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炎のクレート


「コー、何かニオイでわからないかしら」


ウェラがふっ飛んだ兵士を引きずって戻ってきた。



「どうやらこの事は特に気にしていない……と、言うよりもなにか急いでいるようなニオイであるの。何かに焦っているような」


ウェラはそれを聞いてコーに指で合図する。



コーは一瞬戸惑うも指示に従った。



コーは踵で兵士の股間を踏んだ。言い忘れていたがコーが履いているのはハイヒールなので痛そうだ。


「コーに探らせてもいいけれど……話していただければ色々と優遇いたしますけれど?」


「……飛空艇の試験棟に残された資料で新型船を作るということしか知らない!」



「有難うございますわ。コー、約束ですもの。足をどけてあげてくださいな」


ウェラに言われコーは足をどけた。ウェラが優しくそこに触れる。



「作ろうとしているのは飛空艇だけですの?」


優しくそこを撫でられ男は生唾を飲みながら


「いや、爆弾を作ると聞いた。でもどんな物かは聞いてない」


「それだけ聞ければ十分ですわ」







「なんともまぁ……」


ウェルウィッチアが顔を赤くしていた。


「ウェルウィッチア、貴方……成人してますわよね?何をそんな……」


え?成人してたの?背低いけど……?確かに自分の妹は高校上がるまで身長が100cmきっかりしかなかったほど小柄だったが……


「ま、まぁ確かに成人してますけど……ボ、ボクは…その…」


しばしの沈黙


「で、いつ頃成人しましたの?」


「今年です……」


「まぁ、成人祝いをしなければなりませんわね。お酒はあと2年待たないといけないでしょうけど……」



ほう、飲酒と成人がずれているのか。面白いな。


「と、いう事は今年14になったばかりということだの。ひとつの節目だと言うのに、まさかこんな事になるとはな……」


連邦の法律では14で成人と認められる。それはつまり、14歳で大人と同じように自由と権利が与えられるばかりでなく、罪を犯せば同じように罰せられる事を意味する。


「いえ、あの時からボクは家に帰れない事が分かってましたので……」


大変だなウェルウィッチアも……あれ?連邦がウェルウィッチアを狙ったり、帝国が領土内まで攻め込んでたり



「待って、話がウマすぎる」


リールは事情を説明した。最初の戦闘。そして今回の侵入。





「つまり連邦内部に手解きしている者がいる、そう考えてますのね」


「ありえる話だ。リールの故郷を攻めに行ったのは源泉狙い……つまりエネルギーが欲しかった。それは帝国と戦うためではなく、帝国を招き入れる下準備。なるほどの」


「連邦としては侵略者としての帝国と戦う口実ができる。でも……なぜそんな…」


「そこまでは……でも、明らかに一連の流れがあると思うんだ」



確かに連邦としてエルフと戦う理由はない。だが、源泉の麓で暮らしている村があるのは確かに邪魔である。



「この戦い、長くなりそうですわね」






帝国軍人を楽しませた後、酒場のカウンターにウェラは腰を下ろした。


「ライスワインはありまして?」


「ええのがあるでよ」


マスターは棚から瓶を取り出し、テーブルに置いた。


「まぁ、こんな上質な……よろしいのかしら?私達、旅の途中ですので手持ちは心許ないですのよ?」


「構わにゃぁでよ。そこのドラゴンさんもどうかや」


「ではいただこうかの」



「本当はウェルウィッチアにも飲ませたいのだけど……」


ウェラが言うと、ウェルウィッチアは半ば奪い取るようにグラスを取ると一気に飲み干した。


「ボクはもう指名手配に秒読みが入ってるんです。飲まなければやってられません」


やけ酒かな?


「まぁ、魔女にとってお酒は特別な意味がありますものね」


ウェラが言うには、魔女にとってお酒はブースターの一種らしい。魔力を引き上げるのに効果的だと言う。


さすがにリールは飲むのを断った。流石にまだ早いと思ったからだ。




造船所に行かないと分からないかな


「造船所というか、試験棟ってここから遠いの?」


「町の反対側だがね。一応まっすぐの道があるんだがね……通れーせん」


まぁ、当然封鎖するだろうな。


侵入するにもこの面子では目立ちすぎる。


ウェルウィッチアは赤毛だし、ウェラは金髪で、どちらも輝いている。コーは大人以前にドラゴンだし……リールはエルフだし



「じゃあ、騒ぎを起こして、混乱に乗じて乗り込みましょうか」


ウェラの提案はとんでもない事だったが、それが一番いい、という結論に至った。


「マスター。ハッピーミール」


「ハッピーハンティング」


その返しは予想外だったが、ウェラは笑みを返し、酒場を後にした。






大通りに出ると、複数の帝国軍人が確認できた。特に誰もリールたちを気にしている様子はない。


「騒ぎは任せてくださいませ」


ウェラに任せるのは不安しか無いが



「炎の精霊よ、我が名のもとに集いなさい。その炎は母の如く。顕現せり力は荒波の如く。炎の精霊よ、我がもとに力を示しなさい。―――顕現せよフレイムオーシャン!!」


今まで見たこと無い魔法だった。まるで炎が水のように流れていき、道を飲み込んでいく。



「どうせここの町の住人はほとんど残っておらんしの……」


コーの言葉にリールは衝撃を受けた。


「逃げたの?」



「いいやまさか」


リールの言葉はすぐに否定された。



「くすっ。誰だって殺しは楽しい。楽しめないのは罪の意識があるからですわ。罪の意識が無い者にとって、他の生命を好きにできることほどの快楽はこの地上に存在しませんわ」


