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ドラゴンが彼女を恐れるワケ

「ねぇ、ウェラ。ドラゴンとの戦争っていつ頃あったの?」


「3000年くらい前ですわ。まだ、このコーが本当のドラゴンちゃんだったころですわ」


「コーって、属性を巡って何度も会議してたんでしょ?戦争中に会議してたの?」


「私、絶滅させるつもりはありませんでしたので、前線で暴れただけですわ。ちょっと、王都に近づきすぎた、とは思ってますけれど。だから都市機能は失われていませんわ」


ふ~ん、と返事をするとウェラは何かを思いついたらしい。


「コー、良いものを見せてあげますわ」


そう言って二人は家を出ていくので、リールもそれに続いた。






「ここら辺がいいかしら」


そこは村から離れた平地。


「炎の精霊よ、我が名のもとに集いなさい。その炎は地獄の如く。顕現せり力は烈火の如く。炎の精霊よ、今一度、我がもとに力を示しなさい。―――顕現せよ!ヘルファイア!」


詠唱の途中で描かれていた魔法陣で規模は分かっていた。だが、想像を絶する炎だった。魔法陣はかなり距離がある場所に描かれていた。そのため、炎が上がった後にゴゥっと音が遅れて聞こえ、熱風が肌をなでていく。まるで目の前で爆発があったような熱風が、その距離を持って感じられた。だが、不思議と衝撃波はなかった。


「この炎では……さすがのドラゴンも蒸発してしまいましたわ」


その言葉にリールは背筋が凍る思いだった。あれを…実際に撃ったと言うの?






ウェラは当時の事をポツリと話し始めた。





あまりの火力に大地が抉れていた。地面が熱量に耐えきれず溶けたのだ。爆心地は文字通り地獄の模様だった。ウェラは周りを見渡しながら歩いていた。


「骨も残らず蒸発しましたわね……あら?」

その熱量でかつてそこにドラゴンが居た、と分かる影が壁に残っていた。その隣。焼け残った岩に背を預け、息も絶え絶えのドラゴンを見つけた。


「お、お助け……下さい…な、何でも……しますから……」


「まずはお名前を」


「シー……です」


「そう……土の精霊よ―――」


「お、お……御慈悲を……こ、殺さな……」


「―――我が名のもとに集いなさい。その硬さは鋼の如く。顕現せり力は光の如く。今一度、我がもとに力を示しなさい。―――顕現せよ、ストーンバレット」


そして、とどめを刺したウェラはその死体にこう言った。


「なんでもするのでしょう?では死んでくださいな」







その時からだろうか。天使の機嫌を絶対に損なわせてはならない、とドラゴン族が言うようになったのは。


「コー、貴方は……忘れられない名前のはずですわ」


その時ウェラの顔は笑っていた。


「わらわの……母上…だ」


は?冗談じゃねぇぞ


「そう、幼い頃窓から見ていたあの業火の下に、貴方のお母様がいらしたの」


「……っ」


「そう、貴方を見てからどうしても伝えたかったのですわ。命乞いする貴方のお母様の顔は今思い出しても愉快でしたわ。恐怖に歪んだ顔。貴方にも見せたかったですわ」


まるで学校の成績が良かった子供のような表情だった。


「リール、勘違いしないでくださる?これはあくまで戦争ですの。綺麗な部分を見れば、死ぬ生きるだけでしょうけど……汚い部分を見れば、どこもこんな感じですわ。私が特別ではありまんわ」


その言葉を一番理解していたのはコーだった。


「……くそっ」


コーは勢いよくウェラに殴り掛かる。ウェラがそれをかわすと、氷の塊がウェラを襲う。ウェラはキレイに舞うようによけると、その氷の塊の上に乗り、コーを見下ろす。


「貴方は4大精霊の力を必要としないゆえ、詠唱が不要。それは貴方の強さですわ。ですが、精霊の力を得られないのはすなわち、弱さですわ!」


氷の塊が無数に空中に現れ、次々と射出していく。


「土の精霊よ。我が名のもとに集いなさい。その硬さは鋼の如く。その拘束力は大地のごとく。今一度、我がもとに力を示しなさい。―――顕現せよ!アースチェイン!」


地面から生えた鎖によって、コーは地面に伏せさせられた。それによって、空中にあった氷の塊は、音もなく地面に落ちていき、消えていった。


「準備運動にもなりませんわ」


「はぁ…はぁ……くっ…」


「私、貴方に感謝してますの。力比べなら、いつでもどうぞ」


「つい、カっとなってやってしまったが……こんなに力の差があるとは……」


「言っても分からない事はやってみませんとね。良い心構えですわ」


「あの、そろそろ……」


リールが止めた。このままではコーが死にかねない。




「そうですわね。私の今後を考えたら、コーは絶対に必要な人材。それに感謝こそすれど、恨みは薄い。さ、帰りましょう?」


ウェラはそう言って指をパチンと鳴らす。鎖は音を立てて粉々に砕け、砂に戻った。






「あら、そんなに汚れて……お風呂、先に入って下さい」


ランダがコーを風呂へと連れて行った。


「リールの世界に分かりやすい言葉は「弱肉強食」でしょうかね」


ウェラが手招きするので、リールは招かれるように近づいていった。


「殺生与奪」


リールはボソリという。もっとふさわしい言葉があったのを喜ぶようにウェラはリールを抱き寄せた。


「あぁ、抱き心地も最高ですわ。エルフはやはり、これくらいの歳が一番輝いてますわ」


抱き寄せ、頭を撫でられ、何がなんだか分からない。


「段々、貴方のことが分かってきましたの。貴方は内包する魔力量は凄まじい、と言えますわ。でも、他人の魔力干渉は受けない。不思議ですわ」


「じゃあ、魔法を覚えたほうが良いのかな?」


「そうですわね。ただ、私では教え方が特殊すぎますので、誰か……例えば人間の魔術師を連れてくるのが良いと思いますの」


エルフが魔法を覚えるのに人間を呼ぶのって、どうなの?


「大丈夫でしょうか……」


リールが心配そうな声を出す。


「危なかったら、すぐ、駆けつけますわ。私は、貴方を守ると心に誓いましたもの」


どうやらリールは、この世界で最強の天使族に気に入られたようだ。






その夜。壁の向こうから夫婦の営みが聞こえてくる。それはわりと毎日聞こえてくるのだ。今日は少し覗いてやろうか。そう思って部屋を出ると、その営みを盗み聞きするように戸を背に、ウェラが自分を慰めていた。


ドキっとした。これは良い光景でした、と言えば良いのだろうか。つい見入ってしまった。


「あ」


ウェラを見ていたのがバレてしまった。何か言い訳を考えないと


「続きをするなら僕の部屋においで」


間違えた気がする。部屋に逃げ込んでしまおう。だが、ウェラはリールの部屋を訪れ、ベッドに潜り込んできた。


初めて女の子の匂いを嗅ぐ。いい匂いがする。


リールはウェラを優しく導いてあげた。












「あの……この事はコーには内密に……」


ウェラが目の前で言う。ほぼ抱き合っている2人は、お互いの吐息が届く距離だった。


「うん。大丈夫だよ。こんな事、人に言えるわけないじゃん。夫婦だって秘密の事なのに」


ウェラ顔を赤らめ落ち着かない様子だったが、ウェラは何を考えたのか唇を重ねた。初めてのキスは甘酸っぱく、サクランボの味がした。


たぶん、口止め料なんだろうな





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