資源があったら人間が取りに来る。当たり前の事だ
「何の騒ぎですの?」
ウェラが寝ぼけ眼で部屋から出てくる。リールも不思議に思い家の外を見る。見ると兵隊が並んでいる。
「退去命令だなんて信じられません」
ケニア村長が必死に説得を試みようとしているが、上手くいきそうにない。コーならどうするだろうか。脅すのだろうか。
「その命令に従う必要はない。この村の住人はエルフだ。そなた達は人間であろ。種族を超えた退去なぞ、すなわち侵略ぞ。わかっておるのかえ?」
侵略、という言葉を聞いて兵たちはたじろぐ。どいて欲しいだけであって、殺したいわけではないからだ。
「理解が浅いですわね、ドラゴンちゃん。新しくできた魔力源泉が欲しいに決まってるではありませんか。そこにいる現地民なぞ邪魔なだけ。この場をしのいでも、結果は変わりませんわ」
ウェラがコーの隣に立つ。人間には彼女が何者か理解できるものがいないらしい。
「何だこのガキは!失せろ!!」
そう言って乱暴にしようとしたが、ウェラは片手でそれを止めると、もう片手で頭に触れる。たったそれだけなのに、彼は吹き飛んだ。10m程だろうか。しかし、それだけでも彼らを掻き立てるには十分だった。
「奴らに敵意あり!やれ!」
彼らは密集し、銃を構える。コーはそれを見て氷で壁を作った。兵士が発砲した時には氷の壁はその殆どを受け止めた。
「あら、案外できるじゃありませんか。てっきりもっと弱いのかと思ってましたわ」
「だが、長くは持たないであろ。どうするつもりかえ?」
コーが心配になってウェラとの間に入り、二人を見る。
「ウェラ、大丈夫?怪我してるよ?」
リールが言うと、ウェラは頬を撫でる。指には血がついていた。その時の顔は忘れられない物だった。不気味な笑みだった。いじめっ子が獲物に見せる顔、とでも言おうか。
「ドラゴンちゃん。この氷をどけてくださる?」
コーは言われたとおり氷を魔力で砕くようにどけた。それを見計らうかのように、戦列歩兵が一斉に射撃をした。黒色火薬特有の煙が視界を塞ぐ。その煙の中に彼女はいた。
そして、彼女は両手を交差し膝を落とす。そして右腕を広げ頭上を円を描くように回る。そしてそれに合わせて魔法陣が描かれていく。
「た、隊長、あんな魔法陣……見たことありません!」
彼は撤退をしてほしかったのだろう。だが、指揮系統である太鼓は攻撃を指示していた。そしてみるみる内に舞を踊るように魔法陣を描き続けるウェラ。誰がどう見てもヤバかった。
「消し飛びなさい」
ウェラが言うと、魔法陣は魔法を放った。衝撃波は全て前方だけだったが、その破壊力はデイジーカッターと同等。つまり、戦術核兵器並だった。生き残った兵士達は戦列を維持できず、撤退していった。
「火力が高すぎたかしら。生き残りがでてしまいましたわ」
リールには分かる。強すぎた火力が上昇気流にのって、低い位置にいた兵達がさほど被害を受けなかったことを。さらに、火力が先に到達するので、怯んでいた兵の真上を衝撃波が通過してしまった。そのため、衝撃波でバラバラにならずにすんだのだ。
「ここが魔力の生産地でなければ、もう少し火力が低かったのに……失敗しましたわ」
下手したら地形が変わるかもしれない程の魔力だった。その魔力消費においても、この源泉は問題なく機能していた。
「生き残りが居るということは、後日、使いの者が来ますわね」
ウェラの予想に反して、使いの者はすぐに現れた。大隊の兵士を連れて。
「あら、この村を侵略するおつもりですの?」
今度は最初からウェラが相手する。村の者もすぐ後ろで戦闘に備えた。
「退去をせぬ場合、軍事力を持って、排除する。無駄な抵抗はしないように」
「人間は愚かですわね。でも、それでこそ人間ですわ」
退去の命令文を読み上げる相手にウェラは挑発的な言葉を投げる。
「退去の理由も述べず、ただ退けと言うのは」
コーの言葉は途切れた。命令文を読み上げていた戦闘の相手がピストルで撃ったからだ。それに触発され、兵が発砲を開始。村人に被害が出た。それだけではなかった。一発の銃弾がウェラの脇腹に命中していた。
「コー、戦えまして?」
「いや、休憩したい」
「じゃあ、私が全部やりますわね」
そしてウェラは指で空を指しながらくるくると回す。すると、大きな魔法陣が空中に描かれていく。
「炎の精霊よ、我が名のもとに集いなさい。その炎は地獄の如く。顕現せり力は風雨の如く。炎の精霊よ、今一度、我がもとに力を示しなさい―――」
先程よりも大きい。戦列歩兵達を覆い尽くすくらいの大きさだ。空気がピリピリしている。これは駄目なやつだ。リールはすぐに叫んだ
「皆!ふせろ!!」
「―――顕現せよ!ファイアーストーム!」
そして、その言葉を待っていたかの如く、巨大な火球が魔法陣から地面めがけ降り注ぎ、大きな爆発を発生させた。戦場にいる兵士が近接航空支援を要請した場合、こんな気分なんだろうか、と一瞬考えた。しかし、この爆風は2000ポンドどころではないだろうなぁ。家とか大丈夫だろうか。
「いっちょあがり、ですわ」
ウェラは満足した顔をしていた。怪我は大丈夫か見に行くと、傷跡すら残らず傷は既に癒えていた。それはコーも同じだった。
「あれだけの規模の爆発なのに、村に被害がでておらぬ……さすがは天使と言ったところかの」
コーが感心したように言うとウェラは
「護衛対象を自分で消し飛ばしたら、目覚めが悪いではありませんか。それに、ここに村がなければ人間の侵略を許しかねませんもの。悔しいですけど、守る理由ができてしまいましたのよ」