ウェラは笑っていた。それは美しくも醜い笑顔だった。


「さぁ、炎よ!欲望を飲み干しなさい!」





「ウェラよ……これはちとやり過ぎではないか?」


コーが心配そうに言う。もはや町中火の海である。確かにフレイムオーシャンである。


「ご安心下さいな。建物の中までは燃えてませんわ」


それは安心できるのだろうか。と、いうか、立っているこの場所を中心に燃えているわけで、この場所は燃えてないとは言え熱い事に違いはない。



「町中が火の海では……相手は飛び出して来ないのではないか?」


てっきり爆発か何かで人を集める事を想像していたコーは困惑していた。


「さて、向かいましょうか」





最初聞いた時は驚いたが、前進を開始すると炎が避けていく。まるで人の波が個人を避けているような……不思議な感じだった。


「さぁ、乗り込みますわよ!」








炎は街までで、その接続道路は兵士でごった返しになっていた。突然街が炎に包まれたら誰だってそうなる。建物の内部から消化のためにかなりの人数が集まっているようだ。リール達は道を外れた場所から建物に近づいていく。この騒ぎだ。誰も気づかなかった。




扉をくぐるとそこは平穏そのものだった。確かに屋内に人はいないようだ。


「あそこが司令棟かしら。何か情報があれば良いのだけど」


「土の精霊よ我名のもとに集いなさい。その硬さは鋼の如く、顕現せり力は炎の如く。―――顕現せよ、コルト・ガバメント!」


リールは言われる前に銃を召喚し、接近遭遇戦に備え、扉を開けた。



「誰もいない、ですわね。これは……何かの図案みたいですけれど……リールは分かりまして?」


ウェラが手渡したスケッチを見てリールは驚いた。


「これは……爆縮レンズじゃないかな……円周上に配置した何かを同時に作動させて中心部に圧力をかけ、大きな破壊力を生み出す爆弾だよ。何を起動するか…ちょっと分からないけど……ウェルウィッチアは分かる?」


「えーと、周囲にベレレ鉱石による魔力放出を利用し、中心部の高濃度圧縮ダスタ鉱石を使うみたいです。ベレレ鉱石は普通の魔石ですけど……ダスタ鉱石は不安定な鉱石で、壁に叩きつけただけで爆発するんです」


そんな物体に魔石で圧をかけ、さらにその物体その物が高濃度圧縮されている―――。


「どこで……使うつもりなの?」


リールが震える声を抑えきれず、思っている事を言葉にした。


「それはここに書いてあるぞ。候補地は17個程だの……この印が打ってある場所が何を意味しているかわからぬが……トリスとチェザと……リムールの都市名に印があるの……ほれ」


リールはコーから書類を受け取り確認した。


「り、リムール!?あ……ぁ…」


書類を受け取った所ウェルウィッチアが口を開いたまま固まっていた。どうしたのだろうか。


「リムール……確かにあそこは良いでしょうね。何せ魔女会の総本部が設置してありますし、火器管制総本部もありますし、何より大規模工廠が幾つもあるし、軍港もありますもの。軍事的に大きな打撃を与えれますわ。特に魔女の総本部を叩けるのは大きいでしょうね」


「い、急がなきゃ……れ、連絡を…」


ウェルウィッチアが普段見せない焦り様だった。ウェルウィッチアにとっては生まれ故郷という意味もある。


「待ちなさいな。まずは物を確認してからですわ」


ウェラに言われ一同はすぐに飛空艇が入れられる程の広い部屋へと入っていく。





「飛空艇を入れておくハンガーかな……あれは?」


リールが回りを見渡し、部屋の奥に置いてあるクレートを指差した。金属製のそれはあまりに不自然だった。一同はそれの周りに集まりそれを見下ろす。


コーは手を伸ばしロックを外すとその蓋を開いた。


「……これが…それなのかえ?」


円筒状の物体。しかし、先程の資料と厳重な箱はそれを想起させるに十分であった。


「一つはここにあるようだけど……3つ入るようになってますわね……のこり2つはどこへいったのかしら」


ウェラがその円筒状の物体を持ち上げ、しばらくしたのち元の場所へ戻した。


「一応無力化できたと思いますわ。魔法ならお任せあれ。しかし、残り2つの行方が気になりますわね……酒場にもどりましょうか。そろそろ、敵兵士が戻ってくるかもしれませんもの」







「マスター、もし、貴方が大火力で都市を吹き飛ばすなら、経済都市と軍事拠点と、政治拠点。どこを狙いまして?能力は2つとして、どこを除外しますか?」


ウェラがカウンターに腰を下ろしながら言う。


「政治拠点かや。もし都市を制圧するなら政治家は残ってて欲しいにゃぁと」

「理由は?」

「軍が残っとったら都市を制圧しても奪還されるやら?自分たちの所有物にするなら今の経済環境は邪魔だから破壊しておきたゃあし、消去法だがや」


やはりリムールは狙われる可能性が高い。宝石の加工はここですると意気地になっていたが、ウェルウィッチアの故郷が吹き飛ぶのは困る。強いストレスは魔力を強化するが、ストレスは当然人格を破壊する。ウェルウィッチアが廃人になったら困る。


「マスターの言う通り、この街にこだわらないでさっさと移動していれば良かったですわ」


「店の裏に馬車と車夫がおるでよ。乗っていきゃぁ。全力でぶっ飛ばせば3日もありゃつくだら」


「マスター。お代はツケておいてくださいませ」


「天使様、ご武運を」




4人は言われたとおりの馬車に乗り込み、ウェルウィッチアの故郷、リムールを目指した。


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