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世界を作った最強の天使の意外な弱点

「首都の方から、医療班が見えてますよ」


「家畜も含めた全員の予防接種らしいよ。なんでも、魔力を媒体に広がる奇病らしい」



と、いうわけで、この村も漏れなく予防接種が強制された。


「ウェラも対象らしいよ」


リールが言うと、首を小刻みに横に振りながら、


「い、いいぃぃいぃい……ひ、必要ありません、わ」


嫌だって言おうとしたんだろうな。コーが居る手前、言えなかったみたいだけど。


「いや、魔力で体を構成してるから、やっといたほうが良いと思うよ。この奇病、自我を失って夜な夜な徘徊する魔物化するって書いてあるし」


「そ、それはもっと嫌ですわっ」


もしかして……?



そうこうしてる内に医療班が家に入ってきて、キッチンを素早く注射が打てる環境にしていく。エルフって結構進んでるんだな。


「あ、あぁぁあぁあぁ、あのあのあの」


「はいはい、腕を出してー、チクッとしますよー」

「まっ待っっ~~~~」


嫌がる子供に注射するのに慣れているのか、スッと手を持って嫌がる時間を与えずプスっと刺した。ウェラは顔をそむけ、目をギュッと閉じていた。


間違いない。注射嫌いなんだ。ドラゴン族を文字通り蹂躙する最強の天使の、唯一の弱点かもしれない。案外可愛い。


「はい、終わりましたよ~、頑張りましたね~」


涙目になっているウェラに医師は飴を手渡していた。ウェラは医師の顔と飴を交互に見た後、受け取った。口に入れると、少し安心した様子で


「甘い」


と言っていた。



「……我らドラゴン族を恐怖のどん底に叩き落とした天使が……可愛らしい事よの」


見ると、コーは平気らしい。


「ちゅ、注射なんて……だいっ嫌いですわっ」


涙目になっているウェラは可愛い。可愛いが、普段があれだから余計に可愛く見える。


「わらわの1000倍以上生きておるのであろ?なぜ注射が駄目なのだ?」


「……駄目なものは駄目ですのっ」


まぁ、イカツイ兄ちゃんが注射嫌いだと可愛いって思うのと同じ感覚だな。これは。





「しかし、予防接種が必要な奇病か。突然そんなの出現するもんなの?」


「どうかしら。昔は霊脈にいたずらをされて毒が吹き出るようになった事件もありましたし、似たような物かもしれませんわ」


霊脈から吹き出る魔力は、それだけ影響力が強い事になる。だから、霊脈を大事にしろ、と言うわけだ。


「その霊脈はどうなったの?」


「毒素が強すぎて魔法生命体は近づけず、影響がない人間では理解が及ばず、結局破壊しましたわ」


「そこに向かったドラゴンは皆、帰らぬ者となった。とうてい、いたずらで済まされる事ではないのだが……」


「犯人はまだ捕まっておらず。しかし、事件は再発せず。不可解な事件だったわ」



聞くと、霊脈とはあんがい脆く、魔法を与えてやるとあっさり変化してしまうそうだ。勿論、時間が経てばもとに戻るものも有るが、先に言ったような、毒を噴出するようになると自然浄化を待ってられないので、破壊するに至る。


また、人間が鉱脈だから、と掘り進んで霊脈をぶち抜いてしまうと、洞窟内に魔気が溢れかえり、人間でも生存不可能になるそうだ。そのため、炭鉱夫はカナリアをつれて潜ると言う。この世界でもカナリアは有効なのか。


「リール、分かっていると思いますけど、魔法は鉄砲と違って、すぐに撃てるわけではありませんのよ」


そう言えば、ウェラですら魔法を使うのに詠唱していた。


「確かに。鉄砲は予め装填しておけば、最初の一発は即座に撃てる。だが、魔法はそれができない。即応能力に欠けるのだ。戦闘においても、魔法は後方支援の枠組みであるしな」


