルちょい!」


コーは一気に飛び込んでいき、射撃のスキを与えず、一振りで敵兵士をなぎ倒していく。そして相手が反撃の機会を伺う時、一気に距離を取り防御態勢にはいる。


「ウェラはどこだろう……?」


リールが見渡すと、ウェラは丁度側面を叩こうとしているところか、詠唱に入っていた。


だがどうだろう。敵兵士が投げたけむり玉のような物を浴びた途端、ウェラは膝を付き、苦しそうにしている。


「大変だ、コー!ウェラがやられた!コー!」


リールが叫ぶ。だが、大見栄きって戦闘を挑んだ手前、はい、そうですか。と移動できるわけもなく。


「無理だ!リール!」


リールはM1911を構え、近づこうとする敵兵士を牽制する。


ドパァン!


ピストルの射程なんぞ50メートルが関の山。ソレ以上は的あてゲーム並の難しさになる。


「土の精霊よ、我が名のもとに集いなさい。その硬さは鋼の如く。顕現せり力は風の如く。土の精霊よ、今一度、我が名のもとに力を示しなさい。―――顕現せよ、SR-25!」


ずぞぞぞっと音を立ててそれは姿を表した。子供のリールでは構えにくかったが、スコープを真っ直ぐ覗ければ問題ない。当たれば良いのだ


そしてリールは呪文のように台詞をつなげた。映画で見た台詞だ


「神を讃えよ―――」


タシィーン!

みぞおち辺りに狙って撃ったが、どうやら頭に当たったようだ。この銃はおそらく400mくらいでゼロインされており、今狙ったのは100mちょい。このスコープで丁度1メモリ半の場所に着弾した事になる。


「私の手と指に戦う力を与えたまえ―――」


タシィーン!


「神は我が城―――」


タシィーン!


「我が砦―――」


タシィーン!


「我が救い―――」


タシィーン!


「我が盾なり―――!」



タシィーン!


何発撃った……?目眩がしてきた…駄目だ、ウェラに敵を近づけさせるわけにはいかない!


ポスンっ


もう身体に魔力が残っていないのか、銃声が情けない音になっていた。リールは意識を失いそうになっていた。


「ごめん、ウェラ……奴らを皆殺しにできなくて……」


リールの言葉は弱々しく、もはや視界も殆どなかった。もう一度引き金を引いた。カチンと空打ちの音が響いただけだった。


その遠のく視界の中、ウェラが乱暴にされているのが見えていた。銃床で顔を殴り、服を破いている。やめろっ……もう声は出なかった。




『お前の心……私に届いたぞ、少年』


ついに幻聴が聞こえるようになったか……そうではなかった。目の前に男性が立っていた。誰だ…?村のエルフじゃないな……?


「娘が世話になった。礼を言おう」


彼が指を鳴らすと大地は大きく陥没し、すぐとなりが隆起していく。敵兵士達はその穴へと吸い込まれていった。そして、隆起した部分が倒れ、穴を塞いだ。


「撤退!撤退!」


生き残った人間たちは撤退していった。これで戦闘は終了したのだ。



彼はウェラを抱きかかえ、リールのもとに歩み寄り、


「ドラゴンよ、すまないが、彼を運んでやってくれないか?」


コーは言われるままリールを抱えた。




そして、ウェラをキッチンのテーブルの上。リールを椅子に座らせた。


「少年よ、まずは感謝を。娘を救ってくれてありがとう」


リールはランダに魔力を分けてもらいながら考える。この世界の生命体を作ったウェラを娘と言うこの男性。もしかして?


「いえ。当然の事をしたまでです」


「それともう一つ。世界の旅人よ。私の世界へようこそ。私は貴方を歓迎しよう」


そう言えばウェラが手紙を出していたな。


「はい、その度は何と言ったら……」


リールは言葉に悩んだ。世界の創造主と話す機会など、そうあるものではない。


「対魔法生命用の魔法具……まさか娘にこれほどのダメージを与えるとはな……困った」


本当に困っているか謎だ。少し余裕そうに見える。そして、会話が繋がっているかどうかも謎だった。


「ウェラは大丈夫なんですか?」


「ああ。じきに目を覚ます。旅人よ、世界の調和を頼めないか?ウェラでは荷が重い」


とんでもない言葉を聞いたぞ?


「できるでしょうか……私に…」


「少年よ。お前にしか頼めない事だ。ウェラですらこのザマだ。ウェラに世界の調整は無理だろう」



返事に悩んでいると、ウェラがゆっくりと起き上がる。


「気分はどうだ、娘よ」


「身体が鉛のように重いですわ……その……おしっこ……」


「少年よ、任せた。この中では君が適任だろう」


神様に言われリールはウェラを担いでトイレへ向かった。部屋を出たあたりだろうか。ウェラがが恥ずかしそうに


「重くないかしら……」


「さっき使った銃のほうが重いくらいだよ」


と返しておいた。



トイレに着いてどうしようか悩んでいると、ウェラはスカートをたくし上げ、パンツをずりおろしていた。


「じゃ、じゃあ、外で待ってるから」


「だめっ……ここに…いてほしい」


傲慢で気高さを振りまいている彼女の弱々しい言葉に負けて手を握ってあげた。それに対し、ウェラは優しい笑みを浮かべた。良いものだ。


プシィーッ


この世界の住人は音は気にしないのかな?と思っていたが、どうやら恥ずかしいらしい。少し顔が赤い。


「……私達天人は…身体を魔力で作り上げる。実体はあってないようなもの……だから、魔気がおかしなことになると、その……こうやって…おしっことして身体の外に出してやる必要がありますの。普段は…必要ない事ですのよ」


つまり、身体の魔気がおかしなことになったので、身体で再調整して、その毒素やら不要分やらを排泄として身体から出す、ということだろう。


シィーイ……チョロロロッ


ウェラは排泄が終わると自分で股を清拭し、立ち上がり、パンツを履き直す。


「ありがとうございますわ。もう大丈夫です。さぁ、戻りましょう」


キッチンに戻ると、神様はランダに食事を与えられていた。


「おかえり。娘よ。この村の事はもう大丈夫だから、世界を見て回ってみないか?」


「よろしくて?私…この辺りの管理をする必要があるのですけれど」


「むしろ、世界を見て回ったほうがウェラも世界も為になる。そう思っているよ」


「分かりましたわ。是非にでも」



話がまとまったところでリールは疑問をぶつけた。


「どうしてウェラを名前で呼ばないんですか?」


「簡単さ。娘と呼ばないと一人の女として見てしまって……抱いてしまうからね。実は私は娘くらいの年頃の女の子が大好きでねぇ。間違って娘を抱いてしまわないように、そう呼んでいるんだよ」


鼻の下めっちゃ伸びてる。まぁ、神様が色好きなのはどこの世界も同じか。ちょっとロリコンみたいだけど。


「さて、食事有難う。さ、私は帰るとしよう。では、さらばだ」


言うが早いか、神様はフワっと姿を消した。


「ウェルウィッチア……貴方はこれからどうされますの?」


そうだ。この戦闘で彼女の顔は見られている。家に帰れば捕まるだろう。


「貴方達の旅に同行させてもらいます。ソレでいいですよね?」


旅は道連れってね、昔から言うし。


「僕は構わないよ。ウェラとコーは?」


「これで突き返すわけにも行くまいて。構わぬよ」

「勿論ですわ」


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