コーが椅子に腰を下ろしながら言う。今の戦闘の模様は、剣と槍。人間なら鉄砲。そして騎馬隊。そして、それを後方から支援する魔法。


そうだ、この世界。大砲がないんだ。火薬が貴重なのか、魔法が有るから不要なのか、大砲がないっぽい。先程の戦列歩兵も大砲は持ってきてなかった。


「つまり、霊脈が毒を噴き出すようになったら……」


「ええ。その毒の中で詠唱する必要がありますわ。目で見える距離までしか範囲はありませんし、濃度も相当……。生きて帰れる魔法生物はいないでしょう」


ウェラは机に腰を下ろし足を組む。そして、それをヒョイっと持ち上げ椅子に座らせるランダ。


「そこは座るところじゃないですよ」


ウェラはポカンとしていた。


「エルフと天使は殆ど干渉しておらんからな。恐ろしさなんて知らんであろ」


コーに言われウェラはパチクリとまばたきを繰り返していた。おそらく、本人は畏怖と敬意の狭間に自分がいると思っていたのだろう。年頃の女の子を扱うようなそのランダの行動は予想外だったようだ。


「え……?」


その予想外の事にウェラは首を傾げていた。


「魔法と鉄砲。どっちが連射が聞くの?」


リールが言うとコーとウェラはお互い顔を見合わせる。突然話が変わったことより、その内容が気になったようだ。


「特に気にしたことはない、ですわ。魔法は詠唱しなければいけませんし、それに、内包する魔力量が尽きたら、唱えることは叶いませんし……」


「鉄砲も装填に15秒はかかるし、弾や火薬が無くなれば撃つことはできぬ。槍としてなら使えるがの」


コーの口ぶりから、ドラゴンは鉄砲を握ったことが有るらしい。しかし1分で4発か。紙薬莢を噛みちぎって、パーカッション式の激発かな


「私の失敗作かしらね。折角強い魔法生物をデザインしたのに、剣や槍で戦うだなんて」


リールが驚いていると、ウェラはウインクしながら


「あら、ドラゴンも人間も、私がデザインしましたのよ?」


「知らなかった……本当に天使?それ神様の仕事じゃない?」


「お父様が好きにしていい、と仰るので、割と自由にデザインしましたわ」


神様自由人かよ。まぁ、自由じゃない神様なんておらんか……とゆうか、ウェラ、何歳なんだ……ここは話を変えよう


「ドラゴンって火、吐けるんでしょ?」


「属性が火ならな。わらわの属性は氷ゆえ、出てくるのは氷ぞ」


水とか土とかどうなってるんだろう……氷で氷なら……分からん。想像力不足だ。




「そうだ、湖に行きませんこと?」


ウェラが言い出した。何か訳がありそうだ。


「そうだな、見ておいたほうが良いかもしれんな……」


コーは一瞬で理解していた。


「そんな顔しないで下さいまし。あの河は凄い魔気を含んでいますわ。それが流れ込んでいる湖を見ておきたいの。折角ですし、水着を用意して」


ん?何か余分な一言を聞いたぞ?


「水着……?」


コーも理解が及んでいない。


「あら、折角水際に行くのだから水着は必要でしょう?水中も見ておきたいですし」


なるほどな。


「だが、わらわは水着どころか着替えすら無いのだが……」


そう言えばコーはこの土地の人じゃなかったね。


「ん~、コー一人なら……見繕えますわよ?ちょっと身体を触らせて下さいな」


ウェラは返事を聞く前にコーの身体をペタペタと触っていく。途中、無遠慮にスカートを捲ってペタペタ触っているが、コーは何も言わなかった。ふむ、中々良いパンツを穿いてらっしゃる



「さて、くるりんぱっと。節約も兼ねて、貴方にはビキニを作りましたわ」


ほう、服を作るのは詠唱いらないんだ。気がつけばウェラも水着になっていた。誰がどう見てもスクール水着だが?


「貴方の記憶の中にあった水着にしたのだけど……だめでした?」


上目遣いで言われると流石に困る。


「いや、似合いすぎ、かな」


ウェラはそれを聞いて笑みを浮かべ、ランダに言う。


「ちょっと湖まで行ってきますわ。サマーバケーションとでも言いましょうか」









こうして、湖まで来たわけだが魔気に覆われ大変なことになっている、という事もなく、程よい魔気と穏やかな風景がそこに広がっていた。


「大丈夫そうですわね。さぁ、コー。湖に入りますわよ」


ウェラはコーの手を引っ張って水の中へと突入していった。


「平和だ……湖の畔の草むらに寝転んで時間がすぎるのを待つ。こんな時間、今まで取った事なかった……」


リールは思わず口に出してしまった。どうせ誰もいないのだ。聞かれる心配もなかろう。








「ふぅ、水の中も調査完了ですわ」


ウェラが溜息とともに隣に腰を下ろした。


「どうだった?」


「問題なし、ですわ。ただ……これを見つけましたわ。明らかに異物。されど、貴方の記憶にある物ですわ」


リールが首を傾げていると、コーがそれを持ってきた。おいおい、それ1.2トンあるんすよ?


「冗談……だろ…?」


「貴方がこの世界に来た乗り物……何て言うのかしら?」




「スバル……BRZ…僕の……」


失われた記憶を呼び戻そうとする。だが、思い出せない。確かに、この眼の前の廃車は俺の愛車だった。だが、それ以上の記憶が無い。だけど、1つだけ思い出した。サバゲという単語。何を意味する言葉だったっけ……?


「貴方の記憶を呼び戻せるかと、持ってきたのだけど……だめそうですわね。コー。沈めて頂戴」


こうして、BRZは再び湖の底へと沈められた。


「明らかな世界干渉を受けていますわ……お父様に手紙をださないと」


ウェラはそう言って空中に指を走らせる。すると、そこに光る文字が書かれていく。天使語は分からないので何を書いているか分からないが、大急ぎで書き綴っているのは分かる。


「これでよしっと」


それを手のひらでなぞると文字は丸められ、封書が出来上がり、フワっと飛んでいった。



「さて、いつまでもここにいる理由はありませんし、戻りましょうか」







「そうだ、ランダ。リールに魔法の先生を雇って欲しいのだけど」

「ええ、いいわよ」


まさか二つ返事で了承されるとは思ってなかった






その夜、やはり夫婦のあえぎ声を聞いて発情したウェラがリールのベッドに潜り込んでいた。


「貴方の指……癖になりそうですわ……」


その癖になりそうなテクニック、実は今日で2回目のトライなんだぜ


「それは良かった」


こうしてリールはウェラを導いてあげた。





「あぁ……とても素晴らしい一時でしたわ……これはほんのお礼ですわ」


そう言って今度はウェラがリールを導いた。



「ふふっ凄い魔気……」


ウェラは手についたソレを舐め取りながらウットリとしている。


「あら、人間のソレと全く違うくてよ。魔法生物はオスの魔力をメスの体内に送り込み、その魔力をメスが混ぜ合わせ、生命を作る。だから、上手く行かない事のほうが多いのよ。エルフが人間よりも長命だから良いものの、出生率の低いエルフはいつ滅んでもおかしくないくらいですの」



エルフはそういう出生なのか……


「じゃあハーフはできない?」


「できませんわ。魔力を吐き出さねばエルフは孕まず、魔力を吐き出すエルフでは人間を孕ませられない」


この世界はハーフエルフは存在できないらしい。


「そう言えば糞尿も魔力帯びてるって言ってたもんね……身体の構造が根本から違うんだ……」


「大気や食物から魔力を吸収するエルフは、その排泄によって大地に魔力を戻す。だけど、体内で魔力を増幅するから、大気に溢れる魔力は増えるばかり。だから、それを調整するように、消費するだけの人間が絶対に必要ですの。魔気に当てられると人間は狂うし、魔気の濃度が上がれば魔法生物も正気でいられない。こうして世界は滅ぶのよ」



西の大地は溢れる魔気が強すぎて荒廃したと本に書いてあった。



「難しいんだね」


「世界を創る、とはそういう事ですのよ」





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